98年、カズと北沢が外れた時は、大げさではなく、日本中が騒然となったものだった。02年、中村俊輔が落選した時も、結構な騒ぎになった。W杯本大会に出場するメンバーの発表は、もはやそれ自体が一大行事であり、そこから生まれる悲喜こもごもの人間ドラマは、多くのメディアによって取り上げられてきた。
 さて、今回はいったいどんなことになるのか。
 間違いなく言えるのは、今回のメンバー発表は、日本サッカー史上最も困難を極め、また、日本サッカー史上最も多くのJリーガーが注視する選考になる、ということである。

 ほんの数年前まで、海外でプレーする選手は代表の中で特権的な立場を与えられていた。たとえ所属チームで出番がなかろうが、調子を崩していようが、レギュラーの座は保証されている。一方で、Jリーグでプレーする選手たちは、どれほど素晴らしい結果を残そうとも、代表のレギュラーに抜擢されることはまずなかった。

 今回は違う。

 海外でのプレーは、もはや代表での立場を約束するものではなくなった。と同時に、柿谷、山口らが代表の定位置に食い込んだことで、数年前までであればハナから代表入りを諦めていたJリーガーたちが、目の色を変えて代表入りを狙うようになった。かくも多くのJリーガーが本気でW杯出場を目指したことは、かつてなかった。

 とはいえ、ブラジル行きが許される選手の数は決まっている。かつてないほど多くの選手がブラジルを目指すということは、かつてないほど多くの選手が失意を味わうということである。ただ、どんな選手が選ばれ、どんな選手が漏れようとも、それは“事件”ではない。ドラマではあるが、驚愕(きょうがく)することではない。それは単に監督の好みの問題であり、サッカーが成熟した国であればどこにでも起こり得ることだ。

 それが、たまらなく嬉しい。

 Jリーグが発足してから21年が経過した。初めてのW杯出場からは16年が経った。まだまだ世界の頂点は遠いが、しかし、戦いに挑む直前のJリーグからは、W杯で結果を残す国の気配、匂いが漂ってくるようになってきた。

 78年、W杯開催国となったアルゼンチンでは、当時17歳だったある選手の代表入りが取り沙汰され、大論争を引き起こした揚げ句、結局は見送られた。いま、日本でも19歳の南野の代表入りに注目が集まっている。もちろん、現時点での彼とマラドーナを比較することはできないが、それでも、格段の進歩、前進であることは間違いない。

<この原稿は14年4月17日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから