今季、コーチから監督に就任することになりました。昨季、独立リーグ日本一の達成後、島田直也前監督の横浜DeNA2軍投手コーチ就任が決まり、「オレのところに話が来るかもしれない」という予感はありましたね。打診を受け、最終的には引き続き、徳島で選手を指導したいと思い、引き受けることにしました。
 監督は台湾で統一セブンイレブンを率いて以来、2度目の経験です。この時もコーチからの昇格でした。皆さんは、コーチから監督になった方がチーム状態を把握してスタートでき、やりやすいと思われるかもしれません。しかし、僕の経験上、コーチから監督へ立場が変わるのは大変だと感じています。

 まず、コーチと監督では役割が違います。コーチは持ち場持ち場で選手の面倒を徹底的にみます。一方、監督は全体に目配せしなくてはなりません。当然、選手とのコミュニケーションの取り方も変えざるを得なくなるのです。周りもコーチと監督では見る目が違います。台湾で監督になり、真っ先に感じたのは「孤独」でした。

 今回はその経験を踏まえ、あまり監督として構えないように心がけています。コーチ時代と同様、自然体で指導をするつもりです。振り返れば、野球を始めてから、いろいろなタイプの監督を見てきました。柳川高時代の福田精一さんは、怖い方でしたが、選手への愛情にあふれていました。プロ入り時の近藤貞夫さんは放任主義。あれこれ言いながらも、選手がやりたいようにやらせてくれたことはありがたかったです。

 最終的には放出されたものの、上田利治さんの姿勢も印象に残っています。練習中は常に立ちっぱなしで選手の動きを見守り、大事なところで声をかける。僕はこうした立派な監督方と同じようになれるとは思いませんが、少しでも近づけるように日々、精進するつもりです。

 徳島は昨季から大きくチームが変わりました。新人は14名。半数のメンバーが入れ替わっています。特に入野貴大(東北楽天)、山本雅士(中日)がNPBに行き、10勝をあげたクルズ・アヤラ、防御率1点台(1.70)の河本ロバートが退団した投手陣は、ほぼ1からのスタートと言っていいでしょう。新投手コーチは間もなく発表できる予定ですが、先発、中継ぎ、抑えをどう役割分担させるか未知数です。

 ただ、入野、山本に続きそうな楽しみなピッチャーが入ってきました。トライアウトを経てドラフト1位指名した福永春吾(クラーク記念国際高−06BULLS)は、今季、リーグの目玉になるかもしれません。185センチの長身から現時点で145キロの速球を常時投げ、化ける可能性を秘めた右腕です。下半身を強化してキレを出せば、入野や山本以上にスカウト注目の存在になるでしょう。

 また4位指名の左腕・宇田一貴(小野高−臨床福祉専門学校−東京好球倶楽部)は杉内俊哉(巨人)、大隣憲司を足して2で割ったようなタイプ。コントロールのまとまりには欠けますが、実戦の中で鍛えていけばトップクラスのサウスポーになる素質を持っています。

 秋のトライアウトリーグで獲得した吉田嵩(長崎海星高)は高校生ながら184センチと大柄で角度のあるボールを投げます。フォームは修正すべき点があるものの、長所を伸ばしながら一本立ちさせたいと考えています。

 もちろん、新人のみならず、既存のピッチャーの頑張りがポイントとなることは間違いありません。特に3年目の左腕・宍戸勇希には軸になってほしいと望んでいます。宍戸はいいものを持っているにもかかわらず、気持ちが弱く、いまひとつ殻を破れませんでした。入野にしろ、山本にしろ、NPBに行った選手たちは練習でも試合でも「やってやる」という思いがあふれています。1日から始まった合同トレーニングでは一生懸命さが出ていますから、これをシーズン通じて継続してほしいものです。

 野手に関しては昨季首位打者の大谷真徳、レギュラー捕手の小野知久、リードオフマンの吉村旬平が抜けましたが、その穴を埋められそうな新戦力が加わりました。ドラフト2位指名の橋本球児(城西大附高−城西国際大−日本ウェルネススポーツ専門学校)は小笠原道大(中日)のようなバットさばきの巧さが持ち味です。これは天性のものと言っていいでしょう。ショートの守備は今後、鍛える必要がありますが、まずはバッティングでアピールしてほしいと思っています。

 3位指名のキャッチャー・中島健介(稚内大谷高−北海道教育大函館校−BBCスカイホークス)は守備だけなら全く問題ありません。試合に出る中で打力が上がれば、レギュラーになれるでしょう。5位の寺田奨(宮崎商高−関西国際大−NSBベースボールクラブ)は俊足の持ち主。外野守備は吉村の抜けたセンターを十分、務められるでしょう。坪井智哉(現横浜DeNA打撃コーチ)のようなバッティングもどこまで通用するか楽しみです。

 昨季、徳島で1年指導して実感したのは、このリーグの選手たちの伸び率の高さです。2月の始動からシーズンが進むにつれ、技術、精神面の成長を肌でひしひしと感じました。たとえば昨年の今頃、山本がプロに行くと誰が思ったでしょう。彼は開幕前までは練習生に過ぎませんでした。それがフタを開けてみればチームの前後期制覇、独立リーグ日本一に貢献する働きをみせました。

 今季も、僕は選手たちの1年間の進化を大いに期待しています。18歳から25歳の時期は選手として、人間として最も伸びる時期です。野球の技術のみならず、社会人としても立派な人材をつくり、多くの方に応援していただけるチームをつくりたいと考えています。そして、個々の選手もチームもいい方向に転び、秋には再び日本一、ドラフト指名という成果を収められれば最高です。


中島輝士(なかしま・てるし)プロフィール>:徳島インディゴソックス監督
1962年7月27日、佐賀県出身。柳川高時代はエースとして3年春の甲子園に出場。プリンスホテルに進んで野手に転向する。87年のソウル五輪予選で日本代表に選ばれて活躍。本大会でも好成績を残し、チームの銀メダル獲得に貢献する。89年に日本ハムにドラフト1位で入団。1年目に史上2人目となるルーキーの開幕戦サヨナラ本塁打を放つ。92年はオールスターに出場し、打率.290、13本塁打をマークした。96年に近鉄に移籍後、98年限りで引退。その後は近鉄や日本ハムで打撃コーチ、スカウトを歴任。11年には台湾の統一セブンイレブンでコーチとなり、12年途中からは監督に昇格する。14年は徳島のコーチを務め、15年から監督に就任。
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