「グラウンドに チームメートの 笑顔あり 夢を追いかけ 命輝く」
 現在開催中のセンバツ高校野球、開会式の選手宣誓で敦賀気比(福井)の篠原涼主将が短歌を詠んだことが話題になった。篠原主将によると、愛媛県出身の俳人で野球好きとしても知られた正岡子規の母校・松山東が82年ぶりに出場を果たしたことから、短歌を取り入れるアイデアが浮かんだという。スポーツと文学が合体し、印象に残る宣誓となった。
(写真:表彰を受けるスポーツ俳句大賞の受賞者)
 スポーツと俳句が融合した新しい芸術文化の創造――。この目的の下、毎年、愛媛県体育協会が主催している「えひめスポーツ俳句大賞」は今回、13回目を迎えた。同賞は正岡子規の野球殿堂入りを契機に設立され、3月21日に松山市内で2014年度の表彰式が催された。

 前回の2014年度は過去最多となる全国44都道府県から、3002句が寄せられた。今回の応募は42都道府県から、作品数(1人5句まで)では前回を上回る3545句。応募者数も27名増えた。「スポーツ俳句という文化が徐々にではあるが、全国に浸透してきた」(県協会・大亀孝裕会長)と言える結果だ。集まった作品の中から4人の審査員の選考により、各部門で大賞が決定した。

 ここで各部門の大賞作品を紹介しよう。
◇俳句部門(一般)大賞
 秋晴の 勝利の腿を 叩きけり(愛媛県・櫛部天思さん)
◇俳句部門(ジュニア)大賞
 夕焼けを こわしてしまった ホームラン(神奈川県・佐藤洸希さん)
◇ハイブリッド部門大賞
 炎昼に シュートを放つ 十八番(写真)(愛媛県・小川真名美さん)

 一般の部で大賞を受賞した櫛部さんの一句は、自転車でしまなみ海道を走破した喜びが「勝利の腿を叩く」という行為から、ひしひしと伝わってくる。審査委員長を務めた愛媛県俳句協会の福谷俊子会長は「秋晴れの1日、燃焼しきった充足感が伝わってくる爽快な句」と高い評価を与えた。

 また、ジュニアの部の大賞作は、渾身の一振りで打球が空高く跳んでゆく感動を「夕焼けをこわしてしまった」と巧みに表現。福谷審査委員長も「みずみずしい感性」と絶賛した。また、ハイブリッド部門の大賞は愛媛FCレディースの選手が力強くシュートを放つ瞬間を撮影している。福谷審査委員長は「写真があって、下五の“十八番”が納得できる」と、句との相乗効果を大賞に推された理由にあげた。

 各部門では大賞に準じる「金賞」「銀賞」「銅賞」も決まり、一般の部では先に紹介した櫛部さんの作品の他、「バーの影 濃き炎昼の ハイジャンプ」(山梨県・松田健嗣さん)、「ラグビーの 試合始まり 大薬缶」(静岡県・今井克己さん)、「ボクサーの ほんとはやさし かき氷」(愛媛県・戸田政和さん)、「三遊間 守りきったる 夏終る」(同・黒田美穂さん)が金賞に輝いた。

 ジュニアの部で金賞に選ばれたのは、「カキーンと 鳴り響く音 夏の空」(熊本県・赤星空さん)、「竹刀ふる 流れる汗を 気にせずに」(長崎県・岩永稜人さん)、「夏空の 空気切裂く 矢を放つ」(同・田中龍二さん)、「水飛沫 プールの端に 突き刺さる」(青森県・渋谷憲伸さん)。ハイブリッド部門では「スタートの 緊張ほぐす 春の風」(兵庫県・高橋一吉さん)、「甲子園 喜び届く 春切符」(写真)(愛媛県・藤原利忠さん)が金賞に選出された。

 さらに愛媛県内の各メディアによる「報道関係賞」も設けられ、「札の辻 過ぎればゴール 椿東風」(南海放送賞/愛媛県・平岡喜代美さん)、「泳ぎきる 九十二歳の ピンク帽」(南海放送賞/愛媛県・山本佐惠美さん)、「あと一球 汗が手のひら 伝うとき」(愛媛朝日テレビ賞/神奈川県・金木壮太さん)、「春風が 走るぼくらを 追いかける」(あいテレビ賞/青森県・内田大空さん)などが表彰を受けた。

 17年に開催される「愛顔つなぐ えひめ国体」では47都道府県から選手団が参加する。県体協ではその前に、スポーツ俳句大賞への全都道府県からの応募を達成したい考えだ。県体協では広報活動に力を入れ、来年度は、さらに多くのスポーツ俳句が集まることを期待している。また写真と俳句を融合したハイブリッド部門を普及させ、応募数を増加させたい意向だ。

 県体協の大亀会長は「これを機に、全国のスポーツファンおよび俳句や写真愛好者の皆様には、俳句王国・愛媛発のスポーツ俳句を楽しんでいただき、いろいろなスポーツの現場に足を運ばれて臨場感あふれる作品をお寄せいただきたい」と語る。2年後のえひめ国体は愛媛県では初の単独開催となるだけに、県民総参加がコンセプトだ。大亀会長は、スポーツ俳句を通じ、「スポーツ関係者だけではなく、あらゆる方々に関心を持っていただき、えひめ国体で活躍する選手たちを応援していただければ」と願っている。
(写真:一般の部で大賞に輝いた櫛部さん)

 福谷審査委員長が「スポーツを愛好される方々はもちろん、スポーツ俳句は苦手と感じられている俳人の方々も溌剌としたエネルギーにとけ込んで、是非1句に挑戦されることをお奨めいたします」と講評したように、スポーツ俳句はまだまだ可能性を秘めた分野だ。スポーツ俳句大賞では国体の実施競技に合わせて、競技を41グループに分けて、投句を受け付ける。国体では各会場に、その競技の優秀作品を展示し、選手・関係者や応援に訪れる観客たちに見てもらうのもひとつのアイデアだろう。

 スポーツの感動やときめきを表した五・七・五は、きっと目にした者の思いと重なり、印象に残るはずだ。そんな心の“お土産”づくりは、愛媛ならではの“おもてなし”と呼べるかもしれない。

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関連リンク>>公益財団法人 大亀スポーツ振興財団

(石田洋之)

(このコーナーでは2017年の「愛顔つなぐ えひめ国体」に向けた愛媛県やダイキのスポーツ活動について、毎月1回レポートします)
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