「代表のユニフォームを着て、初めて君が代を聞いた時は鳥肌が立ちました」
 2013年8月、南野亜里沙は日本女子代表としてロシア・カザンで開催されたユニバーシアード(ユニバ)に臨んだ。中学3年生の時は、U−15日本女子代表候補になったものの、最終メンバーには残れなかった。それだけに、南野にとって念願の代表初選出だった。しかし、彼女は嬉しさと同時に、ある悔しさも味わっていた。南野はユニバ代表では関東学園大で務めていたFWではなく、DFとして選手登録されたのだ。
 消化不良に終わった初の国際舞台

 聞けば、代表選考会の時から、サイドMFやDFとしてプレーしていたという。つまり、南野はユニバ代表の首脳陣には、少なくともFWとしてのプレーを評価されていなかったのだ。
「自分としてはFWで勝負したいという気持ちがあったので、DF登録は悔しかったですね」
 南野は当時の心境をこのように振り返った。一方で、関東学園大監督・山口重信は南野のユニバ代表選出を「すごいこと」と称えた。それは南野が本来のポジション以外のプレーで、ユニバ代表の座を掴むことができたからだ。これは彼女のサッカーセンスの高さを証明しているといえるだろう。山口は「南野のオールラウンド性が評価されたのではないでしょうか」と選出理由を分析した。

 かくして南野はサッカー人生初の国際大会に臨んだ。ユニバでは、世界レベルを文字通り、肌で感じた。外国人選手のスピード、パワー、リーチの長さ。南野が「日本でプレーしている時には経験できない」と語る環境がそこにはあった。自分と同じアタッカーの選手もやはりレベルが高かった。
「外国の選手はひとりでも仕掛けられて、局面を打開できます。それでいて、味方を使ったコンビプレーもできる。総合的に個のレベルが高かったですね」

 日本は同大会を5位という成績で終えた。南野は5試合中2試合に出場したが、いずれも出場時間は短く、消化不良の内容だった。
「(代表に)また選ばれたい、試合に出たいという気持ちが強くなりました」
 そして、次こそはFWとして――南野は日の丸への思いをさらに強くし、関東学園大へと戻った。

 得点女王の肩書きを携えて

 南野は大学最後の関東大学女子サッカーリーグ(関カレ)で、ユニバでの鬱憤を晴らすかのようにゴールを量産し、チーム史上2度目の3位に貢献した。全9試合に出場して12得点。2度のハットトリックも記録した。その結果、前シーズンでは惜しくも届かなった得点女王のタイトルを手にした。
「チームとして勝つことを目標にして、その延長でタイトルをとれたことが嬉しかった」
 南野はこのように当時の喜びを語った。山口も教え子に賛辞を惜しまない。
「素晴らしいストライカーが他の大学にもいる中で、FWになって1年あまりの南野が得点女王になった。本当に大したものですよ」

 関東大学女子サッカーでナンバーワンになったストライカーを、なでしこリーグに所属するチームは放っておかなかった。南野には1部、2部の複数のチームから入団オファーが届いた。その中に、現在所属するノジマステラ神奈川相模原があった。
 実は、南野は同年10月に行われた皇后杯関東予選で、ノジマステラと対戦している。結果は1−4で敗れたものの、彼女はゴールを決めるなどして実力の片鱗を示した。これが、菅野将晃監督の印象に残ったのだろう。関カレが終了した11月、南野のもとにノジマステラからオファーが届いた。彼女は山口から菅野の「ぜひウチに来てほしい」という言葉を伝えられたのだ。そして、練習に参加して彼女はノジマステラへの入団を決意した。

「仕事と練習環境、チームの雰囲気、スタッフと選手の関係性など、すべての面に魅力を感じました。また、なでしこリーグへ昇格する実力を持ったチームであることも大きかったですね」
 南野はノジマステラ入団への決め手をこう明かした。

 入団1年目の今季、レギュラーとして全試合に出場し、11ゴールを挙げる活躍でチームに貢献している。並みのルーキーならば、称賛されてもいい成績だろう。しかし、菅野の南野に対する期待は大きい。
「今の成績は期待していたより、下ですよ(笑)。南野ならもっと点を取れたと思う。まだまだ、決めきれない時があります。最後のところのシュート精度を高めていけば、なでしこジャパン入りも視野に入ってくるでしょうし、南野にはその思いをもってプレーしていってほしいですね」

 もちろん、南野自身も現在の結果に満足はしていない。
「なでしこリーグに昇格するために、もっと得点に絡むプレーをしていきたいと考えています。ゴールのみならず、前線からの守備やポストプレーなどでもチームに貢献したいですね」

 約1カ月半の中断期間を経て、8月31日からリーグ戦が再開する。チームを昇格に導くため、そして再び日の丸を背負うため、南野はゴールを狙い続ける。

(おわり)

<南野亜里沙(みなみの・ありさ)プロフィール>
1991年11月26日、徳島県板野郡板野町出身。作陽高―関東学園大―ノジマステラ神奈川相模原。社会人チームでプレーしていた父の影響でサッカーを始める。小学生時は女子サッカークラブの板野プリマヴェーラFCに所属。小学5年の時には、徳島県選抜として全国大会準優勝を経験した。中学ではプルミエール徳島でプレー。中学3年だった06年にはU−15女子日本代表候補に選出された。作陽高校では1年時から主力を務め、全国大会に出場。関東学園大学では3年夏にFWへコンバートされ、2013年関東大学女子サッカーリーグ1部の得点女王に輝いた。今季からなでしこチャレンジリーグのノジマステラ神奈川相模原に入団。1部昇格を目指すチームの得点源として活躍している。身長156センチ。背番号19。
>>ノジマステラ神奈川相模原公式HP



(文・写真/鈴木友多)


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