この春に発表した山本化学工業の競泳用水着素材は4月3日付で国際水泳連盟(FINA)の公認許可を取得した。「両面親水」の加工を施し、水の抵抗のみならず、皮膚との摩擦も限りなく軽減させた新素材は話題になっている。
「“使ってみたい”というオーダーを多数いただいています。かなり需要が高いですね」
 山本富造社長は反響に手応えを感じている。

 この「両面親水」の素材は、競泳用以外にも用途が広がりそうだ。山本社長がこの先考えているのが、トライアスロン用ウェアへの応用である。
「スイムの際に抵抗を感じないのはもちろん、その後のバイクやランにおいても、皮膚側の親水部分がパフォーマンス向上に効果を発揮するとみています。汗がまとわりつかないのでストレスを感じにくいはずです」

 2016年のリオデジャネイロ大会からはパラリンピックでもパラトライアスロンが採用される。実用化するには、バイクやランの動きに適したかたちに素材を改良する必要が出てくるが、山本化学工業では2016年のリオ、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて開発を進めたい意向だ。

 トライアスロンでは水温が低い場合、選手たちはウェットスーツを着用する。このウェットスーツにも、このほど山本化学工業が発表した新素材が搭載される見込みだ。着用感ゼロを追求した「Air Face Skin」である。

 トライアスロン用のウェットスーツ素材として圧倒的なシェアを誇る山本化学工業は、表面に翼型やハニカム形状の細かな凹凸をつけることで、スイム中の水抵抗を限りなくゼロに近づける工夫を施してきた。今回発表したAir Face Skinでは、従来のウェットスーツでは当たり前だった内側の繊維部分を取り除き、皮膚との摩擦を小さくした。

「繊維を使わないことで、動きやすさに加え、軽さも追求できます。既にテストを行っていますが、“何もかも変わった感じがする”と好評ですね」
 山本社長も胸を張る新しいトライアスロン用ウェットスーツは近々、発表される。

 トライアスロンの世界でもスイムの練習中に「ゼロポジション水着」を着用したり、ランのトレーニングで「ゼロポジションベルト」を活用するトップ選手が増えてきた。
「ゴルフのドラコンで日本一の実績もあるプロゴルファーの南出仁寛選手も、このベルトを使って好成績を出しています。骨盤のズレを調整することがパフォーマンスを安定させることにつながるとの認識が競技の枠を超えて広がっているのではないでしょうか」

 スイム、バイク、ランの3種目を一気にこなすトライアスロンでは体のバランスが狂えば、動きにもブレが生じる。それがタイムにも直結する。体格で劣る日本人が世界でトップに立つ上で、ゼロポジションの概念がさらに浸透してほしいと山本社長は願っている。

 山本化学工業株式会社