「グラウンドにはゼニが落ちとる」
 との名言で知られる南海の元監督・鶴岡一人が生きていたら、「守備だけでゼニが取れる選手やな」と目を丸くしたのではないか。
 広島のセカンド菊池涼介の守備は、見ているだけで視線が痙攣する。名セカンドといえば、高木守道や土井正三、辻発彦、近年では荒木雅博(中日)や藤田一也(東北楽天)らの名前が思い浮かぶが、菊池のプレーは異次元である。


 あえて菊池に近いプレーヤーをあげるとすれば、水島新司の漫画『ドカベン』シリーズの殿馬一人か。神出鬼没にして変幻自在。味方ですら読めないプレーが殿馬の持ち味だった。
 菊池のプレーもまた、誰も読むことができない。

 センターの丸佳浩の菊池評。
「外野手はカーンと音がした瞬間、だいたい、どこに打球が飛んでくるかがわかる。キクはヒットと思った打球まで捕ってくれるから助かります」

 昨季はセカンドで535補殺を記録し、自らが2013年につくった日本記録(528補殺)を更新した。

「(補殺記録の)1、2、3位は、すべてオレじゃん、というのがいい」
 菊池は独特の言い回しで、今季の抱負を口にした。

 レギュラーを獲って、今季で3年目。守備力がさらに磨かれたきっかけはキャッチャー石原慶幸の次の一言だった。
「あれじゃ、わかっちゃう。もうちょっと遅めに動いた方がいいんじゃないか」

 カンが鋭く、読みもいい菊池はキャッチャーのサインを確認した瞬間、打球の行方を予測してサッと動くクセがあった。そうなると、配球も読まれ、器用なバッターは打球方向を変えてくる。石原は、その点を指摘したのである。

 MLB史に残る名ショート、オジー・スミスをして、「オズの魔法使い」と呼んだが、いずれ菊池も、その域に達するのではないか。私の目には「ユニホームを着た忍者」のように映る。

<この原稿は2015年4月27日号『週刊大衆』に掲載されたものです>


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