北京五輪代表選考会を兼ねた陸上の第92回日本選手権が6月27日、川崎市等々力陸上競技場で2日目を迎えた。男子400メートル障害決勝でアテネ五輪代表の為末大(APF.TC)が49秒17で優勝、3大会連続での五輪出場が内定した。男子200メートル決勝では高平慎士(富士通)が20秒74で優勝、アジア記録保持者で3連覇を狙った末續慎吾(ミズノ)は3位に終わった。
(写真:女子1万メートルを制した渋井。後方は2位の赤羽、3位の福士)
 男子ハンマー投げ決勝はアテネ五輪金メダリストの室伏広治(ミズノ)が2位に10メートル以上の差をつけ、80メートル98で日本選手権14連覇を達成。女子1万メートル決勝では、いずれもA標準記録を突破している渋井陽子(三井住友海上)、福士加代子(ワコール)、赤羽有紀子(ホクレン)がデットヒートを繰り広げ、ゴール直前で赤羽を交わした渋井が31分15秒07で優勝。悲願の五輪初出場が内定した。

 女子走り幅跳びでは池田久美子(スズキ)が6メートル42で3位に終わり、今大会での内定を決めることはできなかった。

為末、「今までの日本選手権で一番嬉しい」

 日本記録保持者の為末、日本歴代2位の記録を持ち今季好調の成迫健児(ミズノ)の対決に注目が集まった男子400メートル障害決勝。春先にふくらはぎを痛めるなど不調が伝えられた為末が底力を見せた。
 スタート直後から飛び出す積極的なレース運び。追う成迫に9、10台目のハードルで並ばれたが、そこからさらに加速し、ライバルを突き放した。7度目の優勝とともに、3大会連続の五輪切符を手にいれた。
 ゴール直後は、両手で顔を覆って天を仰いだ。「ここまで走れるとは思わなかった。自分でもびっくりしている」。前日の予選では、2組で1着となったものの成迫のタイムに1秒近く遅れる50秒87。「昨日の感じでは、成迫君には勝てないと思った。体調は昨日と変わっていなくて、成迫君には負けても、2着には入りたいと思っていた」と語るほど、自信を失っていた。
 だが、スタートの号砲と同時に、勝負師としての魂に火がついた。
「確実に2着に入るという安全策も頭にあったが、スタートしたら気持ちが入って、最初から飛ばしてしまった。声援にかきたてられたというのもある。ラストは特にあり得ない力が出た感じ。リミッターを振り切ったとしか言いようがない。予選が終わった時点で気持ちがチャンピオンではなかった。それがよかったのかもしれない。今までの日本選手権で一番嬉しい」
 春先の故障の影響で、苦しいシーズンの始まりだった。4、5月は満足に走ることもできなかったという。
「一時はオリンピックに出られないかもしれない、と覚悟もした。競技人生の中で一番プレッシャーが大きかった。逃げ出したい気持ちにもなったけど、ここまでやってきたプライドもあった。日本選手権で何かが起きたら、北京でも何かが起きるかもしれない。これで北京でも奇跡が起きればいいなと。今年はもう怖いものはない」
 世界選手権では2度メダルを手にしているが、五輪でのメダルはまだない。「集大成」と位置づける北京五輪で、悲願のメダル獲得に挑む。
 一方、敗れた成迫は、ゴール後、しばらく立ち上がることができなかった。「好調を維持してきて、自分の中で負けるはずがない、と思っていた。これまでできることはやってきた。今回は記録以上に、勝つことを意識してきた。そこで負けてしまった。(気持ちの)整理がついていない」と淡々と語った。

 渋井、初の五輪切符獲得! 三つ巴のデッドヒート制す

「勝ててよかった。最後は気持ち悪かったけど(笑)、楽しかった」  
 今季2度標準記録Aを突破するなど好調の渋井が、熾烈なラスト勝負を制し、初の五輪切符を手にした。
 スタート直後から先頭に立ち、集団を引っ張る。6600メートル過ぎ、トップ集団は渋井、7連覇がかかる福士、ママさんランナーの赤羽の3名に絞られた。レースが大きく動いたのは、残り5周となった8000メートル地点。福士が先頭に立ち、ロングスパートを試みるが、渋井、赤羽がぴたりとつく。勝負はラスト1周までもつれこみ、バックストレートで赤羽が前に出る。ラスト200メートルで福士がわずかに遅れると、赤羽、渋井の一騎打ちに。ホームストレートで渋井が赤羽をかわし、右手を突き上げてゴールした。
 福士のスパートに「今日は絶対に離させないと思っていた」と振り返った渋井。最後まで強気の姿勢で、激しいデッドヒートを制した。
 昨年11月の東京国際女子マラソンで敗れ、マラソンでの代表入りを逃した。「陸上をやってきて、やめたいと思ってもやめさせてくれない人が多くて、そういう人たちに元気な走りを見せたかったし、恩返ししたかった」。
「(北京に)行って、周回遅れとかになるのは嫌なので、できるだけ食らいついていけるようにがんばりたい。自分はまだまだ。もう少し時間があるので、しっかり準備したい」
 悲願の五輪の舞台に向け、表情を引き締めた。
 2位の赤羽、3位の福士ともに代表入りは濃厚。スピード化が進むトラック長距離種目だが、日本女子の存在感を示して欲しい。

<その他選手のコメント>

■史上最多14連覇を達成し、五輪内定決めた男子ハンマー投げの室伏広治(ミズノ)
「シーズン最初の試合でどうなるかと思ったが、良い成績を残せた。最初は動きが硬くなったが、最後の2投は非常に良い投擲ができた。今後につながると思う。多くの人の応援が、ハンマーを押してくれたのかもしれない。まだまだ、もう1ランク上を目指してトレーニングしていきたい。北京では、(ハンマーを)スタジアムの外に投げる勢いで投げたい」

■男子200メートルの高平慎二(富士通)
「嬉しい反面、タイムが伴っていないので、満足はしていない。レース前は予想以上に落ち着いていた。昨日のレース後、(2位に入った)齋藤(仁志)がメディアに『決勝でも最初から飛ばす』と言っているのを聞いて、前半はためて最後にいこう、ダメなら作戦ミスで仕方がない、という気持ちだった。3レーンだったから、気持ち的にはラクだった。北京ではもうちょっと上のレベルで戦えるようにしたい」