今は死語なのかもしれないが、子供の頃「ライパチ」という言葉があった。ライトで8番。草野球の世界では一番の下っぱ。3番サードや4番ファースト、あるいはエースを張る者に比べれば、チーム内のヒエラルキーは下の下だった。
 ひょっとして、似たようなことが日本のサッカーでもあるのではないか――突如としてそんな考えにとりつかれてしまった。日本がなかなか世界で勝てない要因の一つも、そこにあるのではないか、と。
 というのも――。

 ドイツにはいた。イタリアにもいた。ブラジルにも、アルゼンチンにもいた。にもかかわらず、日本にはいない。いないはずはないのだが、私自身、自動的に候補から外してしまっていた。

 サイドバックだから、キャプテンはない――と、ポジションによる差別をしてしまっていた。

 なぜライトというポジションは草野球の世界で軽視されたのか。理由はいくつかあるのだろうが、いわゆる「センターライン」を重視する発想が関係していたのは間違いない。投手、捕手、セカンドとショート、そしてセンター。ここが固まっていると強い、というのは野球界の常識とされている。

 知らず知らずのうちに、その常識はサッカー界をも浸食していたのではないか。だからこそ、歴代の日本代表のキャプテンは、センターバックかMF(それもボランチ)――フィールドのセンターラインでプレーする選手に限られてきたのではなかったか。

 ドイツの歴史を振り返ってみよう。皇帝と呼ばれたベッケンバウアーからキャプテンマークを引き継いだのは、右サイドバックのフォクツだった。ブラジル大会を制したチームの主将も、もともとはサイドバックとしてデビューしたラームである。

 イタリアにはマルディーニがいて、ブラジルにはカフーがいて、アルゼンチンにはサネッティがいて……強豪と呼ばれる国には、サイドの選手が主将を務めてきた歴史がある。こうした国々においては、センターラインでプレーしているか否かは、リーダーを決める上では何の意味も持っていないようだ。

 ゼロトップで戦うチームはあっても、サイドバックがいないチームはない。つまり、各チームには2人ずつサイドバックがいる計算なのだが、今季のJ1に目を向けてみると、サイドバックで主将を任されているのは神戸の相馬ただ一人。11分の2であって然るべきパーセンテージが、18分の1なのである。

 センターラインにのみリーダーシップを持った選手のいるチームと、全ポジションの選手にリーダーシップがあるチームでは、当然、何らかの差は出てこよう。100年の計を考えるならば、謎のセンターライン重視思想からの脱却が必要だと思うのだが、如何?

<この原稿は14年9月18付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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