「革命的な素材ができました」
 山本化学工業の山本富造社長が自信を持って送り出す新素材4種類が、このほど発表される。正式発表を前に、山本社長にそれぞれの素材の革新性について紹介してもらった。

 「両面親水」でスイムウェアフリーに

 1つ目は競泳用水着素材だ。
 山本化学工業では昨年、水に触れる表面のみならず、皮膚と接する内側にも親水性をもたせる「両面親水」の素材を開発。皮膚と水着の摩擦を抑えることで、泳ぐ際の筋肉の動きを極力妨げない工夫を施した。

 今回の新素材ではさらに改良を加え、伸縮性をアップさせた。これにより、体が今まで以上にスムーズに動けるようになる。摩擦係数は表面が0.021、皮膚のあたる裏面は0.08。通常の競泳水着の裏面の摩擦係数は1.8といわれており、かなりの抵抗減だ。

「スイムウェアフリー、つまり水着を着ていない感覚になるのではないでしょうか」と山本社長は胸を張る。同社では、この素材の本格供給を開始し、2016年のリオデジャネイロ五輪、パラリンピックに向け、トップスイマーたちのハイパフォーマンスを引き出したいと考えている。

 内側に繊維を使わないウェットスーツ素材

 2つ目はウェットスーツ素材だ。
 従来、レジャー用のウェットスーツでは着脱する際の利便性を考慮し、体と触れる側に繊維素材を貼っていた。これだと脱ぎ着はしやすいものの、繊維が水を含むと不快感が出てくる。またダイビング中に繊維面が皮膚とこすれて抵抗が生じ、体への負担が増すという問題点があった。

「ウェットスーツは普通の服よりタイトなつくりになっていますから、抵抗が大きいと動きにくくなる。その分、疲労感が出てくるんです」
 山本社長は、長年、ダイバーから寄せられていた不満を解消する素材ができないものか、4、5年前から頭をひねってきた。
「いつもはすぐ開発、実現に至るんですが、かなり試行錯誤しました。僕が覚えている限りでは時間もコストも一番かかった素材ではないでしょうか」

 ようやく実用化にこぎつけた素材、それがAFS(エアフェイススキン)だ。繊維を貼らず、使っているのはゴム素材のみ。ゴムは山本社長が「赤ちゃんのほっぺみたい」と評するほどやわらかく、着脱の際の煩わしさがない。皮膚との摩擦係数は0.02まで小さくなった。

「これまでになく、やわらかいゴム素材を使っていて表面の水との抵抗も下がりました。今までのものより、包み込まれている感覚がするはずです。一言で表現すれば、着ていることすら感じない“スーツレスのウェットスーツ”と言えるかもしれません」
 山本社長は、新素材が「今後のウェットスーツの主流になる」と期待している。

 視覚特性を利用、サメ避け素材

 3つ目の新素材もウェットスーツ用だ。
 ダイビングやサーフィン中、サメに襲われる事例は世界的にも後を絶たない。山本化学工業では、サメによる事故を防止するため、“アンチシャーク”のウェットスーツ素材を一昨年に開発している。マリンスポーツが盛んなオーストラリアで販売すると、1万着が売れるヒット商品となった。今回、これを日本でも売り出す。

 アンチシャークの素材はサメは視覚の特性を利用している。サメは基本的にモノクロでしか物体を認識できないため、スーツの色でカモフラージュするのだ。サーフィン用には白黒の縞模様を施し、サメからは光の具合でサーファーがひと塊の物体に見えないようにした。

 またダイビング用は青を基調としてグラデーションをつけ、ランダムに配置。光の届く浅瀬でも、暗い深海でも、海の青さにスーツの色が部分的に重なるかたちになるため、サメからはひとつの物体として認識しにくいという。山本社長は「温暖化の影響か、日本近海でもサメ騒動がたびたび起こっています。安全にマリンスポーツが楽しめるよう、私たちも協力できれば」と普及を望んでいる。

 麻を使用、スーパーバイオラバー

 4つ目の素材は「バイオラバープレミアム」だ。赤外線を放射し、体を温める効果を持つバイオラバーは、これまで表面をナイロンの化学繊維で覆ってきた。
「化学繊維だとどうしても肌触りの心地良さには限界がある。違和感があると体が緊張状態になり、赤外線の効果も薄れてしまう。もっと違和感のない素材はないものかと探していたんです」

 山本社長が着目したのが、日本で古くから服の素材として使われてきた麻だった。現代では綿や化学繊維が主流になっているが、麻にはカナビジオールと呼ばれる薬効成分も含まれており、近年、その良さは見直されてきている。

「天然の素材で、体にもやさしい。これなら体がリラックスした状態で赤外線が吸収されるのではないかと考えました」
 ただし、山本社長の麻を使うアイデアを実現させるにはひとつだけ難点があった。それはストレッチ性に欠ける点だ。いくら、体によい素材でも、動きにくいものであればストレスがかかる。

 そこで山本化学工業では麻の繊維工場と提携し、共同で伸縮性にも優れた麻繊維の開発に乗り出した。1年弱の期間を経て、今回、伸び縮みにも長けた素材をつくり出すことに成功したのだ。これにより、麻で表面をラミネートした「バイオラバープレミアム」が誕生した。

「ヒザやかかとのサポーターなど体に直接触れるバイオラバー製品には今後、麻を取り入れていきたいと思っています」
 山本社長らの試みはファッション業界でも話題になっており、ストレッチ性のある麻が今後は一般の服にも取り入れられるかもしれない。

 競泳やダイビング、サーフィンなどのマリンスポーツに、健康増進、ひいてはファッションの分野まで――。山本化学工業が送り出す4つの新素材は、各領域に一石を投じ、この先、どんな波紋を広げていくのだろうか。

 山本化学工業株式会社