プロ野球80周年のメモリアルイヤーとなった2014年は、話題が豊富なシーズンだったという印象があります。春は3位争いを演じ、球団初のクライマックスシリーズ(CS)進出をにおわせた横浜DeNAの快進撃から始まり、大谷翔平(北海道日本ハム)が時速160キロ超の剛球でファンを沸かせれば、山田哲人(東京ヤクルト)が日本人右打者としての新記録(シーズン通算193安打)を樹立。さらに、新語・流行語大賞のベスト10入りした「カープ女子」、そして最終戦までもつれた福岡ソフトバンクとオリックスとの優勝争い……。プロ野球ファンも大いに楽しむことができたのではないでしょうか。
 そんな中、気になっていることがあります。それは、セ・リーグとパ・リーグとの間に大きく広がり始めた“差”です。ひと昔前は、「人気のセ、実力のパ」と言われてきたプロ野球ですが、現在は「人気も実力もパ」と言っても過言ではありません。05年に導入された交流戦は09年を除いて、毎年パ・リーグが勝ち越しています。そしてここ5年間の日本シリーズでは4度、パ・リーグの球団が日本一となっているのです。日本代表の顔ぶれを見ても、投打ともに柱となっているのはパ・リーグの選手であることが多い状態です。パにはファンが「見たい」と思えるスター選手が多く、そのために観客動員数も軒並み伸びており、観客が球場に足を運んでくれるからこそ、選手の活力となり躍進へとつながる、といったいい循環が生まれているのです。

 昨季までパ・リーグで唯一、人気、実力ともに陰りのあったオリックスも、今季は違いました。18年ぶりの優勝こそ逃したものの、チームはソフトバンクと激しい優勝争いを演じ、6年ぶりにAクラス入りと、ファンを十分に楽しませてくれました。成績に伴って、1試合の平均観客数も実数発表となった05年から13年までの1万8828人から、今季は2万3663人まで増加したのです。「カープ女子」ならぬ「オリ嬢」(オリ姫)という言葉も誕生しています。

 もともとオリックスの営業も、ファン層拡大に一生懸命でした。企画力も他球団に決して劣ってはいなかったのです。しかし、それがなかなか集客力に結びつきませんでした。プロスポーツが密集する関西エリアということも関係していたと思いますが、08年からは大阪一本にエリアを絞ったことも功を奏したのでしょう、ようやくこれまでの努力が結果として表れたのです。

 一方、セ・リーグはどうでしょうか。確かに巨人という全国にネームバリューのある球団の存在は大きく、また巨人と阪神との試合は「伝統の一戦」として特有の価値を生み出しています。しかし、「各球団のスター選手は誰か?」と問われた時に、パッと名前が浮かんでこないのです。果たして、この差はどこから生まれたものなのでしょうか。

 その背景には、パ・リーグと比べた場合の危機感の低さによる、営業努力や企画力の乏しさがあると感じています。「地域密着」「ファン層拡大」「スター選手の育成」のいずれもが、セ・リーグはパ・リーグに後れをとっているのです。

 前述したように、今季は「カープ女子」という言葉が流行し、広島戦では女性ファンが目立ちました。チーム自体の躍進もあり、うまくメディアを活用したなという印象があります。ただ、もっと欲を出して、若く勢いのある選手を、どんどん露出させても良かったのではないかなと思うのです。そして、広島以外のセ・リーグ5球団も、「カープ女子」をうまく活用して、リーグ全体で盛り上げる方法もあったのではないかと思うのです。

 セからのスター選手誕生が急務

 実は、今季のセ・リーグ全体の観客動員数も、パ・リーグ同様に昨季を上回っているのです。おそらく「カープ女子」効果が大きかったのでしょう。そんな今だからこそ、ファン層拡大のチャンスであり、特に突出したスター選手をつくることが急務であると感じています。

 スター候補の育成という観点から見ると、例えば阪神では、生え抜きとして名実ともに球団No.1だった鳥谷敬が、オフに海外FA権を行使し、メジャーリーグ球団への移籍が濃厚となっています。では、鳥谷の後釜となるスター選手は誰かと問われると、おそらくほとんどの人が口をつぐんでしまうでしょう。

 鳥谷は数年前からメジャー移籍を希望しており、このような状況になる可能性があることはわかっていたはずです。そうであるならば、近い将来を見据えて、もっと早く鳥谷の次のスター候補の育成に着手しなければならなかったのです。それを怠ったつけが今に来ていると言っても過言ではありません。

 3年連続リーグ優勝を果たした巨人でさえ、スター選手が育ち切っていません。私見を述べれば、球団が阿部慎之助に責任を負わせ過ぎたことも原因のひとつだと思っています。というのも、おそらくもともとファンは阿部に紳士さを求めていたわけではなかったと思うのです。もっとやんちゃで、荒々しさのあるタイプだったはずです。しかし、伝統と規律を守ろうとする余りに、阿部の個性が失われたのではないかと思うのです。もし、紳士的な意味での「ミスター・ジャイアンツ」を求めるのであれば、私は高橋由伸だったと思っています。球団は各選手の個性を見極めたうえで、スター選手を育てていかなければいけないのではないでしょうか。

 さて、来季に台頭が期待されるスター選手はというと、パ・リーグに関してはどの球団からも候補生が出てくることでしょう。問題はセ・リーグですが、私はDeNAの梶谷隆幸、筒香嘉智あたりに期待しています。現在、DeNAで最も目立っているのは、中畑清監督です。来季はぜひ選手が話題の中心となってほしいですね。それはDeNA以外の5球団もしかりです。さらにプロ野球を盛り上げるためにも、セ・リーグからのスーパースター誕生が望まれます。

佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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