2020年の東京五輪・パラリンピックまで、あと5年。山本化学工業では一昨年、「東京五輪で金メダル30個」というプロジェクトを立ち上げた。アスリートに役立つウェア素材や「ゼロポジションベルト」「ゼロポジションウェア」などの改良を重ね、これらの製品と「バイオラバー」の活用で高いパフォーマンスを引き出す方法を提案してきた。大会が開かれる5年後、日本全体の問題として、ますます深刻化するのは高齢化に伴う医療費の増大だろう。65歳以上の人口は全体の約3割になるとみられる中、「人々の健康長寿をサポートしたい」と山本富造社長は考えている。新年にあたって、山本社長に2014年の成果と2015年の展望を二宮清純がインタビューした。その模様を前回に続き、紹介する。

 ゼロポジションで成績向上

二宮: 今年、他に力を入れたい取り組みはありますか?
山本: ゼロポジションの概念が徐々にスポーツ界へ浸透してきましたから、これをさらに広めていきたいですね。昨年、あるプロ野球のピッチャーに「ゼロポジションベルト」を装着してもらったところ、最多勝争いをする活躍をみせました。骨盤を正しい位置に調整することでパフォーマンスが確実に上がる。そのことをいろんなアスリートに試してもらって、体感していただきたいですね。

二宮: 先日、ダルビッシュ有投手や田中将大投手を指導した福岡ソフトバンクの佐藤義則投手コーチから、「踏み出したヒザが外に割れるピッチャーは良くない」と聞きました。「膝で(コースの)イメージを出して、腰と回転で投げる」のが理想だとか。
山本: そのピッチャーのメカニズムがどう変化したのかは調べてみないと分かりませんが、もしかしたら骨盤を矯正したことで、ヒザが真っすぐ出やすくなったのかもしれません。骨盤がゆがんでいると、足を踏み出す時に真っすぐ出せませんから。

二宮: 骨盤を正しい位置にしておくことはアスリートのみならず、一般の方がスポーツを楽しむ上で故障予防にもつながるのでしょうね。
山本: 骨盤がゆがんで真っすぐ足が出ないと、歩く際にヒザや腰に負担をかけることになります。街中で前を歩いている人を観察していると、たいていは足の左右の開きが違いますね。意外とアスリートでも、この点を意識している選手は少ない。無理な歩き方をずっと続けて、腰痛やヒザ痛の原因になるんです。

二宮: スポーツにせよ、何にせよ、日常生活の基本は歩くことにありますからね。
山本: ですから、我々は大阪大学の大山良徳名誉教授(医学博士)とともに健康セミナーでは歩き方から皆さんにアドバイスするようにしています。まずは足の親指を真っすぐ出す。私も4年間、これを実践した結果、靴底の減り具合がほぼ左右均等になってきました。おかげさまで普段、ヒザや腰の痛みはまったく感じません。

二宮: 靴底を見れば、いかにバランスが偏っているか一目瞭然です。ぜひ、読者の方も一度、チェックしてみることをオススメします。
山本: 減りが偏っていれば、それだけヒザに対して斜めに体重がかかっていることになります。その負担を軽くしようと、骨盤も歪むので腰を痛めることにつながるんです。足の親指を真っすぐ出して、次にヒザを上げる。これによって太ももの前側の筋肉も鍛えられます。ある調査によると、一般人の足の筋肉は22歳をピークにして、どんどん衰えていくそうです。特に太ももの前側は衰えが早く、40歳になるとピーク時の半分近くになってしまうとのデータがあります。

二宮: その分、足が上がりにくくなり、高齢になるにつれて転倒しやすくなるというわけですね。
山本: そうなんです。太ももの前側の筋肉を強化する一番簡単な方法は、ヒザを上げて歩くこと。外国の軍隊が足を高く上げて行進するのを観た方も多いと思いますが、実は、あれは太ももの前の筋肉を鍛える目的があるそうです。戦場でいざ突撃する際に転んでいては敵に撃たれて死んでしまう。だから、転倒を防ぐ訓練の意味合いもあると聞いたことがあります。

二宮: なるほど。あの歩き方は理に適っていると?
山本: そうなりますね(笑)。ただ、街中で軍隊式の行進のようには歩けないでしょうから、たとえば1日に数回でも、ヒザを上げて、太ももが地面と並行になる位置まで持ってくる。これだけでも違ってくると思います。

 若い時期に意識付けを

二宮: 現代社会は交通機関の発達で歩くことが少なくなり、エスカレーターやエレベーターがあるために階段を昇り降りする機会も減ってきています。日常的にヒザを高く上げる動作はほとんどありませんから、意識しないと鍛えられませんね。
山本: 高齢でも元気に動き回っている方を見ていると、ヒザがきちんと上がります。私がやっている少林寺拳法で90歳現役の方も足が上がる。少林寺拳法で蹴りの練習をする中で、自然と足の筋肉が鍛えられているからでしょう。

二宮: 人々の骨盤の位置や歩き方を正しくするだけでも、健康増進に寄与できそうですね。
山本: それに加えて、低体温の解消も重要です。体温が低いと、前回お話した長寿遺伝子も活性化しない。バイオラバーを活用して体温を上昇させるだけで体には好影響を与える。ちょっとした体の状態の変化がパフォーマンスを左右するアスリートにとっては、なおさら大切なことだと感じています。

二宮: 山本化学工業では近畿大学の水上競技部とも提携を始めたそうですから、今後はそういった部分も提案していくと?
山本: 近大の選手を被験者に効果を実証するのもひとつの方法だと考えています。近大の施設は非常に素晴らしく、練習環境も充実しています。水中のフォームを撮影して分析できるシステムもあるくらいです。選手も高校から好素材をたくさん集めている。それだけにゼロポジションのグッズや、バイオラバーを活用してもらうことで、さらに能力が引き出せるのではないかと期待しています。

二宮: 若い時期に意識付けをしておけば、競技生活はもちろん、その後の人生も健康的に生きられるでしょうね。
山本: 知識を増やし、意識を高めることで、アスリートのパフォーマンスはアップし、ひいては健康寿命も延びると信じています。これからも我々は製品を通じて、どんどん世の中に新たな提案をしていくつもりです。

 山本化学工業株式会社