「ハパルア」という言葉をご存じだろうか? 知らなくても決して珍しくはない。意味はハワイ語で「半分」。この言葉が日本で認知され始めたのは昨年あたりからで、「ハパルア」というランニングイベントが浸透してきたからである。
(写真:今年は7000人の参加者でスタート地点もにぎわった)


「ホノルルハーフマラソン・ハパルア」がハワイで開催されて4年目。すっかり現地では「ハパルア」という名前で認知され、今年4月12日に開催された4回目の大会は7000人を超える参加者となった。誰もが知っている「ホノルルマラソン」を運営するホノルルマラソン協会が作った大会だけに、その運営体制はしっかりとしており、地元での人気を呼んでいる。日本人参加者も今年は1000人を超え、じわじわと広がりをみせている。しかし、日本国内でこれだけ大会がある中で、ましてや21?を走るためにわざわざ海外まで行くのか。できた当初は関係者にもそんな疑問があった。「せっかく遠くまで行くなら長い距離を走りたい」という消費者心理があるのがエンデュランススポーツの世界。確かに、ハーフのために海外に行くのかという思いは僕にもあったのだが……。

 本家のホノルルマラソンは言うまでもなく、日本では海外マラソンの王様と呼べる存在だ。ピーク時には2万人を超える日本人参加者を集めており、国内レースが増えた近年でも1万2千人以上。他の海外マラソンで、日本人参加者が1000人を超える大会は見当たらず、この数字はすごい。そう考えると4年目にして1000人を集めたハパルアも驚異的と言うべきであろう。
(写真:素晴らしいロケーションは参加者を和ませる)

 この数字の根底にあるのは、やはりハワイというロケーションに依る所が大きい。日本人がもっとも愛するリゾート地での開催はその場所、いや名前だけでも多くの人を魅了する。さらには気候である。記録を狙うマラソンとしてはやや暑いものの、ゆっくりと完走を目指すならば、太陽でさえ演出になる。適度に乾燥した空気もスポーツの心地よさを盛り上げる。ホノルルマラソンやハパルアに向かうのには、「どうせ海外に行くならハワイがいいよね」や「ハワイに行く言い訳に、ランニングも悪くない」というような心理が働いていることは間違いないだろう。

 高過ぎない“ハードル”

 それ以上に大きいのは、やはりハワイの人々が作り出すあの空気感だ。遅くても速くても、同等の声援を楽しそうにかけてくれる沿道の人たち。本気でサポートしてくれるボランティアの笑顔。この何でも許容してくれそうな雰囲気こそがハワイスポーツの魅力である。そして、それを表すかのように、ホノルルマラソンもハパルアにも制限時間が設けられていない。「スタートした人はやめない限り待ちますよ」というスタンスは、世界でもまれにみるアロハホスピタリティ。そういえば、5月に開催されるホノルルトライアスロンにも制限時間がない。この地ならではの慣習こそが、人を惹きつける所以なのだろう。

 今年のハパルア参加者に話を聞いてみると、やはり圧倒的に多いのは「マラソンなんて、とてもとても」というマラソン未満の人々だ。「ハーフだったら」との気持ちで参加したり、仲間を誘って来ることにした人は多い。やはりマラソンに比べると、参加のハードルは随分と下がるようだ。「心臓に持病がある」とか「膝の故障が……」などと、身体的な問題がある方も少なくなかった。それでも、ハーフなら挑戦してみようという気持ちにさせてくれる。ハーフだからこそ参加に踏み切れたのだ。そう考えると、この距離のレースがあるのは決して無駄ではない。

 完走し、満足感に浸っているランナーたちに「次回はフルマラソンですか?」と聞いてみた。半数以上が「これで少し先が見えたので考えます」と答えてくれたが、意外にも「来年もまたこの大会を目標にします」という方も少なくなかった。「今の私のとってはハーフで十分なんです。欲張り過ぎず、これからもマイペースで走ります」。ある老人のこんな言葉に忘れかけていた事を再認識した。必ずしもすべてのランナーがすべて最終的にフルマラソンを走る必要はなく、ハーフで楽しさを持続するという選択肢もある。走ることの終着点はマラソンだけではない。そんなことを思い出させてくれるイベントなのだ。
(写真:参加者の中には、8歳と11歳の兄弟もいた)

 果たして、このハパルアはどこまで育つのか。単純に距離が半分だから魅力も半分というわけではない。それ以上の満足度がある大会ならば、まだまだ大きくなるはず。そうなったとしても、この雰囲気を保つことができるであろう「ハパルア」の知名度は、日本国内でもまだまだ広がるのではないか。
 さて、マラソン未満の皆さん、来年は出場してみますか!?

参考 ホノルルハーフマラソン・ハパルア公式HP [/b]

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。13年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)を出版。
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