4月7日から水泳の日本選手権が東京辰巳国際水泳場で開催される。同選手権は夏の世界水泳(ロシア・カザン)の代表選考会を兼ねており、来年のリオデジャネイロ五輪にもつながる重要な大会だ。最先端の水着素材を発表し続けている山本化学工業でも、選手たちが、どんな好タイムを残すか大いに注目している。

(写真:3月11日から都内で開かれた健康博覧会ではブースを出展。最新水着素材も紹介された)
「トップスイマーでも、表面を親水加工して水との抵抗を軽減させた我々の素材を使った水着を着用している選手が増えてきました。高速水着の登場以降、締めつけによって体の表面積を小さくすることで抵抗を減らすという発想が主流でしたが、最近は再び体の動かしやすさ、機能性を重視する方向に戻りつつあります。その方がパフォーマンスを最大限発揮し、タイムも速くなるという認識が生まれてきていますね」
 山本富造社長は、選手の水着に対する意識の変化を実感している。

 今回の日本選手権には間に合わないが、この3月には、水に触れる表面のみならず、皮膚と接する内側にも親水性をもたせた新素材「BRS-4TP」を発表した。これにより、泳ぐ際に生じる皮膚と水着の摩擦抵抗を極めて小さくすることでパフォーマンス中の筋肉への負担を軽減させている。「両面親水」といっても、繊維自体は吸水の少ない特殊ポリエステル糸を使用しており、水を含んで重くなることはない。伸縮性も追求しており、着心地の良さも特徴だ。

「実際、リオ五輪の候補選手にも試着してもらいましたが、“水中での抵抗感が全く違う”という感想をもらっています。“水着を着ているのに、着ていない感じがする”と。トップ選手にとって、五輪に向けて好成績を残すための“勝負水着”になると確信しています」
 
 現在、山本化学工業では、この新素材を国際水泳連盟に認可申請中。夏の世界水泳では山本社長曰く「世界最速の水着素材」を選手に供給できる見通しだ。

「本番では新素材、練習ではゼロポジション。この2つを併用することで正しいフォームを身につけ、練習で高めた実力をレースで100%出せるはずです」
 山本社長がそう強調するゼロポジション水着は、年々、スイマーたちの間で認知度が高まっている。パフォーマンスをあげたいトップ選手のみならず、きちんとした泳ぎ方を指導したい学校やジムからも問い合わせ、購入が相次いでいるという。

 ゼロポジション水着は、体の浮心と重心とを一致させるように矯正することで、バランスのよいフォームで自然と泳げるように促す。
「実は最近、他社でも我々の発想に便乗して、浮力をつけることで泳ぎの姿勢を改善しようとする水着が登場してきました。我々とびわこ成蹊スポーツ大とが共同で生みだした“ゼロポジション”のコンセプトが認められたことは光栄です」

 とはいえ、他社が追随すれば、山本化学工業のメリットが薄れるのではないか。そんな素朴な疑問に、山本社長は「脅威は感じない」と断言する。

「まず第一に他社製品はクッション性の浮く素材を入れることで浮力をつけています。しかし、別の物質が入っていると、泳ぐ際には、その部分がどうしても体の動きを妨げてしまいます」
 ゼロポジション水着で使われているのはラバー素材のみ。その厚さを部位によって変化をつけることで浮力を与える。どの箇所に、どの程度の厚みをもたせるかは、びわこ成蹊スポーツ大の若吉浩二教授がデータ分析を行い、試行錯誤を繰り返しながら、最適な値を出した。「泳ぎやすさではかなり差がある」と山本社長は指摘する。

 加えて、使用するラバー素材には、山本化学工業が長年、実績をあげてきたウェットスーツ用素材と全く同じものが搭載されている。
「水との表面摩擦が少ないだけでなく、伸縮性にも富んでいます。筋肉の動きに対して素材が押し戻そうとしないのでスムーズな泳ぎが可能になるんです」
 付け加えれば、山本化学工業は医療機器の国際品質保証規格「ISO13485:2003」を取得している。設計開発、製造、出荷に至るまで高い基準の安全性をクリアした中でゼロポジション水着はつくられているのだ。

 わざわざ高品質にしている理由を山本社長は「いい泳ぎをするには練習が最も大事だから」と明かす。
「練習で最高の感覚を身につけることが大切だと我々は考えています。練習用だからと言って、機能性は不要なのではありません。むしろ長時間着用する練習用水着だからこそ、着心地やハイパフォーマンス性を重視したいんです」

 ここまでこだわっているからこそ、山本社長は「他社には浮力をつける発想の部分はマネできても、性能の高さではマネできない」と胸を張れるのだ。
「むしろ他社製品が出てきたことで、よりゼロポジションの考え方は広まるでしょう。より速く泳ぎたいという選手がレベルアップするチャンスができました。我々の製品の良さも、もっと多くの人に実感してもらえるはずです」

 試合用水着の新素材とともに、ゼロポジション水着が、多くの選手たちの良きパートナーとして自己ベスト更新を後押しする。山本化学工業は、リオ五輪、そして2020年の東京五輪に向け、日本人の泳ぎが、さらなる進化を遂げてほしいと強く願っている。

 山本化学工業株式会社