2015年を迎え、2020年の東京五輪・パラリンピックまで、あと5年になった。山本化学工業では一昨年、「東京五輪で金メダル30個」というプロジェクトを立ち上げた。アスリートに役立つウェア素材や「ゼロポジションベルト」「ゼロポジションウェア」などの改良を重ね、これらの製品と「バイオラバー」の活用で高いパフォーマンスを引き出す方法を提案してきた。大会が開かれる5年後、日本全体の問題として、ますます深刻化するのは高齢化に伴う医療費の増大だろう。65歳以上の人口は全体の約3割になるとみられる中、「人々の健康長寿をサポートしたい」と山本富造社長は考えている。新年にあたって、山本社長に2014年の成果と2015年の展望を二宮清純がインタビューした。その模様を2回にわたって紹介する。

 バイオラバーと遺伝子活性

二宮: 昨年11月には遺伝子検査を通じて、バイオラバーが長寿遺伝子(サーチュイン[Sirt1]、以下同)の活性化に作用することを発表しました。改めて、この長寿遺伝子について教えてください。
山本: 人間は細胞分裂を繰り返して生きています。細胞の染色体の末端部分は「テロメア」と呼ばれる構造になっていて、細胞分裂のたびに消耗します。テロメアが完全になくなってしまうと、細胞分裂が止まり、死滅してしまう。これが、すなわち老化と言われる現象になるわけです。長寿遺伝子が働くと、このテロメアを保護してくれると言われています。つまり、その分、老化を遅らせてくれるんです。

二宮: 長寿遺伝子の働きを高めることが、老化の進行を防ぐことにつながるわけですね。活性化にはどのようなことをすればよいのでしょう?
山本: これまでは食事制限、睡眠、運動、レスベラトロールの摂取などが有効とされてきました。ただ、日々の生活で食事量を減らして制限するのは簡単ではありません。睡眠も23時から7時間寝るのが最適とされています。これも毎日、続けるのは難しいでしょう。運動を継続するのも大変です。レスベラトロールが含まれているサプリメントは高価で、月に何万円もの出費を余儀なくされます。しかも一定の効果が認められるまでは、かなりの時間が必要です。

二宮: どれも、ずっと続けるとなるとハードルが高いですね。
山本: それがバイオラバーを装着すると、今回の検証では21日間で長寿遺伝子の活性化に効果があることが判明しました。これまでバイオラバーの装着により、体温が平均で0.36〜1度上昇することは何度も結果として出ていました。これが長寿遺伝子の働きを高めることにもつながっていると証明されたのです。

二宮: 3週間で効果がみられるとは驚きです。
山本: 長年、長寿遺伝子の研究をされている学者の方も驚かれたようですね。先に上げた4つの方法でも、3カ月くらい続けて、ようやく効果が測定できるレベルになるそうです。だから、最初は「21日間ではわからない」と言われました。でも、実際に検証をすると、最大で49%、平均で約17%も活性の度合いがアップしたんです。長寿遺伝子の働き具合も安定値(80〜120%)に到達した方が2人も出ました。これも今までの方法ではあり得ない結果だったようです。

二宮: 健康長寿にも貢献できる機能を持つと?
山本: そうなんです。現在、同様の遺伝子検査を通じて、今度はがん抑制遺伝子の活性化も検証しています。対象となった19人の被験者のうち、18人ががん抑制遺伝子の働きが悪く、がんの発症リスクが「やや注意」「注意」「警告」と判定される部位を持っていました。ひとりでいくつもリスクを抱えていた方もいるので、延べにすると38カ所。これもバイオラバーを、その部位に装着することで、がん抑制遺伝子が活性化し、38カ所中37カ所で改善の判定が出ています。

二宮: 検証はどのくらいの時間、装着して行ったのでしょうか。
山本: お風呂に入ったりする時間を除き、ほぼ24時間、装着してもらいました。21日間を超えて、長期的に装着した場合の検証はこれからですが、バイオラバーをずっと装着していただければ、体内環境をより健康的な状況にできると期待しています。

 スポーツ、医療、福祉を一体に

二宮: 体温を上げることが遺伝子の活性化につながるなら、他の方法も試せそうですね。
山本: それがそうでもないんです。バイオラバーは体温を平均で、わずか0.36〜1度上昇させるだけですが、他の方法で上げても顕著な数値の変化は見られませんでした。バイオラバーは赤外線を高いレベルで放射することによって体温を上げていきます。まだ因果関係は証明されていませんが、ここにポイントがあるのかもしれません。

二宮: たとえば温泉につかると、体質改善効果があると言われますが……。
山本: もちろん、一時的には温泉の効能はあるかもしれません。ただ、遺伝子の活性化を促すには恒常的に体温を上げておく必要があるんです。大阪大学の大山良徳名誉教授(医学博士)によると、温泉や湯船につかったり、サウナに入って心地よさを感じるのは、体温の上昇よりも皮膚が熱刺激を受けたことによる快感だそうです。浴場を出ると体が冷えて体温は元に戻ってしまいます。ちなみに私はバイオラバーを常に装着しているので、体温は36.8度です。特に低体温の方には胸腺の部分にバイオラバーをつけることをオススメしています。装着しているだけですから、無理をする必要は全くない。コスト的にも、長い目で見ればサプリメントを摂取し続けるよりも出費は少なくて済みます。 

二宮: となると、次の段階としては、誰もが遺伝子検査を気軽に受けられるようになり、体の状態をチェックできる環境づくりが求められますね。
山本: 一部の病院では血液検査による遺伝子検査を受けられますが、基本的には保険の適用外で、まだ一般的とは言えません。世界中で遺伝子検査の研究が進められている中、日本は血液検査によって高い精度で解析する能力がトップクラスだそうです。その成果が還元されれば、多くの人が健康で長生きできる社会がつくれるのではないでしょうか。

二宮: 日本は超高齢化社会に突入し、医療費は年々、増え続け、国家財政を圧迫しています。日本人の平均寿命と健康寿命には約10歳ほどの差が出ているそうです。高齢者が今後も増加する中、両者の差を縮めていくことが重要課題になります。
山本: 自民党の統合医療推進議員連盟では「健康寿命を伸ばすためには長寿遺伝子の活性化が不可欠」という意見が出てきています。長寿遺伝子の状態を調べる上で遺伝子検査は必須ですから今後は政府としても推進の方向になるでしょう。医療費を削減する一番の方法は、病気になる人間を減らすことです。すなわち、予防が重要になる。遺伝子検査によって体内環境を調べ、リスクを回避する処置をいかに行うかが、今後の医療における大きなテーマになるとみています。

二宮: ちなみに議連の議長を務めているのは橋本聖子さんだとか。
山本: そうなんです。昨年お会いした際に「長寿遺伝子の活性化の取り組みはアスリート寿命を伸ばすことにつながる」と話をしたら、非常に興味を持っていただきました。健康とスポーツをセットに進めていくことは我々としても望むところです。今回のバイオラバーに関する発見が、一般の方々はもちろん、スポーツ界にも広がりをもってくれればいいなと期待しています。

二宮: 2020年の東京五輪・パラリンピックへ、遺伝子の観点からも、アスリートにアプローチできそうですね。スポーツと医療、福祉が一体となって、大会後の社会のあり方に変化を与えられれば、それこそが立派なレガシーとなるでしょう。
山本: 2020年はサイエンスの五輪・パラリンピックでもあってほしいと私は望んでいます。スポーツ科学やスポーツ医学は年々進歩していますが、この速度をさらに高めて、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整える。それがひいては人々の健康にもつながっていく。我々の活動が、その一助としてお役に立てればと思っています。

(次回につづく)

 山本化学工業株式会社