明けない夜はない。止まない雨はない。
 そうは言うものの、四国初のJ1クラブ徳島ヴォルティスがJ1初勝利をあげたのは開幕から10試合目の4月29日である。難産の末の勝ち点3だった。
 甲府で初勝利を目の当たりにした徳島県サッカー協会専務理事の逢坂利夫は、試合後、相手サポーターから「おめでとうございます」と声をかけられたという。「それもひとりじゃないんですよ。次から次に。こういうことは、あまりないんじゃないでしょうか」

 第14節が終わった時点で勝ち点4。得点3に対し、失点33。もちろん成績はダントツのビリ。

 戦前から苦戦は予想されたことだが、ここまで勝てないとは…。シーズン前半を振り返って監督の小林伸二は語る。「想定していた以上にJ1のチームとは走るスピード、プレーのスピード、考えるスピードに差があった。失点が多いのはボールに“行けない”から。ミスを怖がるから足が動かない。無理して行くと抜かれる。この部分を改善して、サッカー全体の質を上げていかなければ…」。幸いなことにJ1のリーグ戦にはW杯ブレイクが9週間ある。「前半の14試合で少しずつではあるが選手たちはJ1のスピードに慣れてきた。これ以上、悪くなることはないのだから、後半戦は思い切って戦う」

 参考までに紹介すれば、VORTISとはイタリア語で渦を意味するVORTICEをもじったもの。鳴門の豪快な渦潮をチームが理想とするイメージに重ねる。VORTISのTは土佐(高知)、Iは伊予(愛媛)、Sは讃岐(香川)を意味するとの説もあり、「四国の盟主」という金看板を背負って2005年にJリーグ(J2)に参入した。四国の出身者として私は密かにJ1での健闘を願っていたが、このままではJ2降格は避けられそうにない。これからは文字どおり背水の陣である。

 Jクラブ、特にローカルのそれは子どもを育てるようなものだと思っている。いきなり立て、走れと言っても、土台無理な話だ。寝返りを打ったり、ハイハイしながら時間をかけて成長していく。

 問われるのはクラブに関わる人たち全ての我慢のコンセンサスである。辛く苦しい日々を共有した時間は、やがて強い絆を生む。選手、監督、フロントはもちろん、行政、支援企業、サポーターも含め、徳島全体が試されている。

<この原稿は14年6月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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