今年5月以来のダイレクト・リマッチとなった9月13日のマルコス・マイダナ戦で、無敗の5階級制覇王者フロイド・メイウェザーは3−0の判定勝ちを飾った。勝敗自体は文句のないもの。ただ、そのパフォーマンスに全盛期の輝きを見なかったファンは少なくないのではないか。
 デヴュー以来無敗の47連勝(26KO)を続けてきたスピードスターも、いつの間にか37歳。現役生活の終盤に差し掛かっていることは間違いなく、衰えも少なからず感じられるようになってきた。今後は1戦1戦で、これまで以上の苦戦を余儀なくされても不思議はない。
(写真:MGMグランドガーデンに再び火が灯るのは来年5月か9月。メイウェザーは1年後まで休養する可能性も示唆している)
 それでは、来年5月か9月に予定される次戦の相手はいったい誰が務めることになるのか。6人の候補選手を挙げ、その可能性を探っていきたい。

 マニー・パッキャオ(フィリピン/WBO世界ウェルター級王者/56勝(38KO)5敗2分)

「これから陣営と話し合って将来のことを考える。もしもパッキャオ戦の話が出てくるなら、実現させようじゃないか」
 マイダナ再戦直後のリング上で、メイウェザーはそう語ってファン、関係者を驚かせた。これまでパッキャオの名前が出るたび、即座に“最終決戦”の可能性を打ち消すことが多かった無敗王者が、これだけ前向きのコメントを残したのは初めてだったかもしれない。

 メガケーブル局Showtimeがメイウェザーと6戦契約を結んで以降、昨年9月のサウル・“カネロ”アルバレス戦こそ爆発的な興行的成功を収めたものの、他の2戦ではPPV売り上げも不振に終わってきた。今回のマイダナ再戦でも成功の基準とされる100万件には届かないことが確実。そんな状況下で迎える次の試合では、Showtimeはインパクトのある対戦相手を用意する必要がある。

 そして、その相手として、もう約5年間も激突が望まれてきた“戦わぬ宿敵”パッキャオ以上の選手はいない。
 ここしばらくPPVが売れなくなったのはパッキャオも同じだけに、ここでの対戦はどちらにとっても理に適う。プロモーターの違い、メイウェザーとボブ・アラム(パッキャオのプロモーター)の長年の因縁といった障害を乗り越え、ここでついに“スーパー・スターウォーズ”は成立するのか?
(写真:全世界待望のパッキャオ戦が今度こそ実現するか)

 ただ、最大の問題はテレビ局だ。メイウェザーがShowtimeと独占契約を結んでいる一方で、パッキャオと所属のトップランク社はHBOに義理堅い。2002年のレノックス・ルイス対マイク・タイソン戦同様、2大プレミアケーブル局が共同で番組を作るのが唯一の道になるが、それを現実的と考える関係者は少ない。ビジネス的な大成功は依然として約束され、ファンも大喜びするカードだけに、何とか奇跡の逆転で実現を期待したいが……。

 アミア・カーン(イギリス/元WBA・IBF世界スーパーライト級統一王者/29勝(19KO)3敗)

 現時点で最も可能性が高いのは、英国の雄、カーンだろう。スピーディで魅力的なスタイルと甘いマスクを併せ持ち、メイウェザー同様、Showtimeと直接契約を結んでいる選手であることも大きい。近年は試合ペースが落ちていたが、今年5月には実力者のルイス・コラーゾに明白な判定勝ちで健在をアピールした。

 アメリカでは知名度が高いとは言えないのが難点だが、イギリスのテレビ局が供給するビッグマネーのおかげで米英スター対決はビッグビジネスになる。
「メイウェザーはもう以前と同じレベルの選手ではない。スピードどストレートパンチが主武器の僕は、彼に勝つスタイルを持っている」
 メイウェザー対マイダナ再戦後にメディアに囲まれたカーンは、そう語って宣戦布告していた。
(写真:現時点で次戦の相手候補オッズを設けるなら1位はカーンだろう)

 アゴの弱さが弱点として付きまとい、いつ誰に番狂わせで負けても不思議はない選手でもあるだけに、Showtimeもこのあたりでビッグファイトに起用し、カーンを“換金”しようとしても不思議はない。12月には米国内で次戦を予定しており、この前哨戦に好内容で勝てば機運は高まるはずである。

 ティモシー・ブラッドリー(アメリカ/元WBO世界ウェルター級王者/31勝(12KO)1敗)

 スキルとタフネスを兼ね備えた元王者は、メイウェザー、パッキャオに次ぐウェルター級第3の実力者かもしれない。メイウェザーとの黒人対決がまとまれば、ハイレベルな技術戦になることは確実ではある。

 ただ、パッキャオ同様にトップランク社所属だけに、メイウェザーをはじめ、超強力アドバイザーのアル・ヘイモンの息がかかった選手との対戦は現実的ではない。前戦でパッキャオに負けていること、米国以外へのアピールに乏しいこともマイナス材料。キャラクター的にも地味過ぎるため、メイウェザー対パッキャオのように、プロモーターの垣根を越えたファイトを無理にでも成立させようとする雰囲気は感じられない。

 トップランク社傘下のウェルター級勢は層が薄いだけに、今後はマッチメイクには苦労しそう。12月にディエゴ・チャベスと復帰戦と噂されるが、次のビッグファイト登場はいつになるか。業界屈指の好漢でもあるブラッドリーが、徐々に試合枯れに陥っていくとしたら残念ではある。

 キース・サーマン(アメリカ/WBA世界ウェルター級暫定王者/23勝(21KO)1無効試合)
 ダニー・ガルシア(アメリカ/WBA・WBC世界スーパーライト級王者/29戦全勝(17KO))

 好戦的なスタイル、パワー、明るいキャラクターをすべて備えたサーマンは、未来のスーパースター候補と目されるようになった。身体能力に裏打ちされた爆発力は魅力的で、鈍りの見えてきたメイウェザーとの対決はスリリングになりそう。

 ただ、現時点ではまだ一般的な知名度が低過ぎるだけに、メイウェザー戦はスーパーファイトにはならない。“ハイリスク、ローリターン”の一戦はメイウェザーが最も嫌うところであり、来春に挙行するとは思えない。サーマンはまずは層の厚い同階級でビッグネームに勝ち、存在感を高めることが先決だろう。

 このサーマンよりも、ルーカス・マティセ、カーン、ザブ・ジュダーといった人気選手を下してきたガルシアの方が、早い時期にビッグファイトの相手に起用される可能性は高い。スピード、追い足不足ゆえにメイウェザーとの相性は良くないだろうが、一撃必倒の左フックに一見の価値はある。ただ、このガルシアはウェルター級での実績はゼロ。近々転級するとしても、来年5月にいきなりメイウェザー挑戦は厳しく、早くても1年後の9月ではないか。
(写真:ダニー・ガルシア(右)と父(トレーナー)がメイウェザー相手にどんな対策を練ってくるかも楽しみだ)

 ピーター・クイリン(アメリカ/元WBO世界ミドル級王者/31戦全勝(22KO))

 パッキャオ戦以外に世間一般の話題を呼ぶことがあるとすれば、メイウェザーが6階級制覇を狙ってミドル級進出を企てた場合だろう。ミドル級最強のゲナディ・ゴロフキンに挑むドリームマッチはあり得ないが、決して難攻不落には思えないクイリンなら攻略は可能。同じアル・ヘイモン契約下だけに、その気になれば試合成立は容易なはずだ。

 WBO王座を3度防衛したクイリンだったが、新興プロモーターが次期指名試合の興行権を落札したこともあって、9月中にタイトルを返上。ただ、年内にもWBA王者ダニエル・ジェイコブスに挑戦が濃厚という。ここで勝って首尾良くタイトルホルダーに戻れば、メイウェザーの視界に入る可能性が出てくる。

 もっとも、マイダナ再戦を見る限り、メイウェザーは体力的に全盛期を過ぎた感が否めない。それだけに、このタイミングでのミドル級進出は少々危険過ぎるアドベンチャー。慎重なマッチメークが目立つメイウェザーが、そんなリスクを犯すことは想像し難いのも事実ではある。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。この3月に最新刊『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)を上梓。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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