7日、日本男子バレーが16年ぶりの五輪出場を決めた。その植田ジャパンを攻撃の要として牽引したのが山本隆弘選手だ。果たして、スーパーエースの役割とは? そして五輪にかける思いとは? 二宮が山本選手の本音を訊いた。
※昨年行なわれた明治製菓SAVASサイト内「二宮清純のラボ取材記」でのインタビューの内容をリライトしたものです。
二宮: 日本代表入りして何年くらいですか?
山本: 7年目です。
二宮: 北京五輪には是が非でも出たい気持ちはあるでしょうね。
山本: そうですね。北京五輪の時には30歳。年齢的にもラストチャンスだと思っています。
二宮: 男子は3大会連続で五輪出場を逃しています。何が足りないと思いますか?
山本: 勝てる相手にも負けたりしているのは、経験が足りないのでしょうか……。あとは代表メンバーをコロコロ替えるのではなく、ある程度固定してチームをつくっていかなければいけないと思います。
毎回、五輪最終予選の前にW杯があるのですが、前回のアテネの時はW杯と最終予選でメンバーとガラッと替わってしまったんです。替わったメンバーで十分に練習を積むことができれば、強くなるかもしれませんが、その間にVリーグがあります。ですから、最終予選に向けた練習は約1カ月しかできません。そうすると、コンビネーションを合わせることが難しくなってくるんです。
二宮: 2005年からは植田監督が指揮をされています。どんな人ですか?
山本: 厳しい人ですよ。妥協は絶対にしない。
二宮: 植田監督からよく言われることは?
山本: スーパーエースはチームの大黒柱なんだから、普段からそういう空気を出せ、と。それとゲーム中でも僕がチームのムードをつくっていくようにとは言われています。プレー以外のところでも厳しく言われますね。
二宮: 例えばどんなことですか?
山本: チームが一番苦しいときに打つのがスーパーエースである僕なので、セッターに対しては妥協をせずに言いなさいと言われています。
二宮: やっぱり最後はスーパーエースだということですね、勝つのも負けるのもお前次第だ、と。
山本: はい。だから、他のアタッカーが「あのとき、こっちに上げていれば何とかなったかもしれないのに」という思いを起こさせないような雰囲気をつくらないといけないんです。それを練習中から出していけるように、とずっと言われています。
二宮: 1試合で60〜70本のスパイクを打つそうですが、成功率は?
山本: 40〜55%くらいですね。50%いけばいいほうです。というのも、いい状態でのトスは少ないんですよ。サーブレシーブがきっちり返っていれば、スーパーエースを使う必要はありません。サーブレシーブが崩れて、2段トスを上げないといけない時に、スーパーエースに頼る、というケースが多い。だから僕のポジションは、崩れた状態から打つことが半分以上なんです。
二宮: スーパーエースはサーブレシーブはしませんが、ブロックで守備に加わりますよね。どちらの方が決まると嬉しいものですか?
山本: うーん……状況によりますね(笑)。例えば、1対1になったときに、相手の動きを完全に読んでブロックを止めたらやっぱり気持ちがいいですね。スパイクでも3枚ブロックが跳んでいるのに、それをうまくかわして決めたときは最高ですよ。まあ、点数が入れば、どちらも嬉しいですね(笑)。
二宮: スパイクを打つ時には、相手の動きは見えるものですか?
山本: 跳んだ瞬間に、ブロックの動きをまず見るんです。それから、向こうのレシーブフォーメーションを見て、そこでどこにどう打つかを決めます。ただ、打つ瞬間に動かされたら、変えようがないですけどね。
二宮: 0コンマ何秒の時間でそれだけのことを見て、考えるんですか? すごいですね。
山本: 決め打ちすると、相手に読まれてしまうんです。
二宮: スパイクを打ちやすいブロッカー、逆に打ちにくいブロッカーというのはあるんですか?
山本: ブラジルのセンターブロッカーは嫌ですね。ジャンプして、どういう動きかっていうのを見ようとしても、まだ相手の手が出てきていないんです。こっちが打つまで手を出さないんですよ。だから、打つ方としては動きが読めないんです。
二宮: まさに神技ですね。そんな瞬間的に手を出せるものですか? しかもあの至近距離で……。
山本: うまいブロッカーは本当に、こちらが打ってから出しますね。ある程度は構えておいて、スッと出してくる。一番タチの悪いブロックですよ(笑)。
二宮: ブロッカーのクセを把握したりしてるんですか?
山本: しますよ。データである程度の傾向を出すんです。
二宮: お互いに手の内をわかっているんですね。
山本: そうですね。当然、アタッカーの得意コースは調べられますから、そこしか打てないという選手は、すぐに通用しなくなります。
二宮: 山本さんはサウスポーだから、相手にしてみたら守備がやりづらいのでは?
山本: 右利きの選手とはボールの回転が違うので、やりづらいとはよく言われますね。バレーボール界ではサウスポーの選手が少ないので、左の回転に慣れていないんです。
二宮: 回転は自在にかけられるものですか?
山本: だいたい、かけられます。
二宮: フォークボールみたいに落としたりもできるんですか?
山本: フローターサーブで無回転で打つと、落ちることはあります。でも、狙ってはできないですね。
二宮: 体育館の気圧に左右されたりしますよね。海外と日本との違いもあるのでは?
山本: あると思いますね。あとは空調が、上から下に来ているのか、横から出ているのかによって、ボールの伸びが変わるんです。
二宮: 試合前にチェックされるんですか?
山本: 事前の練習のときにチェックしますね。どの方向から打てば伸びるとか、逆に伸びない方向からはどんなに強く打っても抑えられるので、強打したりします。
二宮: 会場を知っている方が有利ですね。
山本: そうですね。海外では前日にチェックするしかないんですよね。
二宮: バレーボールは、さまざまな予備知識を仕入れていないとダメなんですね。ところで、日本はなかなかアジアの代表になれませんが、現在、アジアの強豪国はどこなんですか?
山本: 韓国と中国ですね。ただ、イラン、オーストラリア、インド、サウジアラビアなども、力をつけてきていますから油断はできません。
二宮: 世界のトップとなると、イタリア、ブラジルというところでしょうか?
山本: そうですね。その他、キューバ、ロシア、セルビア、米国、カナダも強いですよ。
二宮: 日本もその仲間入りを果たしたいですよね。そのためにも五輪出場は絶対条件。山本選手にとって、五輪とは何ですか?
山本: 子供の頃、2回くらい五輪での全日本の試合を観た覚えがあります。でも、表彰台に上っている姿は観たことはありません。
僕自身、五輪に出るなんて最初は遠い夢でしかありませんでした。ただ、大学4年で全日本に選ばれてから、夢から目標に変わったんです。ずっと、その目標を目指してやってきました。北京五輪は最後のチャンス。絶対に切符を獲得して、五輪の舞台に立ちたいと思います。