18日、「戦極の乱2009」(1月4日、さいたまスーパーアリーナ)の記者会見が都内ホテルで行われ、吉田秀彦(吉田道場)対菊田早苗(GRABAKA)の対戦カードが発表された。会見に出席した吉田は、「(ニューイヤーイベントということで)日頃ないような相手だと思っていたけど、まさか菊田とやるとは思わなかった。非常にとまどっている」と複雑な心境を吐露した。また1月4日は、ライト級タイトルマッチとして五味隆典(久我山ラスカルジム)対北岡悟(パンクラスism)、ミドル級タイトルマッチとして三崎和雄(GRABAKA)対ジョルジ・サンチアゴ(アメリカン・トップチーム)の対戦も決まっている。
(写真:“大将戦”に臨む菊田(左)と吉田)
「吉田道場」対「GRABAKA」。日本総合格闘技界の名門ジム同士による“大将戦”が実現する。
 バルセロナ五輪金メダル獲得を筆頭に日本柔道界に輝かしい功績をもたらした吉田は、02年の総合格闘技転向と同時に「吉田道場」を設立した。プロ格闘家としてもPRIDEを中心に世界のヘビー級トップファイターと激戦を繰り広げるなど、日本人重量級のエースに君臨。戦極のリングでは旗揚げ戦、第三陣でメーンを務めている。

 対する菊田も、学生時代は柔道部に所属し、国体で優勝した実績をもつ。総合転向後は、修斗、PRIDE、UFCと世界屈指のリングを渡り歩き、技術を磨いた。そして00年に、多くの名ファイターを輩出することになる「GRABAKA」を結成。翌年には、寝技世界一を決める「アブダビコンバット」に出場し、同大会における日本人初優勝を成し遂げた。

 近年の日本総合格闘技界を牽引してきた両者。吉田vs.菊田は、「柔道世界一」vs.「寝技世界一」であると同時に、所属団体の「大将戦」の意味合いが強い。「吉田道場」対「GRABAKA」を振り返ると、05年の瀧本誠対菊田(菊田が判定勝ち)、戦極第六陣の中村和裕(吉田道場)対佐々木有己(GRABAKA)(中村が判定勝ち)が印象深い。いずれも実力者同士の意地がぶつかり合った熱戦だった。

「もちろん個人の戦いだが、“道場対道場”といった、大きなものを背負った試合でもある。今後の戦極が(GRABAKAか吉田道場の)どちらを中心に動いていくか決まる可能性もあるリスクの高い試合」。菊田は「GRABAKA」の首領ゆえのプレッシャーからか、神妙な面持ちで語った。
 迎え撃つ吉田も、「お互い背負っているものがあるので重圧はある。プロとして恥ずかしくない試合をしなければならない」と気を引き締めた。

 さらに、吉田と菊田は高校時代に柔道の練習を一緒にした過去を持つ。対戦決定にとまどいをみせた吉田同様に、菊田も「自分は20歳で柔道をやめたので、絶対に交わらないと思っていた。いつもは日本人が相手でも顔面を殴ることは平気なのだが、(吉田が相手だと)複雑な心境です」と語った。だが、「(柔道をやめてから)17年後にめぐり合うことに運命を感じる」と明るい表情を浮かべる場面もみられた。

 また、寝技のスペシャリスト集団のボスが吉田戦のカギに挙げたのは、意外にも“パワー”だった。「吉田選手はバカ力だと思うので小細工は通用しない。肉体的に鍛えて、自分なりの技でしとめたい。まずは筋力アップです」。体格に勝る吉田を倒すために、パワーの強化に着手する。
 一方の吉田は、菊田戦だからといって特別な対策は講じない構えだ。「自分を追い込む練習をする。どちらにも対応できるように、練習は打撃とグラウンドを半分ずつくらい」と語った。さらに、「今回の方が(気が)重い。後輩なので負けられない」と05年大晦日の小川直也(小川道場)とのビッグマッチを引き合いに出して、必勝の意を強くした。

「どちらを中心に動いていくか決まる可能性がある」――。菊田が語ったように、「吉田×菊田」戦の結果は09年の戦極に大きな影響をもたらしかねない。総合のリングを牽引してきた2人の“大将戦”が待ちきれない。

 また、1月4日は戦極の初代ライト級王者、ミドル級王者が誕生する日でもある。タイトルマッチ挑戦者決定戦となったグランプリを制した北岡と、サンチアゴにはトーナメントを制したにも関わらずベルトが巻けないことに不満があるはずだ。一方、「Road to 五味、三崎」として、グランプリが免除された両者にも、トップファイターとしてのプライドがある。「勢いに乗るグランプリ覇者」対「第一人者」。互いの意地がぶつかり合い、潰し合いになること必至のタイトルマッチ2試合は、09年の戦極の幕開けに相応しい熱戦になるだろう。チャンピオンシップに臨む4選手のコメントは以下のとおり。
(写真:北岡(左)が五味を挑発する発言をしたこともあってか、両者の間には異様な緊張感が漂っていた)

五味隆典選手
「前回は不甲斐ない試合をしてしまったので、(1月4日は)コンディションを高めて、立派なベルトを獲りたい。前回負けてよかったといったらダメだけど、勝つと悪い点に気付かない。現状維持のトレーニングではなくて、自分より強い相手と練習することで自分を追い込むといったように高い意識を持っている。タイトルマッチなのでそのくらいやるのは当然」

北岡悟選手
「自分は総合のタイトルをとったことがない。(ライト級GPで優勝したが)まだベルトを巻いていない。ベルトを巻きたい。タイトルを獲れば変わると思っていたが、何も変わらない。まったく満たされていないので、1月4日に勝って満たされたい」

三崎和雄選手
「(サンチアゴのコメントを受けて)GRABAKA対アメリカン・トップチームという意識はない。男の、1対1の戦いだと思っている。今までベルトへの意識はなかったが、今日来てから、(ベルトを目の当たりにして)非常にドキドキした。自分のためだけではなく、これまで三崎和雄をつくってくれた人のためにもベルトを獲りたい」

ジョルジ・サンチアゴ選手(会見を欠席したためコメントを寄せた)
「三崎選手は素晴らしいファイターだが、このタイトルマッチに値するほど、戦極において私のほどの功績を残しているとは思わない。また、我々の間にはちょっとしたヒストリーがある。彼はかつて、私のチームメイトであるデニス・カーンを倒しており、私はすぐにでもチームメイトの仇を討つため彼と対戦するはずだった。しかし今現在に至るまで、我々が拳を交えることはなかった。だからこそ今回、私が全ての人の前で証明してみせよう。戦極ミドルウエイトの真のチャンピオンが誰かということを。私はアメリカン・トップチームを代表し、彼がGRABAKAを代表する。どちらが強いファイターか、そしてどちらがよいチームか。我々がその答えをみせつけようではないか。1月4日、私を支えてくれる全ての日本のファンに会えることを楽しみにしている。そのファンのためにも必ずいい試合を約束する」


戦極の乱2009
2009年1月4日、さいたまスーパーアリーナ
開場14:00 開始16:00

【対戦決定カード】
〔ライトヘビー級ワンマッチ〕
吉田秀彦(吉田道場)×菊田早苗(GRABAKA)

【既報対戦カード】
〔ライト級チャンピオンシップ〕
五味隆典(久我山ラスカルジム)対北岡悟(パンクラスism)
〔ミドル級チャンピオンシップ〕
三崎和雄(GRABAKA)対ジョルジ・サンチアゴ(アメリカン・トップチーム)