トライアスロンのNTTジャパンカップ最終戦を兼ねた「第14回日本トライアスロン選手権東京港大会」が10月26日、東京都港区台場の特設会場(スイム1.5キロ、バイク40キロ、ラン10キロ=計51.5キロ)で行われ、女子は北京五輪5位の井出樹里(トーシンパートナーズ・チームケンズ)が1時間59分1秒で初優勝、男子は最終種目のランで逆転した田山寛豪(チームテイケイ)が1時間48分46秒で3年連続5度目の優勝を果たした。
(写真:表彰式で優勝カップを掲げる井出(左)と田山)
 国内レースの年間チャンピオンを争うジャパンカップシリーズは、男子が北京五輪代表の山本良介(トヨタ車体)、女子は井出のチームメイトで16歳の佐藤優香(日本橋女学館高校)がそれぞれ優勝した。

 8時25分にスタートした女子は、北京五輪で日本選手過去最高の5位入賞を果たした井出、同じく北京で9位に入ったベテランの庭田清美(アシックス・ザバス)、昨年の日本選手権を制した上田藍(シャクリー・グリーンタワー・稲毛インター)の五輪代表勢に加え、ジュニアながらジャパンカップ第11戦終了時点でランキングトップに立つ佐藤らの対決に注目が集まった。
 スイムをトップで終えたのは、佐藤。続く井出、土橋茜子(チームケンズ)ら5名でバイクの第1集団が形成される。庭田は第2集団、上田は第3集団で追う。中盤から追い上げた第2集団が8周回の残り2周で第1集団に追いつき、バイク終了時点で第1集団は10名となる。
 最終種目のランに入ると、井出がトップに立つ。庭田が追うが、井出が5キロ付近の下り坂を利用してさらにスピードを上げその差を広げる。粘る庭田を振り切り、井出が自身初の日本選手権優勝を果たした。
 2位に37歳の庭田、3位には足立真梨子(トーシンパートナーズ・チームケンズ)、ランで追い上げた上田が4位に入り、16歳の佐藤がバイクで落車するというアクシデントに見舞われながらも5位に食い込んだ。
(写真:上位に入賞した選手たち)

 井出、不調乗り越え初優勝

「五輪では支えてくれる監督やスタッフを世界一にできなかった。せめて日本選手権で優勝して、日本一の監督・スタッフにしたい」
 前日の会見でそう話していた井出が、有言実行の「日本一」を果たした。
 だが、レース後、記者に囲まれた井出に笑顔はなかった。
「バイクに入って全然身体が動かなくて、集団を引っ張るようなレースができなかった。周りからは『五輪5位の井出』という目で見られるが、今の自分はその欠片もない。ふがいないレースをしてしまった」
 五輪後、練習は継続していたものの不調に陥った。やる気はあるのに身体が動かない。そんな日が続いた。「どん底に沈んだが、たくさんの人たちに支えられて、ギリギリでスタートラインに立てた」。
 万全ではない中で実力者・庭田とのマッチレースを制した力は本物だ。井出を指導する飯島健二郎監督は「今年は休ませたかったが、日本選手権に出たいという本人の意思があった。正直、スイムをあの位置(トップ集団)であがれるような練習はできていない。コイツはすごいなと思った」と愛弟子の底力に舌を巻く。
「もっと強くなりたい。ロンドンでは北京で果たせなかった世界一になって、人生をかけて支えてくれている監督・スタッフたちを世界一にしたい」
 熱く意気込む井出の言葉を受け、「彼女は本気で(世界一を)狙っている。意識レベルの高さはすごい。井出のタイムを持った選手はいても、井出の心を持っている選手はなかなかいない」と飯島監督。師弟の視線はすでに4年後へと向けられている。トライアスロンを始めてまだ2年半あまりの井出が、この先どんな進化を遂げるのか楽しみだ。

「48位」を背負い4年後につなげたい

 女子に続いて行われた男子は、昨年のW杯エイラート大会で日本人初の優勝を果たすなど世界トップの実力を持ちながらも北京五輪では48位に終わった田山寛豪(流通経済大学職員・チームブレイブ)が、3年連続5度目の優勝を果たした。
 今シーズン結果を残せずにいた佐藤治伸(愛媛県協会・日本食研)が得意のランで気迫の走りを見せ2位に食い込んだ。バイクでトップを引っ張った山本良介(トヨタ車体)は疲れも見せたが終盤まで粘り、自身初の日本選手権表彰台となる3位でゴールした。

 得意のスイムを、05年日本選手権覇者の平野司(NTT東日本・NTT西日本)とほぼ同時のトップであがった田山は、バイクでは北京五輪30位の山本らに先行を許し第2集団についたが、最終種目のランの2周回目に1分の差を逆転しトップに立つとあとは独走。後続との差で勝利を確信すると、全身で喜びを表現しながら優勝のゴールテープを切った。
 48位に終わった北京五輪後、周囲からは「どうしたの?」「大丈夫」と心配や同情をする声を多く受けたという。応援してくれる人たちに、元気な姿を見せること――それがこの日のテーマだった。
「北京のレースで皆に心配をかけてしまった。『田山のレースを見てスカッとした』と言われる自分らしいレースがどうしてもしたかった。田山に同情は似合いませんから(笑)」
 ゴール後は晴れやかな表情で喜びを語った。だが、目指すのは日本ではなくあくまでも世界だ。「このくらいの力じゃ、まだまだ(五輪の)メダルは獲れない。もっと強くなれます。もう一度鍛えなおして、世界最強を目指したい。五輪の悔しさは五輪でないと晴らせない。北京の48位という結果を良い意味で背負って、4年後につなげたい」。
 宣言どおりの鮮やかなレースで「田山らしさ」を取り戻した日本のエースは、ロンドンを見据え再び国際舞台での戦いに挑む。

 上位結果は以下のとおり。

<女子>
優勝 井出樹里(トーシンパートナーズ・チームケンズ) 1時間59分01秒
2位 庭田清美(アシックス・ザバス) 1時間59分19秒
3位 足立真梨子(トーシンパートナーズ・チームケンズ) 2時間00秒50
4位 上田藍(シャクリー・グリーンタワー・稲毛インター) 2時間01分31秒
5位 佐藤優香(日本橋女学館高等学校) 2時間01分53秒
6位 高木美里(レオパレス21) 2時間02分09秒

<男子>
優勝 田山寛豪(流通経済大学・チームブレイブ) 1時間48分46秒
2位 佐藤治伸(愛媛県協会) 1時間49分19秒
3位 山本良介(トヨタ車体) 1時間49分22秒
4位 平松幸紘(日本食研) 1時間49分34秒 
5位 福井英郎(トヨタ車体) 1時間49分48秒
6位 高濱邦晃(チームコラテック) 1時間49分59秒

2008NTTトライアスロンジャパンカップランキング
<女子>
1 佐藤優香(日本橋女学館高校) 369pt
2 古谷あかね(トヨタ車体) 324pt
3 中島千恵(トーシンパートナーズ・チームケンズ) 322pt

<男子>
1 山本良介(トヨタ車体) 434pt
2 高濱邦晃(チームコラテック) 383pt
3 福井英郎(トヨタ車体) 376pt