「アイツの守備にはシーズン10勝以上の価値がある」
 いつもは選手に厳しい東北楽天・星野仙一監督が、そう絶賛する内野手がいる。セカンドの藤田一也だ。2012年途中に横浜DeNAから楽天に移籍すると、昨季は「2番・セカンド」に定着。高い守備力に加えて打線のつなぎ役を務め、初のリーグ優勝、日本一に貢献した。今季からは移籍3年目ながら選手会長に選ばれ、名実ともにチームを牽引する。節目のプロ10年目を迎えた守備の名手に二宮清純がインタビューした。
 シーズン途中の移籍がプラスに

二宮: 昨季はチームが日本一に輝きました。その立役者として藤田さんのことを星野監督も随分、褒めていましたね。これは、かなりうれしかったでしょう。
藤田: うれしいですし、自信になりましたね。僕にとって初めて1年間レギュラーとして使っていただいて、チームも日本一になれた。その中で、僕のことを評価していただいたので本当にうれしかったです。

二宮: 昨季の楽天の戦いぶりには非常に勢いを感じました。シーズンが進むにつれて“今年は行ける”という確信が生まれてきたのでは?
藤田: 夏前からチームが試合のたびに強くなっているように思いましたね。4、5月は苦しい時期もありましたが、若手が出てきてチームが波に乗ってきた。「こうやれば勝てる」という感覚をそれぞれの選手が持って、試合に臨めていたのではないでしょうか。

二宮: 絶対的エースの田中将大投手の存在も大きかったですね。レギュラーシーズンは24勝0敗と負けなし。その田中投手の登板時には藤田さんもセカンドで好守を連発しました。コントロールが良いから打球の予測がしやすい面もあったのでしょうか。
藤田: そうですね。将大は三振の取れるピッチャーなのですが、球数を減らすためにピンチの場面以外では打たせて取るピッチングを選択することが多い。だから、セカンドによくゴロが飛んできました。打球を予測する上では、2年前にシーズン途中から移籍してきたのがプラスになりましたね。

二宮: というのは?
藤田: シーズン途中でしたが、半年間、将大をはじめとした、それぞれのピッチャーの特徴やキャッチャーの嶋(基宏)の配球の傾向、パ・リーグの各バッターの打球方向などを勉強できました。それが去年1年間、試合で役立ったと思っています。バッテリーの攻め方が分かるので、思い切ったポジショニングができたんです。

二宮: なるほど。2012年の経験を去年に生かせたと?
藤田: 試合に出させてもらうと、ピッチャーの後ろから嶋の出すサインも分かる。僕は打球方向のデータとかには頼らず、自分の感覚や記憶を頼りにポジショニングを決めるタイプ。だから半年間、試合で情報を集められたのは大きかったですね。

二宮: それまではセ・リーグでプレーしていましたから、パ・リーグの野球には違いがありましたか。
藤田: パ・リーグのほうがセ・リーグに比べると、真っすぐが速いパワーピッチャーが多い。かわすピッチングではなく、どんどんインコースを突いてきます。だから、ポジショニングも左右だけでなく前後を変えるようにしました。インコースの速球に詰まってボテボテのゴロが飛んでくることもあるので、足の速いバッターの時には前で守るようにしたんです。これは横浜ではあまりやらなかったことですね

 やりやすい松井との二遊間

二宮: 好守の裏には、情報の蓄積に基づいた巧みなポジショニングがあったというわけですね。
藤田: 特に田中の場合は攻め方が分かりやすくて、実際にその通りに投げてくれる。ピンチでマウンドに集まると嶋が将大に攻め方を確認して、「ゲッツー狙い」「三振狙い」と決める。その上でゲッツーを狙う時は、嶋が僕と(ショートの松井)稼頭央さんに指示を出して、どう守るかを相談する。「稼頭央さんの方に打たせます」とか、「外へのスライダー中心の配球になるから、藤田さんは一、二塁間寄りに守ってもらっていいですか」といった具体的な話をしていました。

二宮: そこまで決まっていれば、思い切って守れますね。
藤田: こちらからも、嶋に一、二塁間を詰めたほうがいいのか、センターラインを詰めたほうがいいのか、全部、ポジショニングを確認していました。もちろん、すべてが狙い通りにいくわけではありませんが、その確率が高かったので、いい守備ができたのではないかと思っています。

二宮: 田中投手はピンチになると、ギアが入って一段とボールの威力が増し、失投もしません。野手が守っていて集中できるのではないでしょうか。
藤田: 1点取られてもズルズルいかないので、ピンチで守っていて、こちらもグッと気が引き締まりますね。ランナーを溜めた上に打たれて大量失点してしまうと、野手も集中が続かなくなってくる。その意味では、将大は本当に守りやすいピッチャーでしたね。攻撃にも気持ちを切り替えやすいので将大が投げている時に逆転勝ちしたゲームも多かったのでしょう。

二宮: ショートで7度のベストナインに選ばれた実績を持つ松井選手と二遊間を組めたことも守りの面では大きかったのでは?
藤田: 1年間、試合に出させてもらって結果を残せたのも稼頭央さんのおかげだと思っています。稼頭央さんがしっかりバックアップしてくれるから思い切って守れましたし、分からないことは質問できました。最初は試合中もわざわざ近寄ってコミュニケーションをとっていたのが、二遊間を組ませていただくうちに、ゼスチャーで「守備位置、こっちで守ります」といったことをお互いに伝えられるようになってきました。稼頭央さんとのコンビはやりやすいし、楽しいですね。

(第2回につづく)

藤田一也(ふじた・かずや)プロフィール
1982年7月3日、徳島県鳴門市生まれ。鳴門第一高(現鳴門渦潮高)を経て、近畿大時代は関西学生野球リーグで首位打者2回、ショートのベストナインに4度輝く。05年にドラフト4巡目指名を受け、横浜に入団。セカンド、サード、ショートを守れる守備力を買われ、09年、10年には連続で100試合以上に出場する。12年6月に内村賢介とのトレードで楽天へ。徐々に先発機会を増やして同年は63試合ながら打率.308をマークすると、13年はセカンドのレギュラーに定着。自己最多の128試合に出場して打率.275、1本塁打、48打点でチームのリーグ優勝、日本一に貢献した。セカンドのベストナイン、ゴールデングラブ賞も受賞。175センチ、75キロ。右投左打。背番号「6」。








(構成:石田洋之)
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