14日、所沢市で埼玉県トップスポーツ共同メッセージ「スポーツで埼玉をもっと元気に!」と題し、県内に本拠地を置く7つのチーム関係者、選手が一堂に会したイベントが開かれた。
 プロ野球、サッカーなど各競技の枠を、さらにはプロ・アマチュアの壁も越え球団関係者が集合する、全国でも例をみないトップクラブのシンポジウムは、今後のスポーツと地域の関係を考える上で興味深い催しとなった。
(第2部に参加した各チームの現役選手たち)
 イベントに参加したのはプロ野球から埼玉西武ライオンズ(所沢市)、サッカー・Jリーグから浦和レッドダイヤモンズ(さいたま市)、大宮アルディージャ(さいたま市)、なでしこリーグから浦和レッズレディース(さいたま市)、バスケット・bjリーグから埼玉ブロンコス(所沢市)、バレーボール・Vリーグから武富士バンブー(春日部市)、ハンドボール・日本リーグから大崎オーソル(三芳町)の7団体。第1部では各球団の経営陣がシンポジウムを開催し、第2部のトークショーでは、各チームの現役選手が登場。集まった観客の質問に答えるなど、会場は活気ある雰囲気に包まれていた。

 第1部のシンポジウムは「スポーツのちから」と題し、それぞれの団体の競技についての説明や、近隣地域とどのような関わりを持ち、共に歩んできているかなど議論された。競技こそ異なるが同地域に拠点を置くチームだけに、多くの共通した問題を抱えているようだった。

 その中でも、経営陣が次々と口にしたのは競技施設面について。浦和レッズの藤口光紀社長は「ライオンズ以外は、チームの本拠地として各自治体の施設を使わせていただいている。そうすると、施設を改修したいと思っても、色々な力や時間を要するというのが現状。もっと日本中でスポーツに関する価値観が上がれば、施設関係も競技場から“スタジアム”に変わると思う。今までの競技場は、選手のために作られてきた施設が多く、お客様のことを考えたものが少ない。ファン・サポーターを快く受け入れることができる施設を作っていければ、選手も観客と一緒になって素晴らしい試合ができる。我々も、もっともっと自治体とコミュニケーションを取って前進させていきたい。私たちだけでなく、ファンの皆様の力も貸していただければと思います」と、各団体を代表してハード面での問題を提起し、環境整備に向けたサポーターや市民レベルの協力を求めた。

 試合会場での雰囲気作りという点からは埼玉ブロンコスの成田俊彦社長が、自らの活動の成功例を挙げた。「ブロンコスではまず、試合を観ていただいて、バスケットをしたいと思ってもらいたい。そのためにリーグ初年度から試合直後のコートを開放し、ボールも用意してバスケットボールを実際にプレーしてもらう。今年で4シーズン目ですが好評です。最初はリーグ関係者から反対の声もあったが、『我々のコートはみなさんのコート』という理念で続けている」と、市民球団としてスタートしたブロンコスの特色を示し、他競技の経営陣からも賞賛の声を受けていた。

 その他にも、それぞれの具体的な取組みが披露されたが、各クラブで共通していたのは子供たちに向けての活動だ。どの球団も近隣の子供を対象にスポーツ教室を行っている。その中でもユニークなものは、武富士バンブーが行ったビーチバレー教室だ。コーチの中に同種目のチャンピオンが在籍しており、昨夏に実施したところ大変好評だったという。また、ブロンコスではチアリーディングチームが4歳から15歳までのダンスチームを指導するというシステムを作っている。チアリーディングとダンスはスポーツ競技としても独立しているもの。バスケットチームとしてだけでなく、他のスポーツもブロンコスというチームの中で育てていこうという姿勢は、市民クラブとしての一つの方向性を示している。

 武富士バンブーの永田幸雄部長は、地域への取組みについて「バンブーはイトーヨーカドーのバレー部を前身としているが、その頃の私たちは企業の内側しか見てこなかった。その後、バレー部は廃部になり、バンブーに生まれかわってからは、市民との交流を常に心がけている。ビーチバレー教室もその一環。これからもこのような活動を続けていきたい」と、企業スポーツから市民クラブへと変わりつつあるチームの状況を語っていた。

 続く第2部では、レッズの細貝萌選手、レッズレディースの田代久美子選手、武富士バンブーの石川友紀選手、アルディージャの冨田大介選手、ブロンコスの清水太志郎選手、庄司和広選手が登場し、会場から大きな歓声を受けていた。アジアシリーズを戦っていたライオンズからはOBの高木大成氏がトークショーに参加。会場のファンからの質問に気さくに答えていた。埼玉という共通の土地を拠点にしているもの同士で地域を盛り上げていこうという気運に満ちていた。

 1時間近くの開催されたトークショー終了後には、選手全員が、会場の出口に立ち、観客とハイタッチをして見送るというサプライズなプレゼントが用意されていた。これには集まったファン・サポーターたちも大喜び。バスケット選手を初めて見る子供がおり、一生懸命ジャンプし、ハイタッチしている姿は印象的だった。県民の日ということで子供も多く集まり、彼らにとって素晴らしい思い出になったことだろう。
(会場出口での選手たちによるハイタッチ)

“地域密着”を掲げたクラブがいくつもある埼玉県。その中にはすでに大きな成功を収めている団体から、まだその活動を始めたばかりの団体まで様々な状態にある。このような交流の場を生かして情報を共有し、クラブ同士の交流を推進することで、地域密着型スポーツの発展への近道としてほしい。競技の枠を超えるという点では、県内チーム共通でのファンクラブの設立や、地元TV・FM局をはじめとしたメディアを利用しての共同の広報戦略など、埼玉県ならではのサービスを提供することはできるはずだ。このイベントを発信源として各団体が協力し、柔軟な発想で様々なアイディアを実現してほしい。