3点を奪われたものの、上々のメジャーリーグデビューだ。現地時間4日、ヤンキースの田中将大が敵地でブルージェイズ戦に先発し、7回を投げて勝利投手となった。


 初回、先頭打者のメルキー・カブレラにいきなり右中間スタンドに運ばれた。外角高めに浮いたスプリットだった。
 2回にもエラーがらみで2点を失った。甘いボールは見逃してくれないのがメジャーリーグだ。

 田中が非凡なのは、「修正力」の高さである。4回あたりからストレート主体のピッチングに切り替えた。彼の最大の武器はスプリットだが、ストレートが走ってこそ威力を発揮するボール。スプリット一本槍では見切られてしまう。

 日本人メジャーリーグのパイオニアの野茂英雄がそうだった。調子の良い日はストレートが走っていた。「ストレートあってのフォークボール。ストレートが走っていないとフォークに手を出してくれない」と口ぐせのように語っていた。

 田中に話を戻そう。ある意味、スプリット以上に冴えていたのが左打者へのカットボールだ。要所要所で左打者の内角をえぐった。

 カットボールの名手と言えば、昨シーズン限りで引退した元ヤンキースのクローザー、マリアーノ・リベラだ。彼はこのボールを武器に652ものセーブを積み重ねた。「リベラを超えるクローザーは、この先、もう現われない」とさえ言われている。

 日本では中日の川上憲伸がこのボールの代表的な使い手で、全盛期には巨人の松井秀喜や高橋由伸らを翻弄した。左打者にすれば、手元でキュッと食い込むため、対応は容易ではない。

 150キロ台のストレートと視界から消えるスプリットに、このカットボールが加われば“鬼に金棒”だ。後は打線がどれだけ援護できるか。

「調子が悪い中でも、粘って勝利に貢献できたのがうれしい」と田中。最初に反省材料が見つかったことこそが、最大の収穫と言えるかもしれない。

<この原稿は2014年4月28日号『週刊大衆』に掲載されたものです>


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