ここまでは7勝15杯2分と地区最下位。新規参入で当初は練習場所の確保も難しかったことを考えれば、苦戦は想定の範囲内でした。ただ、試合を重ねるにつれ、打線は活発になっています。
 シーズンを迎えるにあたり、僕は野手に「打順は固定しない」と言ってきました。このリーグではDH制が採用されていますから、たとえば1番と3番、2番と9番に求められる役割は似ていると考えています。1番と3番は出塁率が高く、パンチ力があるタイプ。2番と9番は小技ができ、野球をよく知っているタイプ。このタイプに選手たちを当てはめ、いろんな打順を経験させたいと思いました。

 若い選手たちはNPB入りを目指しています。監督としての役割は勝ち星を重ねながら、選手たちの可能性を少しでも広げること。打順はもちろん、守備でも複数ポジションに就いてもらっています。何といってもユーティリティプレーヤーであることは大きなアピールとなることは間違いありません。

 その点では4番の生島大輔はバッテリー以外はどこでもでき、ベンチとしては非常に助かる選手です。バッティング自体は4番タイプではありませんが、打率が3割を超え、勝負強い点を買って中軸に据えました。一時期、ロッテの4番を務めていたサブローさんと同じ位置づけと言えるでしょう。

 4番はここまで、23歳のショート岡下大将にも打ってもらいました。ただ、彼がNPBを狙うなら、トップバッターとして売り込んだ方がいいと判断し、今は1番にしています。このように選手たちの特徴や将来性を踏まえながら、いろいろと起用法を試行錯誤しているところです。

 野手が徐々にバットが振れてきているだけに、課題は投手陣です。現状、故障者もいて、頭数が不足しています。それ以上に悩ましいのはバッターよりも自分と勝負している選手が多いこと。コントロールを乱して四球を出し、ストライクを取りに行ったところを打たれる悪循環に陥るケースが目立っています。

 こういう選手はプロとして、いずれ使う側が決断をしなくてはなりません。独立リーグは上へのステップアップの場であると同時に、野球の道を諦める場でもあります。選手たちには自分の実力を認識し、納得して次の進路に進めるようにすることも監督の役割ととらえています。

 独立リーグはコーチが少なく、選手兼任で監督をするのは正直言って大変です。しかも、僕はMLB、NPBでプレーし、独立リーグにやってきた身。僕に対して周囲は“スーパーマン”のようなイメージを持っているのではないでしょうか。その高い期待に応え、チームをまとめていくことは並大抵ではありません。

 しかし、野球はバッティングひとつとっても7割は失敗するもの。ピッチャーだって、ずっとパーフェクトに抑えることはあり得ません。独立リーグといえども、それは一緒です。

「よそいきの野球をしない」
 福島でプレーイングマネジャーをするにあたって、僕はこの点を強く意識しています。たとえ凡退しても、エラーをしても、それも含めて岩村明憲という野球人なのです。そのすべてを選手たちに見てもらい、一緒になってボールを追いかけたいと考えています。このチームは真田裕貴コーチも村田和哉コーチも選手兼任。実践して選手に伝えることができるのは、むしろ強みと思っています。

 このような認識に至ったのも、楽天での失敗があるからです。楽天ではMLBでの実績を証明しなくてはいけないと必要以上に力が入ってしまいました。結果、故障もあって自分らしい野球ができず、東北のファンの方には申し訳ない働きしかできませんした。

 今回、大変だとわかっていて、選手兼任監督を引き受けたのは、宇和島東高時代の恩師・上甲正典監督の言葉が耳に残っているからです。昨年、上甲さんが亡くなる4日前にお見舞いに行った際、「オマエは野球界の改革者になれ」とのメッセージをいただきました。

 僕ひとりの力で野球界を改革できるとは思いません。しかし、まずは高校やNPB、MLBで学んできたことを後進に引き継ぐ中で、野球界を変えていくきっかけができるかもしれないと考えています。たとえば、日本人内野手はなかなかMLBで活躍できない現実があります。外国人の強烈なスライディングでケガをしないためには、どんな動きをすればよいか。これは実際に体感した人間にしかわからないでしょう。こういった指導を若い時期からしていけば、将来、MLBでも通用する日本人内野手が現れるかもしれません。

 ですから、福島では選手としてプレーしつつも、メインは指導者です。僕がずっとスタメンで出たり、競った展開のチャンスで代打に出れば、勝てる確率は高いかもしれません。しかし、それでは若手の成長の機会を奪ってしまいます。まだまだ体は動きますし、お客さんに喜んでいただけるのであれば、と打席に立っていますが、僕の出番は勝ちゲームで大差がついている時に限るのが理想です。

 このチームは伸び盛りで可能性を秘めています。今は借金が多くなっていますが、ひとつずつ返していけば上位進出は不可能ではありません。今後は新戦力を加えながら、チーム力を底上げしていくつもりです。シーズントータルで40勝。これを1年目の目標に1試合1試合を大切に戦っていきます。


<岩村明憲(いわむら・あきのり)>:福島ホープス選手兼任監督
1979年2月9日、愛媛県出身。右投左打の内野手。宇和島東高から97年ドラフト2位でヤクルトへ入団。00年にはサードのレギュラーとなり、ゴールデングラブ賞を初受賞。翌年、ヤクルトの日本一に貢献した。04年に自己最多の44本塁打をマークしたのを皮切りに、3年連続で打率3割、30本塁打以上を記録。ベストナイン2回、ゴールデングラブ賞6回の実績を残し、06年オフにポスティングシステムでデビルレイズ(現レイズ)に移籍した。慣れないセカンドへのコンバートを経験しながら、08年には1番打者としてチームを牽引。チームを球団創設初のリーグ優勝に導いた。WBCでは06年、09年と日本代表のメンバーとして連覇を果たしている。10年はパイレーツへ移籍したが、9月にアスレチックスへ。11年から日本球界に復帰し、楽天、ヤクルトでプレーした。今季から新規参入球団・福島の選手兼任監督に就任。NPBでの通算成績は打率.290、193本塁打、615打点。MLBでの通算成績は打率.267、16本塁打、117打点。
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