メッシが出現する以前の「世界最高のスター」と言えば、多くの人が彼の名前をあげたはずである。
 ロナウジーニョ。
 母国ブラジルに戻ってプレーしていた彼がアトレチコ・ミネイロを退団するというニュースを聞いた。年齢からして引退なのかと思ったが、「彼は42歳までプレーする」という代理人のコメントも紹介されていた。
 では、どこで?

 どうやら、いまのところ獲得に動いているのは米国のMLSとオーストラリアのAリーグらしい。一昔前、欧州の記者の中にはJリーグを「ロートルのスターが集まる年金リーグ」と揶揄(やゆ)する人間がいたが、いまや、選手生活の晩年を過ごす場として日本を選ぶ選手はほぼ皆無となった。というより、Jリーグの側に、スターを取りにいこうという発想がなくなってしまっている。

 先日、インド・リーグでプレーしている知人と会った。

「凄いことになってますよ。今度スーパーリーグっていうのが発足するんですけど、スペイン代表のルイス・ガルシアとか、かなりの大物がきますから」

 聞けば、通常の国内リーグの開幕前に、国内のスターに加え、世界から大物選手を加えた顔ぶれを全部シャッフルし、ドラフト方式で集められた選手たちが新チーム、新リーグを結成して短期間のスプリント勝負を行うのだという。当然、国内リーグでプレーする選手の中にはドラフトから漏れ、プレー機会を失う選手も出てくるが、それも「インドのサッカーが盛り上がるためなら」と納得しているのだとか。

 率直に言って、インドのやり方は代表チームの根幹たる国内リーグを滅ぼしかねない危険と、1国1協会を重視するFIFAの規約に抵触している可能性もあるが、それでも、昨今のJリーグからは大幅に失われてしまった、「サッカーは興行である」という哲学が強くある。代表チームはペナルティーを受けるかもしれないが、スーパーリーグが大変な盛り上がりをみせることは間違いない。

 バルセロナは世界で最も美しいサッカーをするチームの一つだが、このオフ、ウルグアイのスアレスを獲得した。例の噛(か)み付き騒動の罰として、数カ月間はプレーできない選手を、なぜバルサは獲ったのか。興行だから、である。サッカーが美しいだけではお客さんは見に来てくれない。常に新しい客寄せパンダが必要だということを、彼らは熟知しているのだ。

 ディズニーランドは定期的に新アトラクションを導入する。ユニバーサル・スタジオはハリー・ポッターの人気にあやかろうとした。入場者を維持し、また開拓するためには、新たな魅力が必要だからだ。

 翻ってJリーグは、何の人気にあやかろうとするのだろう。このままでいけば、Jリーグの「身の丈」は、アジアの中でも埋没する。

<この原稿は14年7月31日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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