NBAの2014-15シーズンも終盤を迎え、プレーオフに向けてシード順が気になる季節に差しかかっている。
 例年、この時期には強力な本命、対抗馬が浮上しているのが通常だが、今季は特に群雄割拠のウェスタン・カンファレンスには複数の優勝候補が存在すると評判高い。そんな中で、今回は筆者が独断で優勝の可能性がある4チームを選出してみた。“4強”の戦力と不安材料を検証し、大混戦の争いを抜け出すポイントを探っていきたい。
(写真:レブロンが故郷チームのキャブズを悲願の初優勝に導けるかどうかが今春の最大の見どころとなる Photo By Gemini Keez)
 クリーブランド・キャバリアーズ(キャブズ)
 39勝24敗(イースタン・カンファレンス4位)

 現時点で関係者間の投票でも行なえば、“優勝候補筆頭”として最も多くの票を集めるのはキャバリアーズではないだろうか。
 前半戦では勝率5割前後をウロウロしていたが、レブロン・ジェームスが2週間の休養から戻った1月13日以降は20勝5敗。その期間中は相手に平均11点差をつける強さを誇示し、ロスアンジェルス・クリッパーズ、シカゴ・ブルズ、オクラホマシティ・サンダー、ポートランド・トレイルブレイザーズ、ゴールデンステイト・ウォリアーズといった強豪を蹴散らしてきた。

 レブロン、カイリー・アービング、ケビン・ラブという“ビッグスリー”を中心としたチームに、徐々にケミストリーが生まれ始めているのは明白。結局、リーグ最大の注目を浴びて発進したタレント集団にも時間が必要だったということなのだろう。

「今季開幕直後のキャブズと前半終了時のキャブズの最大の違いは、長い時間をともに過ごすことで、お互いを信頼できるようになったこと。ロッカルームで日々を過ごし、アップ&ダウンを経験し、周囲の批判を乗り越えることで、より結束の固いチームになった。その過程で自分たちが向上するために必要なことに気付いていった。特にディフェンス面ではそれが顕著で、今ではコート上でも互いに助け合えるようになっている」
 オールスター週末中のアービングのそんな言葉通り、最近のキャブズのプレーには自信と落ち着きが感じられる。

 ティモフェイ・モズゴフ、JR・スミス、イマン・シャンパートらを獲得したシーズン中の補強策も見事に的中。中でも平均1.6ブロックのモズゴフの加入は大きく、ディフェンスが安定した。そして何より、1月の故障離脱から復帰以降のレブロンは好調で、現役最強選手らしい迫力を再び感じさせるようになっている。

 時を同じくして、もともと強力とはいえないイースタン・カンファレンス内で多くのチームが停滞を始めている。ワシントン・ウィザーズ、トロント・ラプターズはやや失速。キャブズの最大の難敵と目されたブルズもエースのデリック・ローズが膝の故障を再発し、今後に暗雲が漂った。リーグ最大のサプライズチームとなってきたアトランタ・ホークスこそ依然として最高勝率を保っているが、プレーオフでの実績は皆無に等しい。

 こうして見ていくと、少なくともイースタン内では、さまざまな要素がレブロンとキャブズに味方し始めているようにも思えて来る。それゆえに、現時点での勝率が上のチームを差し置き、ここではイースタン4位のキャブズをファイナル進出の本命に挙げた。

 東ファイナルがホークス対キャブズの対戦となった場合にも、レブロン、アービングらの個人技が最終的に決め手になるように思えてならない。そのまま良い流れに乗り、古巣復帰1年目でキャブズを初のファイナル制覇に導くようなことがあれば……その偉業は、輝かしい“キング・ジェームス”のキャリアの中でも最大の勲章となるだろう。

 ゴールデンステイト・ウォリアーズ
 47勝12敗(ウェスタン・カンファレンス1位)

 1試合平均の得点、アシストはともにリーグ1位という鮮やかな攻撃力を武器に、ウォリアーズはハイレベルのウェスタン・カンファレンスでトップを走り続けてきた。シーズン終盤を迎えても、主要メディアのパワーランキングでは依然として軒並み1位にランクされている。

 MVP候補のステファン・カリー、クレイ・トンプソンの“スプラッシュブラザーズ”を軸に、アンドリュー・ボーガット、ドレイモンド・グリーンといった守備の良い選手が控える。ベンチからもアンドレ・イグダーラ、デビッド・リー、ショーン・リビングストンといった主力級が登場する武器の多さは驚異。現時点での賭け率が示す通り、プレーオフ開始時にはこのままウェスタン制覇の有力候補と目される可能性は高い。
(写真:順調に階段を上がるカリーは今プレーオフの活躍次第でクロスオーバーのスーパースターの座に到達するかもしれない Photo By Gemini Keez)

 ただ、この魅力的な躍進チームにも不安要素は少なくない。アウェー戦ばかりの厳しい日程とはいえ、オールスター後7戦中3敗とややペースダウン。2月26日にはキャブズとの注目の一戦で大敗を喫し、イースタンの他チームとの対戦でも大量リードを奪われるシーンが目立った。

「(自分たちが優勝候補なんて)クレイジーだよ。優勝に向けて誰かが優位な立場にいるなんてことがあるはずもない。ウェストでは8つの偉大なチームがプレーオフに出て来るんだからね。誰かがどう予想しようと関係ない」

 就任1年目のスティーブ・カーHCのそんなコメントは、外交辞令ばかりではなかったかもしれない。オフェンスではジャンプシュートへの依存傾向が強いこと、故障の多いボーガット以外のセンターの層が薄いこと、さらにはコーチまで含めた経験不足もあって、ウォリアーズを“優勝候補筆頭”に推すべきか頭を悩ませている関係者は少なくない。

 もちろん、シーズン中盤の中だるみはどのチームにもあることで、今後に再び勢いを取り戻しても驚くべきではない。先行きが読み辛いだけにスリリングで、それがウォリアーズの魅力でもある。“観ていて面白い”“強い”という2つの要素を高水準で兼ね備えたチームは、今後もお茶の間のファンを喜ばせ続けることができるかどうか。

 少し気の早い話だが、プレーオフでは第1ラウンドで実績あるサンダーか、サンアントニオ・スパーズと対戦が有力。その大一番を突破して勢いをつけられるかどうかが、今季の正否を左右する分岐点となることだろう。

 サンアントニオ・スパーズ
 37勝23敗(ウェスタン・カンファレンス7位)

 過去2年連続でファイナル進出し、昨季に7年ぶり5度目の優勝を果たした王者も、今季は意外な停滞を経験している。2月28日までの恒例の“ロデオトリップ”も史上初めて4勝5敗と負け越し。16期連続となるシーズン50勝以上は微妙な状況で、プレーオフにも下位シードで臨むことになりそうだ。

 トニー・パーカー、カウィ・レナード、ティアゴ・スプリッター、パティ・ミルズといった主力にケガ人続出したのが苦戦の原因。中でも鍵を握るパーカーのハムストリングの不調が長引いたことが響き、おかげでリーグ2番目に多い23通りのスタメン構成を余儀なくされてきた。

「パーカーは2月の時点で“これほど酷いケガを経験したのは初めてだ”と話していて、依然として完調には見えない。もちろん王者を見限るべきでは絶対になく、プレーオフで彼らと対戦したいチームは存在しないはず。ただ、スパーズにとっても過去数年より困難な道が待ち受けているはずだ」

 パーカーを長年取材して来たフランス人ジャーナリストは、3月上旬の時点でそう語っていた。実際にパーカーの今季の平均13.9得点はルーキーシーズンを除いて最低。そしてスパーズが今後に浮上できるかどうかは、32歳になったフランス人PGのコンディションに委ねられてくるのだろう。

 上記のフランス人記者の言葉通り、知将グレッグ・ポポビッチHC、老雄ティム・ダンカン、マヌー・ジノビリが根幹を成すチームには依然として警戒が必要ではある。それゆえに、勝率では上のヒューストン・ロケッツ、ダラス・マーベリックス、メンフィス・グリズリーズ、クリッパーズなどを差し置き、スパーズを“優勝の可能性がある4チーム”に含めた。このまま第7、8シードでプレーオフ進出したとして、彼らが第1ラウンドで上位チームを撃破しても“大番狂わせ”とは言えない。
(写真:さすがのポポビッチHC、主砲ダンカンにとっても、連覇達成は難しいか Photo By Gemini Keez)

 ただ……恐らくはプレーオフの全ラウンドでホームコート・アドバンテージを相手に奪われた立場で、高齢ロースターのチームに上位進出が可能なのかどうか。歴戦のスパーズにとっても、今春は近年以上に厳しい戦いを強いられることは間違いなさそうだ。

 オクラホマシティ・サンダー
 34勝27敗(ウェスタン・カンファレンス8位)

 今季の61試合中、ケビン・デュラントが34戦、ラッセル・ウェストブルックが15戦を故障欠場と、サンダーは頼みの両輪の足並みがなかなか揃わなかった。おかげで現時点の順位はスパーズより下の8位。

 しかし、サンダーの場合、主力が致命的に思えるほどの試合数を休みながら、それでもプレーオフ進出が有力な位置にいることが底力の証明とも言えるかもしれない。そして、今後に向けた伸びしろはスパーズ以上に大きいように思えるのも事実である。

 3月4日まで4戦連続でトリプルダブルを達成したウェストブルックは、平均27.0得点(リーグ1位)、8.2アシスト(同5位)、2.1スティール(同3位)とここに来て絶好調。トレード期限にはエネス・カンター、DJ・オーガスティン、カイル・シングラーを獲得し、的確な補強に成功した。中でもチームに欠けていたインサイドの得点力を供給するカンターの存在は大きく、層の厚さという意味では近年のサンダーで最高のロースターになった。

 バランスの良さ、経験値、何よりデュラント、ウェストブルックの強力デュオの力量を考えれば、サンダーは下位シードでも依然として怖い存在に違いない。そして、主力はより若くフレッシュだけに、ホームコート・アドバンテージなしでも勝ち上がる可能性はスパーズよりもサンダーの方が高い気がしてならない。
(絶好調の相棒ウェストブルックに加え、デュラント(写真)が完調で復帰すれば、サンダーは恐ろしい下位シードチームになる Photo By Gemini Keez)

 実は筆者はここ数年、毎年のようにサンダーを優勝候補筆頭に挙げている。才能あふれるデュオが、このまま無冠で終わるとは思えなかったからだ。そして、苦しいスタートを切った今季も、シーズンが進むにつれて徐々に体勢を整えつつある姿から希望が見えてくる。

 あとは、過去5年間で4度も得点王を獲得したデュラントさえ完調に戻れば……たとえ第8シードでのプレーオフ進出でも、オクラホマシティのタレントたちが春に揃って大爆発してもまったく驚かない。

※成績、数字はすべて現地4日終了時点。

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


◎バックナンバーはこちらから