11日現在、群馬ダイヤモンドペガサスは18勝9敗1分で、上信越地区の首位をキープしています。残り8試合で2位・新潟アルビレックスBCとは2ゲーム差。いよいよこれからが正念場です。チーム状態は試合を重ねるたびに良くなってきています。特に打線は好調で、チーム打率は3割1分7厘とリーグトップです。連敗が引き分けをはさんでの1度しかないというのも、打線に因るところが大きいですね。
 打線が好調である要因は、個々の能力の高さに加えて、普段から具体的なテーマを設け、どんな時にも対応できるようなバッティング練習を行なっているということが挙げられると思います。例えば、外角を狙っているとします。しかし、実際に来たボールが狙っていたところよりも内側に入ってきた時に、どうするか。打ちにいくのか、それともカットするのか。いつでも瞬時に判断して反応することができるようにしておくのです。こういう練習をしているからこそ、群馬の打者は内外角問わずに甘い球が来たら打つことができるのです。

 打線好調のワケ

 打線の柱となっているのは、フランシスコ・カラバイヨ(アストロズ−トルネードズ−高知ファイティングドッグス−群馬−オリックス)とアレックス・ラミレス(インディアンス−パイレーツ−東京ヤクルト−巨人−横浜DeNA)の2人です。BCリーグに復帰した昨季、前期はなかなか調子が上がらなかったカラバイヨですが、後期に入って本来のバッティングを取り戻しました。そのいい状態のまま、今季はシーズンに入っており、開幕から安定したバッティングを見せてくれています。現在、打率(4割4分5厘)、本塁打(17本)、打点(43)の3冠です。

 一方、今季加入したラミレスは開幕当初こそ、あまりいい動きが見られなかったものの、暖かくなってきてからは本来のバッティングを見せてくれています。現在、打率(3割3分3厘)、本塁打(3本)、打点(24)でリーグベスト10に入っています。

 また、打撃コーチを兼任しているラミレスは、選手たちにも自分から積極的に声をかけてくれています。
「狙い球をしっかりと打っていきなさい」
「ライナー性を心がけなさい」
「ボール球の後の球をしっかりと狙いなさい」
 とアドバイスもシンプルでわかりやすい。何といってもNPBの名球会に入った大打者ですから、日本人選手たちもいい刺激を受けていることでしょう。逆に言えば、せっかくそんな選手が身近にいるわけですから、選手たちの方からもっと積極的にラミレスから学ぼうという姿勢が欲しいなと思います。

 もちろん、カラバイヨとラミレスの2人だけではありません。日本人選手の活躍も光っています。特にいい仕事をしてくれているのが、安田権守(早稲田実業高−早稲田大−TOKYO METS)、井野口祐介(桐生商業高−平成国際大−富山サンダーバーズ−群馬−スーシティ・エクスプローラーズ)、茂原真隆(前橋育英高−日本体育大<中退>)です。

 1番・安田は四球がチーム最多の19を数え、打率も3割3分と、出塁というトップバッターとしての役割をしっかりと果たしてくれています。また、ベテラン井野口は長打力に加えて足もあり、勝負強さはカラバイヨやラミレスにも劣っていません。そして今季加入した茂原は、打率こそ2割6分7厘ですが、「ここで1本欲しい」というところで打ってくれる頼りがいのある打者です。

 私が打線の勢いを最も感じたのは5月10日の信濃グランセローズ戦と、30日の新潟戦です。10日の信濃戦は3回表を終えた時点では1−8と劣勢に立たされていたのを、最終的には12−12のドローに持ち込みました。そして30日の新潟戦は4回表を終えた時点で0−6でしたが、7回裏に大量6得点を奪うなどして9−6と逆転勝ちをしたのです。自分たちが自信を得たと同時に、相手にはどんなにリードしていても「いつ追いつかれるかわからない」という怖さを植え付けられたことでしょう。

 栗山、課題はマウンドにあり

 さて、課題となるのはやはり投手陣です。チーム成績を見ると、防御率(3.48)は新潟に次いでリーグ2位ではあるものの、四死球の多さが目立ちます。どちらもリーグ最少である新潟と比べると、その多さは一目瞭然。四球は新潟62に対し、群馬は98。死球は新潟13に対し、群馬は28です。

 四球に関しては、少し慎重にいきすぎているのかなと感じています。一方、死球ですが、内角を攻めようとしたボールが抜けてしまったり、あるいはそれだけの制球力がないという証拠でもあります。ただ、裏を返せば、果敢に内角を攻めようとする姿勢はあるということでもあります。やはり内角を突くことによって、打者は体勢を崩しやすくなりますから、外角で勝負するためにも内角へのボールは必須なのです。今後も攻めの姿勢をかえることなく、制球力を高めていってほしいですね。

 昨年、自身初の2ケタ勝利を挙げ、今季もエースとして期待していた栗山賢(日本文理高−鷺ノ宮製作所)ですが、9試合を投げて2勝2敗1セーブ、防御率4.02と、なかなか波に乗ることができていません。昨季、課題としていた体重移動の際の骨盤の使い方に関しては良くなってきているものの、やはり腕よりも先に頭が突っ込んでしまい、リリースポイントが早い。そのため、打者からするとボールが見やすいのです。

 原因はプレートの足のかけ方にあります。本来は、足が地面に平行にならなければいけないのですが、栗山は、「投げやすい」という理由で、右足の小指をプレートに、親指を土につけ、傾斜がつくようにかけているのです。これでは、軸足に体重が乗り切る前に、頭が前に突っ込んでしまうのは当然です。もちろん、このプレートのかけ方でも、しっかりと軸足に体重を残しながら、腰の部分から前にいくような投げ方ができればいいのですが、栗山はそうではないのです。特に疲労がたまってくると、顕著に表れます。

 何度も指摘はしているのですが、なかなか直すことができません。球場によっては深く掘れているマウンドもあり、投げにくいと言うのです。ただ、このままでは勝ち星を伸ばすことはできないのは明らかです。やはり、本人の自覚が必要でしょう。

 さて、いくら打線が好調とはいえ、水ものであることには変わりありません。やはり野球は守りからリズムをつくるのが基本です。そのためには、バッテリーを含めた守りが重要で、いかに相手を最少失点に抑えることができるかがポイントとなります。今後は、キャッチャー宇佐美司(高崎工業高−ナカヨ通信機)を中心に、しっかりと守備を強化していきたいと思っています。

川尻哲郎(かわじり・てつろう)>:群馬ダイヤモンドペガサス監督
1969年1月5日、東京都生まれ。日大二高、亜細亜大、日産自動車を経て、94年にドラフト4位で阪神に入団。2年目にプロ初勝利を挙げると、翌年には自己最多の13勝(9敗)をマーク。98年5月26日の中日戦で史上66人目となるノーヒットノーランを達成し、同年オールスターゲームにも出場した。2004年に近鉄に移籍し、翌年には楽天へ。05年シーズン限りで現役を引退した。13年より群馬の投手コーチを務め、今季より監督として指揮を執っている。
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