一説によると人間の集中力は90分が限界らしい。4時間も待たされては、たまったものではない。
 23日に行われたアジアパラ競技大会、車いすテニス男子シングルス決勝を制したのは世界ランキング1位の国枝慎吾だった。この優勝により国枝は2016年リオデジャネイロパラリンピックの出場権を獲得した。
 4時間も待たされた理由としてはセンターコートでの男子シングルスとクァード(四肢麻痺)の3位決定戦が長引いたことが挙げられる。試合が長引いたのは仕方ないとして、同じ3位決定戦でも女子シングルスはショーコートで行われた。ならば男子シングルスとクァードも同様にショーコートでも良かったのではないか。
では、なぜ男子シングルスとクァードは“優遇”されたのだろう。ともに韓国の選手が出場していたからだと考えるのはうがち過ぎか。

 この日、決勝でセンターコートを使用したのも男子シングルスだけだった。女子シングルスとクァードはショーコートを使用した。3位決定戦でも男子シングルスとクァードはセンターコートなのに、決勝でありながら女子シングルスとクァードはショーコートというのも腑に落ちる話ではなかった。

 閑話休題。待っている間、国枝は何をしていたのか。「ちょっと横になったり、音楽を聴いたりして、ゆっくりと過ごしていました。(海外では)たまにあることなので、まったくストレスはなかったですね」

 思い出したのが野茂英雄のクアーズ・フィールドでのノーヒッター(1996年9月17日)である。朝からの雨により約2時間も試合開始が遅れた。しかも相手は強打のロッキーズ。平常心を保つのは難しい。

 野茂はどうしたか。やにわにバッグからCDを取り出すや、ヘッドホンを耳にあてソファに体を預けた。「自分の力でどうにもならないことは流れに任せるしかないんですよ」。それが野茂の流儀だった。

 テニスに話を戻そう。国枝に敗れた眞田卓には4時間の待ち時間がディスアドバンテージとなった。「昼間の試合だと思っていたらナイターがつき、気温も低くなった。環境の変化に最後まで対応しきれませんでした」。だが、何事も経験である。高い授業料の元をとる機会は、これからいくらでもある。

<この原稿は14年10月29日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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