二宮: 長期貯蔵のそば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」はソーダ割りのSoba&Sodaもおいしいですが、ロックもおススメなんです。
小島: どれどれ……うん、おいしい。口当たりもまろやかで、余韻を楽しめる。じっくり味わえますね。

二宮: 現役時代に飲む時は、やはり試合後が多かったですか?
小島: そうですね。というのも、GKはポジション的に、そこまで重労働ではないけれど、精神的な高ぶりはすごい。体が疲れておらず、頭は冴えている状態です。ですから、試合後はお酒を飲むと、程よく眠れました。ある意味、コンディショニングのために飲んでいたとも言えますね。ごく稀に試合前日にも飲んでいましたが(笑)。

 衝撃だったエムボマのリフティングシュート

二宮: 現役時代、対戦して一番嫌な選手は誰でしたか?
小島: (パトリック・)エムボマです。クロスボールで競り合って痛かったのは彼だけ。空中でドンと体を当てられて、弾き飛ばされはしなかったけれど、体の側面が無性に痛かったのを記憶しています。あと、かの有名なエムボマのリフティングシュート(97年4月)を決められたGKは、僕なんです。

二宮: そうでしたか。あれは衝撃的でしたね。
小島: 流れの始まりはコントロールミスなんですよ。「コントロールミスしたから大丈夫かな」と思ったら、グッと足を伸ばして、ポンとボールを蹴り上げて、どうにか自分のボールにしてしまった。ものすごい身体能力です。マークについていたのはクラウジオというブラジル人選手。彼もそこそこ身体能力の高い選手でしたけど、エムボマはものともしなかった。僕は経験上、日本人選手はあの体勢からは枠に飛ばせないという予測があったので、「来ないな」と思った瞬間にドーン! 度肝を抜かれたとはこのことです。

二宮: 昨日のことのように頭に浮かびます。他に印象に残っているストライカーは?
小島: ジェフユナイテッド市原時代の城(彰二)君ですね。94年、忘れもしない雨の降る平塚競技場です。ルーキーだった城君が3試合連続で点をとっていて、4試合目がベルマーレだったんです。城君はペナルティーエリアの角のところに抜けてきて、僕と1対1になった。僕は相手は高卒新人だから、「プレッシャーをかければミスするだろう」と考えて、体を倒して、足元にバーンと飛び込んだんです。しかし、城君にあざ笑われるかのように、ダブルタッチでカカッとかわされてゴールに流し込まれた。慌てていたのは僕の方だったんです(笑)。

二宮: あの時の城は体がキレていましたね。ルーキー時代から注目されたと言えば、95年、11クラブからオファーを受け、鳴り物入りでベルマーレに入団した中田英寿。同僚だった小島さんが中田に抱いた最初の印象は?
小島: 1年目は、すごく注目されていたわりに、「こんなものなの?」という感じでしたね。

二宮: ほお、それは意外です。
小島: やはり18歳でプロの世界に入ってきて、体つきもパススピードも違う。その中で、最初はイージーなミスがけっこうあったので、「あれ、こんなものなの?」と。1年目は、シーズン序盤でケガをしてしまったことも大きかったと思います。

二宮: では、徐々に成長していったと?
小島: 順応といったほうがいいかもしれませんね。中田君にとって、Jリーグのパススピードとフィジカル面の中でプレーすることは、通過点でしかなかったと思うんです。セリエAに行く直前のJリーグでは、よほどひどいファールでなければ倒れることはなかった。彼が「ボールをくれ」と言うんだけど、出し手側としては、激しいコンタクトで壊れてしまうのでは、という不安がありました。ある試合では、空中で胸トラップした時に後ろからドンと押されて、中田君は手をついただけで、そのままプレーを続行した。それ見た時に「うわ、すげえな」と(笑)。

二宮: そのレベルに達するまでには、尋常ではない努力があったのでしょうね。
小島: そんな彼でも、セリエAでは当たり負けするんですから、世界は広いですよ。僕のお袋が「中田君はまだまだだねぇ。イタリア行くとすぐに転んじゃうもんね」と言っていました。いやはや、素人は一番怖いこと言うなと(笑)。

 日本人GKがビッグクラブで成功する条件

二宮: 現在、香川真司がマンチェスター・ユナイテッド、長友佑都はインテル、本田圭佑はACミランと、日本人選手がいわゆるビッグクラブでプレーしています。しかし、日本人GKがその位置にたどり着くまでには、まだ時間がかかりそうですか?
小島: そうですねぇ……。まず、ひとつは、言葉の壁が挙げられます。GKはコミュニケーション能力がすごく重要なポジション。味方と円滑なコミュニケーションがしっかりとれることがレギュラーでプレーする大前提になってくるんです。

二宮: 確かに。ピッチ上に通訳はいないわけですからね。
小島: ゴールはひとりでは守れません。結局、GKが90分の中でボールに触る時間は、どんなにシュートを打たれても、せいぜい5分くらい。では、それ以外の時間に何をしているかというと、シュートを打たれないための準備をしているんです。味方とコミュニケーションをとって、マークの確認をしたり、ポジションの位置を修正したり。GKにはコミュニケーション能力がフィールドプレーヤー以上に必要だと思いますね。あとは存在感も重要です。

二宮: 存在感ですか。
小島: 僕は自分が現役の時は、世界とはそこまで差がないと思っていました。しかし、ピッチから離れて日本と世界のGKを比べてみると、技術的には差がないかもしれないけど、存在感ではすごく差があるように感じるんです。オリバー・カーン然り、マヌエル・ノイアー然り……。

二宮: 2人ともドイツを代表するGKです。
小島: 仮にノイアーと対峙して、やはりFWはどこかでビビるところがあると思うんです。それが、川島だと、相手が恐怖を感じることはないのではないでしょうか。世界トップレベルの選手と比べるのは酷かもしれません。しかし、日本がさらに上を目指すのではあれば、そういったところも必要なのかなと感じますね。

二宮: 日本では、体の大きい子供は野球をやる傾向がまだ多い。190センチを超える日本ハムの大谷翔平、阪神の藤浪晋太郎あたりがGKをやっていたら有望だったでしょうね。
小島: マー君(田中将大、ヤンキース)とかね。彼らのような人材が、早いうちにサッカーをしていれば、おもしろいですよね。そのためには、GKがすごく魅力的な職業だとアピールしないといけない。キャプテン翼の作者・高橋陽一先生に、「GKの登場人物がもっと子供たちに憧れられるようにしてください」とお願いしないといけないですね(笑)。

二宮: ちなみに、小島さんが憧れたGKは?
小島: 最初は西ドイツのゼップ・マイヤーです。僕の中で、「西ドイツのGKが最強」というイメージがありました。マイヤー以降では、ハラルト・シューマッハーも好きでしたね。あとはソ連のリナト・ダザエフも印象に残っています。

二宮: “鉄のカーテン”の異名をとった名GKですね。
小島: ダザエフは身長187センチで、体重が70キロほどしかなかったんです。元オランダ代表GKのエドウィン・ファンデルサールよりもヒョロっとした風貌でした。僕もGKを始めた時は身長184センチ、体重は60キロ台。もうヒョロヒョロです。その時に、似た体格のダザエフが世界大会で活躍しているのを見て、「こんな体格でもいいんだな」と自信を持ったのを覚えています。

 GKとクローザーの共通点

二宮: 小島さんが考えるGKの条件とは?
小島: 一番は人間性でしょう。要するに、失点した責任を全部自分で背負いこめるだけの責任感があるかどうか。まずそこがないと、他人のせいばかりにしていたら仲間から信頼されない。信頼があってこそ、初めて共同作業ができるんです。その意味では、僕に一番足りなかったところですよね(笑)。

二宮: そんなことはないでしょう。でも、確かにGKはDFのラインが乱れようが、ミスしようが、失点すればすべての責任を背負わされる。人間性が試されるポジションですね。
小島: その分、やり甲斐は人一倍ありますけどね。たとえば、1対0で勝てば、1点取った選手がヒーローとして注目を浴びますが、僕の中では、GKの試合です。


二宮: なるほど。1点も与えていないわけですからね。ただ、どこかで息抜きしたり、ストレス発散することも必要でしょう?
小島: その辺をうまく消化する器用さも必要でしょうね。

二宮: その話を聞いて、野球の大魔神こと佐々木主浩の話を思い出しました。彼は「失敗した時は、酒を飲んで忘れる。引きずっちゃいけない」と言っていた。その意味でGKと野球のクローザーの役割は似ているのかもしれないですね。
小島: そうかもしれません。僕も、現役時代はお酒を飲みながら「こうしておけばよかった」というシーンだけは多少覚えておいて、それ以外は忘れていました。だって次の試合でプレーできないですからね。いいプレーのイメージは残して、反省しなきゃいけないところは反省しながら、都合の悪いところは忘れる。そうしないと、GKなんて絶対にできないです。

二宮: 忘却力も必要なわけですね。しかし、GKに必要な条件が、人間性というのは奥深い。
小島: 僕はそう思います。だって、努力は無限にできるわけです。自分の身長が低ければ、大きい選手と対等に渡り合うためにどうするか。その方法を探せるか探せないかを分けるのは、人間性ではないでしょうか。GKのみならず、「練習がきついから、今日はこのくらいにしとこうかな」と考える選手はあまりうまくならない気がします。

 GK泣かせのボール“ジャブラニ”

二宮: GKの技術と切っても切れない関係なのが、ボールです。近年はより円球に近付き、10年南アフリカW杯公式球「ジャブラニ」は空気抵抗を生むパネルが8枚しかありませんでした。それがブレ球が増加した要因のひとつと言われています。
小島: ジャブラニは、GK泣かせのボールでしたよ。相手が蹴ったGK真正面のシュートが、急激にブレるんですから。まず、道具を良くしようという背景には、得点を入れさせようという狙いがあるわけです。FIFAもルールを得点が入りやすいように改正する。みんなが得点を入れさせようとする中で、GKだけですよ、ピッチの中でそれをさせまいとする人は(苦笑)。

二宮: ジャブラニが使用されて、ブレ球をGKが弾いて、それを押し込まれる、というシーンが増えました。不確実性が多過ぎるボールでしたね。
小島: あんなに変化するボールは、技術というところでは逆に後退させてしまうと思いましたね。昔のボールでは、本当にキック力と精度を高いレベルで備えている選手しか、ブレ球は蹴られなかった。山口素弘(現横浜FC監督)や中田英なんかは、蹴り足を左側に振りながら、足首の角度だけを変えてシュートは逆方向に打っていました。GKは足を振る方向から予測して左側に体重をかけるものだから、逆をとられるんです。それが、今はキッカーが右に蹴ろうとしたボールが、不規則に変化してしまう。

二宮: 木村和司や中村俊輔など、本当に技術のある人が蹴るからこそ、FKも値打ちがあるというものです。
小島: キッカーとGKの駆け引きだったりが、サッカーの醍醐味でもあるんですけどね……。やはり、選手の技術を向上させるためにはもうちょっとボールの構造を考えたほうがいいのではないでしょうか。

二宮: FKといえば、元ブラジル代表のロベルト・カルロスの“悪魔の左足”が頭に浮かびます。小島さんは、ロベカルのシュートを体感していますよね。
小島: 僕が代表で初めて出て、失点したのがロベカルのシュートでした。95年のアンブロカップ、ペナルティーエリア内の角度がないところから左足を振り抜かれました。実は失点の場面では、僕は止められると思ったんです。角度がなかったし、距離も多少あった。止められないにしても、体のどこかには当てられるだろうと。それが、ロベカルが蹴った瞬間、ボールが左脇の下を抜けていた。

二宮: 左手を下ろす時間さえもなかったということですか……。
小島: 衝撃でしたね。日本では経験したことがないシュートでした。だからこそ、試合後、「もっと強いボールを止められるようにしないとダメだ」と考えを改めることができた。ロベカルのシュートを体験していなかったら、練習方法もそのままで、自分の努力の仕方の甘さに気付けなかったでしょうね。

二宮: 小島さんの貴重な経験を是非、後進に伝えてほしいものです。今後、監督を目指すお考えは?
小島: 公認S級ライセンスを取得しているので、やりたい気持ちはあります。ただこればかりは、経験を積んで、下から這い上がっていくしかないと考えています。

二宮: ブラジルW杯が終わったら、また「那由多(なゆた)の刻(とき)」を飲みながらサッカー談義に花を咲かせましょう。
小島: 楽しみにしています。僕の場合、おいしいお酒が目的になりそうですが(笑)。

(おわり)

小島伸幸(こじま・のぶゆき)
1967年1月17日、群馬県生まれ。新島学園高―同志社大―平塚(フジタ時代含む)―福岡―草津。平塚では94年からレギュラーとしてプレーし、同年の天皇杯制覇に貢献。99年に福岡へ移籍。02年からは故郷にある当時は群馬県1部に所属していた草津(現群馬)へ。04年、草津をJ2昇格へと導き、翌シーズン限りで現役を引退した。日本代表には95年に初選出され、同年6月のアンブロ杯ブラジル戦でA代表デビュー。その後もコンスタントに招集され、98年フランスW杯メンバーにも選出された。現在は解説者としての活動のみならず、08年から日本大学サッカー部のコーチも務めている。12年にはJFA公認S級コーチライセンス取得。身長187センチ。J1通算239試合、J2通算23試合、国際Aマッチ通算4試合出場。

★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。また、ソーダで割ると樫樽貯蔵ならではの華やかなバニラのような香りとまろやかなコクが楽しめます。国際的な品評会「モンドセレクション」2014年最高金賞(GRAND GOLD QUALITY AWARD)受賞。

提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
Suginoko(すぎのこ)青山店
東京都港区北青山3−8−12 3階
TEL:03-3797-7758
営業時間:11:30〜14:30(月〜金のみ)、17:30〜23:30(22:30ラストオーダー、年中無休)

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 小島伸幸さんの直筆サイン色紙を長期貯蔵本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」(720ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「小島伸幸さんのサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は6月12日(木)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回の小島伸幸さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成・鈴木友多/写真・杉浦泰介)


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