待ちに待った球春到来だ。プロ野球は2月1日、NPB12球団が一斉にキャンプインを迎える。米国帰りのビッグネームが入団するチームあり、大型補強を敢行したチームあり、大物新人に注目が集まるチームあり……。どの球団のファンも期待に胸を躍らせる時期だ。スカパー!でもキャンプ中継が年々、充実し、現地に足を運ばずとも、練習風景をチェックできるようになった。

 黒田、メジャーで磨かれたシンカー

 なかでも多くのプロ野球ファンの関心を引くのが広島のキャンプではなかろうか。ヤンキース、ドジャースでの計7年間で通算79勝(79敗)をあげた黒田博樹が古巣に復帰する。メジャーリーグ時代の調整法を踏襲し、チームには2月中旬の沖縄キャンプから合流する予定だ。沖縄の地に黒田フィーバーが巻き起こることは間違いない。

 黒田はプレッシャーの大きいメジャーの名門チームで、7年間も先発ローテーションを守り抜いた。日本人ピッチャーでは初となる5年連続2ケタ勝利も記録している。間もなく不惑を迎えるとはいえ、これだけの実績を誇る右腕をメジャーリーグの各球団が放っておくはずがない。ヤンキースはもちろん、複数球団が争奪戦を展開し、パドレスに至っては21億円もの高額オファーをしたと報じられた。野球の本場で「日本人ナンバーワン投手」と高い評価を受けた男が、それらを蹴って日本に戻ってくるのだ。これは広島ファンならずとも、ピッチングが楽しみである。

 メジャーリーグで黒田が活躍できた理由――。そのひとつは格段にレベルアップした投球術にある。特にシンカーのキレとコントロールは抜群なものがある。黒田は、このシンカーを左打者に対するフロントドア、右打者に対するバックドアとして投げ分ける。フロントドアとは、内角のボールゾーンからストライクゾーンに食い込ませるボール。打者をのけぞらせる効果がある。一方のバックドアは、ベースを巻くようにして外からアウトコースいっぱいを狙う。外のボールゾーンからストライクに入ってくるため、バッターは見逃したり、反応が遅れたりする。

 黒田はドジャース時代のグレッグ・マダックスに、この使い方を教わったという。ちなみにマダックスとはメジャーリーグ通算355勝をあげ、多彩な変化球と抜群の制球力から「精密機械」の異名をとった大投手だ。黒田が2013年に著した『クオリティピッチング』で、<パワーに勝るメジャーでは、いくらバットの芯を外しても外野やスタンドまで飛ばされてしまいます。そこで、このシュートを少し沈ませるシンカーを習得。バッターの芯を外してなおかつ、バットの下側で打たせることでゴロに打ち取ることができるようになりました>と、その効果を述べている。
 
 さらにシンカーを効果的に使えるよう、黒田はドジャース時代の途中からプレートの一塁側を踏んで投げるようになった。こちらは当時のドジャースのエース、デレク・ローの影響だ。黒田の著書によれば、理想のシンカーは<ベースの左端から入ってボールゾーンに抜けていく>イメージで、<キャッチャーが捕ったところはボールゾーンですが、ベースをかすっており、バッターからすれば体に入ってくるような「横の角度」を感じる球>になる。プレートの踏む位置を変えたことで、この理想に近いシンカーと、右バッターのアウトローへの力強いストレートが投げられるようになった。

 この極意を黒田はメジャーリーグでマスターしたというわけだ。米国で磨き抜かれた投球術を武器に、前田健太と2人で30勝以上をあげる活躍をみせれば、広島に24年ぶりの優勝が見えてくる。

 松坂、剛から柔への変身なるか

 もうひとり、メジャーから日本に戻ってくるのが松坂大輔である。福岡ソフトバンクと推定年俸4億円(+出来高)の3年契約を結んだ。2006年にはポスティングシステムでレッドソックスが約5111万ドル(当時レートで約60億円)で落札し、鳴り物入りで海を渡って、早いもので9年が経つ。黒田とは異なり、平成の怪物を取り巻く状況は、その間に一変した。

 1年目には15勝(12敗)をあげて世界一に貢献し、2年目は18勝(3敗)と額面通りの働きをみせたものの、以降の成績は低迷した。11年6月には右ヒジのトミー・ジョン手術を受け、翌年にはレッドソックスを自由契約に。昨季はマイナー契約からのスタートで、メッツのリリーフとしても起用されるなど、34試合に登板して3勝3敗1セーブだった。

 ソフトバンクの王貞治球団会長は先頃、TBSの番組に出演した際、「10人中8人は(獲得に)反対」としながら、「私は絶対にやってくれると思います。高校時代から彼を見ていますから、投手としての精神的な強さを買っています」と復活を望んでいた。トミー・ジョン手術は損傷したヒジの靱帯を切除し、他の部分の正常な腱を移植するものだが、これによって格段にパフォーマンスが落ちるとは言えない。日本人でもレッドソックスで松坂の同僚だった田澤純一が、10年にこの手術を受けた後、13年はクローザーの上原浩治につなぐセットアッパー役で大車輪の活躍をみせている。

 松坂も入団会見の席で「僕の中では年々、状態がよくなってきている」と語っている。再び輝きを取り戻すためのカギはヒジの状態よりも、ピッチングスタイルにあるのではないか。ひらたくいえば「剛」から「柔」へのモデルチェンジができるかどうか。「昔より速いボールを投げるのは難しい」ことは本人も認めている。力でねじ伏せる「剛」ではなく、カーブなどの緩急も織り交ぜた「柔」のピッチングに転換できれば、福岡の地で、もう一花咲かせられるだろう。

 メジャー帰りの黒田と松坂に共通した課題はボールやマウンドへの対応だ。日本製のボールは米国製に比べて縫い目が低いことに加え、表皮が滑りにくく、ストレートを投げる分には都合がいいが、変化球の曲がり幅は小さい。マウンドもメジャーは日本よりも硬い。
 
 黒田は7年、松坂は8年、メジャーの環境で投げ続けていただけに、日本製のボールやマウンドに対して感覚を取り戻す時間が必要なはずだ。ボールやマウンドと相談しながら、久々の日本での開幕へ、いかに仕上げていくか。キャンプはブルペンでのピッチング練習を間近で観られる機会だ。そんなところに目を向けるのもおもしろい。

 「20年活躍」目指すルーキー・安樂

 今季のプロ野球はセ・パともに混戦模様が予想される。パ・リーグではソフトバンクが球団初の日本一連覇を狙う。その前に立ちふさがるのが、昨季2位のオリックスだ。昨季は最後の最後まで優勝争いを演じ、今季は「総額41億円補強」で勝負に打って出た。埼玉西武の元主砲で米国でプレーしていた中島裕之、10年の打点王・小谷野栄一(前北海道日本ハム)を相次いで獲得し、新外国人もトニ・ブランコ(前横浜DeNA)、ブライアン・バリントン(前広島)と実績のある選手を集めた。

 何より、最大の“補強“は国内FA権を行使していたエース金子千尋の引き留めに成功したことだろう。オフには右ヒジの骨棘除去手術を受けたものの、既にキャッチボールができるレベルに回復している。順調にいけば、キャンプ中にブルペンでのピッチングも再開できる見込みだ。「優勝をしたいという思いが勝った」と残留会見で語った沢村賞右腕が開幕からローテーションに入れば、19年ぶりの優勝へ視界が開けてくる。

 セ・リーグでは巨人がV9以来となるリーグ4連覇を目指す。今季は攻守の要だった阿部慎之助がファーストへコンバートとなり、若い小林誠司と東京ヤクルトからFA移籍した相川亮二が正捕手の座を競う。選手層の厚さはリーグ随一だ。だが、先述したように広島が黒田の復帰で、一気に打倒・巨人の一番手に躍り出た。

 また、下位に沈んだチームも巻き返しを図る。2年連続最下位の東京ヤクルトは左腕の成瀬善久(前千葉ロッテ)、ショートの大引啓次(元北海道日本ハム)を獲得してセンターラインが強化された。横浜DeNAも昨季途中から加わったキューバの至宝ユリエスキ・グリエルがチームに残り、悲願のクライマックスシリーズが見えている。数年前までのセ・リーグはAクラスとBクラスの構図がハッキリ分かれていたが、今季はどこがAクラス入りしてもおかしくない。

 キャンプの大きな楽しみのひとつはルーキーたちのプレーぶりにある。今季も将来性豊かな新人たちが大勢、プロ野球の門をくぐった。注目のドラフト1位・安樂智大(愛媛・済美高−東北楽天)は1軍にあたる「久米島班」でのキャンプスタートが決まった。

 安樂は一昨年のセンバツで2年生ながら主戦投手として準優勝に貢献しながら、右ヒジの故障もあり、その後は本来のピッチングができなかった。しかし、187センチ、90キロの高校生離れした体格から放たれる150キロ超のスピードボールは大きな魅力だ。本人も故障を防止すべく、プロ仕様のフォームに改造してキャンプに臨む。

 背番号は「20」。この番号には「将来は20勝したい」「20年活躍したい」との目標が込められている。新人合同自主トレでの初ブルペンでは背番号と同じ20球を投げ、プロでの第一歩を記した。安樂をはじめとするルーキーが、どんなアピールをし、どこまで戦力として通用するのか。それを見極めるのも各球団の監督、コーチ陣にとってキャンプ中の大事な作業になる。

 スカパー!では各チャンネルでキャンプ中継が観られるほか、BSスカパー!やスカチャンでは2月の5日間、キャンプやオープン戦の模様をザッピングして放送する。まだまだ寒い日が続く日本列島だが、宮崎、沖縄で躍動する選手たちの姿に、テレビの前で一足早い“春”を感じられるはずだ。

 プロ野球を見るならスカパー!
 2月1日を皮切りに、プロ野球セットチャンネルで放送される各球団のキャンプ中継番組を紹介しながら、普段はなかなか見ることのできない紅白戦の模様や、期待の新戦力、移籍組の動向、プルペンの様子までたっぷりと生中継でお届け!

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【放送スケジュール】 ( )内は放送局(クリックすると各局のサイトに飛びます)

2月1日(日) プロ野球セットpresents 球春到来! 週刊キャンプ中継 開幕スペシャル ※無料放送
11:00〜12:20(BSスカパー!
12:20〜14:00(スカチャン1

2月8日(日) プロ野球セットpresents 球春到来! 週刊キャンプ中継
11:00〜14:00(BSスカパー!

2月15日(日) プロ野球セットpresents 球春到来! 週刊キャンプ中継
11:00〜14:00(BSスカパー!

2月21日(日) プロ野球セットpresents オープン戦中継ザップ
12:50〜16:00(BSスカパー!

2月22日(日) プロ野球セットpresents オープン戦中継ザップ
12:50〜16:00(スカチャン2

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。


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