水泳の世界選手権は競泳競技が開幕している。国際水泳連盟が認可した山本化学工業の競泳水着用素材も海外で6社ほどのメーカーが採用。最先端の水着を着用して、各国の選手に好記録が生まれることが期待されている。

「現在、世界水泳に出場している選手が、我々の高機能素材を着用し、記録を出してくれることはうれしく思います。ただ、それよりももっと大切なことがあると考えています」
 山本富造社長が見据えるのは次世代のスイマーたちだ。

「将来性豊かな選手たちがパフォーマンスを高め、潜在能力を引き出して、可能性を開花させる。それが将来の世界水泳や五輪につながっていきます。ぜひ小学生、中学生、高校生に我々の水着素材を体感してほしいのです」

 山本化学工業では本番用のみならず、練習用として「ゼロポジション水着」を開発している。体の浮心と重心とを一致させるように矯正することで、自然とバランスのよいフォームで泳げるように促す水着だ。

 ゼロポジション水着はトップスイマーはもちろん、大学生や中高生の間でも有効なツールとして認められてきており、現在、注文と問い合わせが殺到している。「生産が追いつかず、3週間待ちの状態です」と山本社長もうれしい悲鳴をあげている。

 ゼロポジション水着で効率よく泳ぐフォームを身につければ、次はいかに本番でタイムを伸ばすか。ここで他社の水着素材にはない山本化学工業の特長が生かされる。それが、水との抵抗が限りなくゼロに近づく親水性をもたせた素材だ。

「着用して泳いでもらえれば、他とは全く違うことに気づくはずです。この感覚をひとりでも多くの若いスイマーに味わってほしいと思っています」
 山本社長は高機能素材に自信をのぞかせる。こうして若い世代に山本社長が着用を勧める理由はもうひとつある。それは「着こなすほど、素材の特性を生かした泳ぎが可能になる」からだ。

 F1のマシンでエンジンやタイヤの特徴に応じてドライバーが走りを変え、競馬で馬の性質によってジョッキーがたずなさばきを変えるように、他にはない親水性素材を用いた水着にも、それに合った泳ぎ方がある。

 山本社長は「たとえば飛び込みでは深く潜るようにした方がいい」と明かし、続けた。
「深く水中に入るように飛び込むことで、水着全体の親水性が発揮され、その分、水との抵抗が小さくなります。これにより、効果的な加速につなげられます」

 同様にターンの際にも、水中に潜るように泳いだ方が水の抵抗が極めて小さい素材の良さが生かされ、スピードを増すことができる。こうした泳ぎを身につけることで、より選手の能力と相まって、好結果につながるというわけだ。

「若い世代は、発展途上で泳ぎも柔軟です。年齢を重ねると、簡単に泳ぎは変えられない。だからこそ、若い選手たちに、何度も泳ぐ中で、この素材の長所を早く理解し、水中で体と水着が一体になる感覚をつかむ泳ぎをしてほしいんです」
 
 水着が変われば泳ぎが変わる。泳ぎが変わればパフォーマンスが変わる。パフォーマンスが変わればタイムが変わる――。5年後の東京五輪を視野に入れ、山本社長は、この点を広く若いスイマーに訴えたいと考えている。現在、山本化学工業が提携している近畿大の水上競技部にてゼロポジション水着や、山本化学工業の最新素材を使用して、具体的にどのくらいの成果が見られるのか調査、研究する共同プロジェクトも進行中だ。

「可能性のある選手たちに希望を与え、力を100%引き出す。これが我々の役割だととらえています」
 100分の1秒でも速く――。アスリートの飽くなき欲求に最大限応えるべく、山本化学工業はたゆまぬ素材開発、改良を重ねている。

 山本化学工業株式会社