本命 マイアミ・ヒート(第2シード/54勝28敗)

 怪物レブロン・ジェームスとヒートの“歴史との戦い”がスタートする。今季も激戦を勝ち抜いて“スリーピート(3連覇の意味。スリーとリピートを合わせた造語)”を達成すれば、「史上最高の選手になりたい」と目標を語るレブロンのレジュメに大きな勲章が新たに加わることになる。
(写真:レブロンとヒートのファイナル3連覇なるかが最大の注目だ Photo By Gemini Keez)
 2013-14年のヒートの勝率.659は、レブロン、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュの“ビッグスリー”時代が始まって以降では最低。おかげで第1シードを逃し、しかもウェイドが度重なるケガでシーズン中に28戦を欠場するなど、戦況は必ずしも順風満帆ではない。

 しかし……多くの地元メディアと同じく、筆者も少なくともイースタン・カンファレンス内では依然としてヒートが最強と見る。理由はシンプルに、現役最高のオールラウンド・プレイヤー、レブロンを擁しているからだ。

 今季のリーグMVPはケビン・デュラント(オクラホマシティ・サンダー)に譲ることが濃厚だが、それでもレブロンが今まさに全盛期を迎えていることに疑問の余地はない。この5年間で2度目のMVP逸も新たなモチベーションになる。もともと、この時期に照準を合わせてきているだけに、ポストシーズンでもラウンドを重ねるごとに調子を上げる姿をイメージすることは難しくない。

 プレーオフ第1ラウンドで対戦するシャーロット・ボブキャッツに、ヒートは2010年以降は15戦全勝。しかし、その後、対戦が有力なブルックリン・ネッツには今シーズンはなんと4連敗。サイズに恵まれたインディアナ・ペイサーズとも相性の悪さが指摘されるなど、頂点への道は緩やかではない。それでも、最後にはレブロンの神通力と個人技がモノをいうと信じる。

 時に厳しい時間を経験しながらも、マイアミのパワーハウスは4年連続のファイナル進出を決める。そして、ウェスタン・カンファレンスを代表するオクラホマシティ・サンダーか、サンアントニオ・スパーズとの最終決戦に臨むことになるのではないか。

対抗 インディアナ・ペイサーズ(第1シード/56勝26敗)

“打倒ヒート”だけを目標に戦ってきた仕事人集団は、シーズン中はその宿敵を上回る成績を残した。おかげで念願の第1シードを獲得。カンファレンス・ファイナルでヒートとの3年連続の対決が実現し、昨季同様、第7戦までもつれ込んだ場合、天下分け目のゲームを地元で開催できる。

 もっとも、問題はそこまで順調にたどり着けるかどうか。
 序盤戦、好スタートを切ったペイサーズだったが、3月は8勝10敗と失速。内紛の噂が流れ、自慢のディフェンスに綻びが出るなど、ベストからほど遠い状態でプレーオフを迎えることになった。カンファレンス・セミファイナルで厄介なシカゴ・ブルズと対戦すれば、番狂わせの予感も少なからず漂ってくる。

 ただ、それでも筆者は、ペイサーズは勝負の季節に再び一丸となり、ヒートとの再対決にまで駒を進めてくると予想する。
 今季の後半戦を見る限り、彼らがヒートを倒すと信じるのは難しい。しかし、サイズ、守備力といった長所を生かし、目論見通りにシリーズを最終戦まで長引かせることができれば面白くなる。迎える第7戦は、スポーツ界の範疇を凌駕するほどの注目を集める大一番となるだろう。そして、そこで地元インディアナの大声援を糧にポール・ジョージ、ランス・スティーブンソンらが躍動し、序盤からリードを奪うことができれば……。
(写真:序盤はMVP候補と呼ばれたポール・ジョージも中盤以降はやや停滞。大舞台で復調できるか Photo By Gemini Keez)

穴 ブルックリン・ネッツ(第6シード/44勝38敗)

 10勝21敗と厳しい成績で2013年を終えた時点では、デロン・ウィリアムス、ポール・ピアース、ケビン・ガーネット、ジョー・ジョンソンといったビッグネームを揃えたネッツは噛み合ないまま終わるかと思われた。

 しかし、今年1月1日以降は34勝17敗と復調。ロースターに約1億ドルが費やされたスター軍団は、ヒート、ペイサーズを脅かす存在とみなされるまでに評価を回復してきた。

「リーダーシップの存在しないチームだったら、もっと厳しいシーズンになっていたはずだ。クリスマスの時期にはみんなもう(シーズン終了後の)夏のプランでも考え始めていたんじゃないかな。ただ、僕たちは違った。ロッカールームは精神的に強いベテランたちで満ち溢れていて、我慢強く、ポジティブな姿勢で臨んできた。ジェイソン・キッドHCを信じ続けた。おかげで戦況は転換し、チーム全体が成長を続けているんだ」

 ピアースの言葉通り、この上昇は海千山千のベテラン集団だからこそ可能になったのだろう。ピアースは通算136戦、ガーネットは131戦とポストシーズンの経験も豊富だけに、誰にとっても簡単に勝てる相手ではないはずだ。

 第1ラウンドで対戦するトロント・ラプターズも危険なチームではあるが、最終的にはネッツの老獪さが決め手になると見る。そして、ヒートと対戦するであろうカンファレンス・セミファイナルこそが、ブルックリン移転2年目にしてネッツが迎える大勝負となる。

 シーズン中に4戦4勝という相性の良さを考慮した上でも、ホームフィールド・アドバンテージを持つ王者ヒートの有利は否めない。ただ、ネッツがこのシリーズに照準を合わせてきたことを考えれば、短い戦いに終わるとも思えない。

 ネッツにとって必要なのは、デロン・ウィリアムスがエースらしさを見せること、アンドレイ・キリレンコがレブロンを上手くガードすること、そしてピアースが全盛期を彷彿とさせるクラッチプレーで自軍に自信を与えること。
(写真:ヒート撃破のために、デロン・ウィリアムスはネッツの大黒柱役を果たす必要がある Photo By Gemini Keez)

 ボストン・セルティックスの看板として一時代を築いたピアース、ガーネットの両雄は、端的に言って、ヒートを倒すために昨オフ、ブルックリン移籍を決めたに違いない。その思いを、この7戦シリーズで爆発させられるか。

 パワーハウス同士の対決は見どころたっぷり。劇的で華やかなシリーズの実現を、全米のNBAファンが心待ちにしている。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。この3月に最新刊『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)を上梓。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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