信濃グランセローズは開幕5連勝と、後期は幸先いいスタートを切ることができました。特に前期は2勝7敗と大きく負け越した新潟アルビレックBCに3連勝したことは、チームにとって大きかったですね。昨年から新潟に対して苦手意識があったというのが正直なところでしたが、これで選手たちは大きな自信を得たことでしょう。
 新潟戦を含めて5連勝することができた最大の要因は、やはり先発ピッチャーにあります。前期は主戦として期待していた有斗(所沢商業高−東京国際大)、ルーク・グッジン(米国)が故障で戦線を離脱してしまったこともあり、先発投手が試合をつくることが難しかったのです。序盤で大量失点を奪われることも少なくなく、打線はある程度得点していたのですが、やはり試合の途中で集中力が切れていた部分は否めませでした。故障した有斗やルークの穴を、他のピッチャーが埋めてくれることを期待しましたが、なかなかうまくいきませんでした。

 しかし、後期は有斗が故障から復帰し、オズワルド・ロドリゲス(ドミニカ共和国)が加入、そしてベテランの杉山慎(市立船橋高−日本大学国際関係学部−全足利クラブ)が前期に続いて安定したピッチングを見せてくれています。先発投手が6、7回まで試合をつくることで、攻撃や守備にも粘り強さが出てきており、終盤に逆転したり、チャンスでいいプレーが出たりと、チームの歯車がかみ合っています。

 実は前期終了後、チームでミーティングをした際に、今季チームの方針として取り入れた制約を取りやめ、後期はある程度、自由にすることにしました。例えば、朝礼です。これまでは毎日、朝礼でその日の練習や試合での意気込みを発表していました。もちろん、これがプラスに働いた選手もいます。例えば、西田崇晃(神港学園高−大和侍レッズ−紀州レンジャーズ)。朝礼で意気込みを発表することによって、次第に人前で発言できるようになり、メンタル面での成長がプレーにもいい影響を与えたのでしょう。昨季、2割1分6厘だった打率は、今季は現在2割6分9厘まで上がっています。守備でもミスはあるものの、時折NPB並みの大ファインプレーを見せてくれるのです。

 しかし、朝礼で何を言うかがプレッシャーとなり、練習や試合の入り方がうまくいかなかった選手も少なくありませんでした。本来であれば、選手たちで楽しく発表するような雰囲気がつくれれば良かったのですが、私の力不足もあり、どうしても“やらされている感”があったのだと思います。そこで、そうしたプレッシャーとなっているものを外したのです。それが功を奏している部分もあるのでしょう。

 ベテラン杉山の成長

 しかし、5連勝後は4試合勝ち星がついていません。それでも、内容としては悪い試合が続いているわけではありません。例えば、18日の群馬ダイヤモンドペガサス戦は、新加入のロドリゲスが初登板し、5回2/3を2失点と、先発としての役割はきっちりと果たしてくれました。結果的には最終回に抑えがサヨナラ3ランを打たれて負けはしたものの、ロドリゲスのピッチングに関しては今後、先発の柱のひとりとしてやってくれるに違いないという手応えをつかむことができました。

 ロドリゲスは最速148キロのストレートだけでなく、スライダー、カーブといった変化球もいいピッチャー。低めへのコントロールがいいので、安定しています。また、メジャーリーグの2Aや独立リーグでプレーするなど経験豊富で、ピンチの時も非常に冷静でいられるピッチャーです。これまでフランシスコ・カラバイヨ(ベネズエラ)やアレックス・ラミレス(ベネズエラ)クラスの強打者と何度も対戦していますので、私も安心してマウンドを任せることができます。

 また、20日の新潟戦では、9回裏の土壇場で追いつき、延長10回の末に2−2の引き分けにもっていくことができました。同点タイムリーを放った涼賢(長野日大高)はもちろんですが、先発した杉山が9回を7安打2失点と好投したからこそのドローでした。実は、杉山は次のステージへと踏み出すため、昨年10月に一度、自主退団しているのです。しかし、現役生活最後にお世話になったグランセローズを優勝させたいという気持ちから、チームに復帰してくれました。現在、4勝3敗、防御率2.48とチーム一の安定感を誇っています。先発投手に故障が続いた前期、この杉山の存在は本当に大きかったのです。

 杉山はもともと力のあるピッチャーですが、私自身はもっと活躍できると感じていました。そのために必要だったのが低めへの制球力。杉山はピンチになると、力みが生じ、勢いまかせで投げるクセがあり、そうすると球が上ずって痛打されたり、四球で自滅したりしていたのです。しかし、今季は「低めに投げさえすれば打たれない」ということがわかったのでしょう。ピンチの時も、自分の気持ちをコントロールし、冷静に投げることができています。「9割5分はメンタルですね」という言葉からも、杉山の成長が窺えます。

 杉山は率先して練習し、行動でチームを引っ張ってくれる頼もしいベテランです。前期を終えてのミーティングでも「もっと危機感をもってやる必要がある」とはっきりと言ってくれました。他人に依存するところが抜け切れない若手にも、この言葉は響いたに違いありません。

 今月には、将来が楽しみなピッチャーも加入しました。今年3月に高校を卒業したばかりの伊藤一(富士見高)、19歳です。186センチの長身から、勢いのあるボールを投げるピッチャーで、6月のトライアウトでは140キロ台を連発。物怖じしない性格で、メンタル面での強さもあります。今から将来を見据えたトレーニングをしていくことで、ゆくゆくは先発完投型のピッチャーとして活躍し、ぜひ最多勝を獲ってほしいですね。もちろん、NPBに上がるだけの素質はありますので、今後の成長に期待してほしいと思います。

 期待したい若手の台頭

 さて、22日に発表されたばかりですが、プレーイングコーチの小林宏之(春日部共栄高−ロッテ、阪神、エンジェルス−群馬)が埼玉西武に移籍することが決定しました。今季はリリーバーとして26試合に投げ、2勝1敗1セーブ、防御率1.26とチームを支えてくれまていました。

 全盛期のロッテ時代と比べることはできませんが、それでもBCリーグではやはりレベルが違いました。正直、「何でこのリーグにいるんだろう?」と不思議に思ってしまうほど、真っ直ぐの球威も戻ってきていましたので、「うまくいけば、今季はNPBに復帰できるかもしれない」と密かに期待していました。「全力疾走」など、チームのルールもきちんと守ってくれていましたし、野球への真摯に取り組む姿は、他の選手にも大きな影響を与えていたことは間違いありません。

 もちろん、彼に抜けられるのはチームにとって大きな痛手です。しかし、BCリーグは上を目指した選手が集うチャレンジの場。ですから、またひとり、信濃からNPB選手が輩出できたことは、本当に嬉しいことです。そして、チームを去る選手がいるということは、それだけ若手にはチャンスが増えるということでもあります。「小林さんが抜けて、チームは大丈夫かな?」と不安になるのではなく、「よし、チャンスだ。頑張って、アピールするぞ」という気持ちを持ってほしいですね。

 日本列島も次々と梅雨が明け、いよいよ夏本番を迎えようとしています。夏場にスタミナが落ちてしまうチームは、大事な試合で接戦をモノにすることができず、優勝争いから脱落していきます。そのために健康管理は非常に重要です。夏こそしっかりと栄養を摂り、十分な睡眠をとること。そして、お風呂はシャワーで済ますのではなく、40度ほどの少し熱めのお湯に10分ほど浸かると、疲労の回復具合がまったく違います。こうしたことを毎回、ミーティングで選手に伝えています。選手自身がやるかどうかは本人のやる気次第。「何のためにこのリーグにいるのか」を考えれば、自ずと答えは出てくるはずです。

 前期は最下位と残念な結果に終わりましたが、後期はぜひ球団初の地区優勝、そしてリーグ優勝、さらには、独立リーグ日本一へと上り詰めていくことが目標です。そして、応援してくれるファンと優勝の味を分かち合い、苦労して球団を創設してくれた三沢今朝治代表取締役社長や飯島泰臣取締役副社長を胴上げしたいと思います。

大塚晶文(おおつか・あきのり)>:信濃グランセローズ監督
1972年1月13日、千葉県生まれ。横芝敬愛高、東海大、日本通運を経て、97年、近鉄にドラフト2位で入団。セットアッパー、クローザーとして活躍し、2001年には12年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。02年オフ、中日に移籍。翌オフにポスティングシステムで念願のメジャー入りを果たす。04、05年はパドレス、06、07年はレンジャーズで活躍した。06年第1回ワールド・ベースボール・クラシックではクローザーとして5試合に登板。決勝では8回途中から登板し、胴上げ投手となった。13年、信濃グランセローズに入団。14年より監督を務める。
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