3度目の王座に輝いたボンヤスキーは大粒の悔し涙を流した――。
 12月6日、横浜アリーナで「K-1 WORLD GP 2008 FINAL」が開催され、決勝でレミー・ボンヤスキー(チーム ボンヤスキー)がバダ・ハリ(ショータイム)の失格負けによって、自身3度目の戴冠を果たした。16年目となったK-1のフィナーレは後味の悪いものになってしまった。
(写真:バダ・ハリはレフェリーの制止を振り切って“暴挙”を働いた)
 ボンヤスキーは準々決勝でジェロム・レ・バンナ(Le Banner X tream Team)と対戦した。1ラウンド、2ラウンドともローとミドルのキックを打ち分けるなど、冷静に試合を進める。3ラウンドには古傷のあるバンナの左腕にミドルキックを見舞い、ドクターストップに追い込んだ。
 続く準決勝の相手はグーカン・サキ(チーム・レベル)だった。緒戦と同様に冷静な試合運びをみせたボンヤスキーが試合を終わらせたのは2ラウンド53秒。飛び込みながらの強烈なミドルキックを脇腹に突き刺し、サキは苦痛に表情を歪めてリングに沈んだ。ボンヤスキーはミドルキック2発で決勝への切符を手にした。

 もう一つのブロックを勝ち上がったのは“悪魔王子”バダ・ハリ。今大会で最も注目を集めた準々決勝のピーター・アーツ(チーム アーツ)戦は圧巻だった。バダ・ハリは開始早々に、強烈な右ストレートを見舞う。さらに攻撃の勢いを強め、連打からの右フックでアーツをマットに這わせた。2ラウンドもバダ・ハリの勢いは止まらない。回し蹴りでアーツがふらついたところにすかさず猛ラッシュでダウンを奪う。なんとか立ち上がったアーツだったが、さらにパンチで追い詰められたところで、レフェリーが試合を止めた。2ラウンド1分39秒、バダ・ハリが“20世紀最強のキックボクサー”を越えた瞬間だった。
(写真:バダ・ハリは“Three Times Champion”を一方的に攻め立てた)
 
 バダ・ハリと準決勝で激突したのはエロール・ジマーマン(ゴールデン・グローリー)。試合は壮絶な倒し合いとなった。1ラウンドから前に出るバダ・ハリにジマーマンもパンチで応戦する。横浜アリーナに衝撃が走ったのは2ラウンド。ジマーマンの強烈なカウンターが顔面を打ち抜き、バダ・ハリを吹き飛ばした。ドンピシャリのタイミングで決まり、ダメージは相当なものだったはずだ。それでもバダは怯まず、前に出続ける。ラウンド終了間際にはパンチの連打から右ストレートをヒットさせ、ダウンを奪い返す。2ラウンドのジャッジは3者が8−8をつけるイーブンに持ち込んだ。そして最終ラウンド、お互いに一歩も引かない打撃戦に終止符をうったのはバダ・ハリだった。2分15秒、左から返しの右を振り抜き、勝負あり。バダ・ハリは返しの速さと当て勘の良さを発揮し、今大会のベストバウトともいえる熱戦を制してみせた。

 決勝は昨年の準々決勝の再現となった。その試合はボンヤスキーが巧みなガードテクニックで完封。しかし、バダ・ハリはそれから4戦全勝。この1年で大きな飛躍を遂げた。天性の攻撃性を持つバダ・ハリと攻守にスキのない完璧さを誇るボンヤスキー。会場に詰めかけた17823人は決勝がハイレベルな好ファイトになることに期待に胸をふくらませた。
 
 2008年、最強の立ち技ファイターを決める一戦は静かな立ち上がりとなった。異様な緊迫感がリングを包み、両者ともなかなか手を出せない。しびれをきらして先に手を出したのはバダ・ハリ。ボンヤスキーもパンチで応戦した。開始から2分が過ぎようとした時、パンチの交錯の中からボンヤスキーの左フックが顔面をとられる。続けざまに放たれたハイキックを避けるようにバダ・ハリはダウン。1ラウンドは10−8が3者でボンヤスキーがものにした。
 続く2ラウンド、バダ・ハリが1ラウンドの劣勢を取り戻すようにラッシュを仕掛け、勢い余ってボンヤスキーを押し倒してしまう。その時、事件は起きた。バダ・ハリが倒れているボンヤスキーにパンチを浴びせ、あろうことか頭を踏みつけたのだ。角田信朗レフェリーは減点1を宣告。ボンヤスキーの回復を待つため5分間のインターバルが設けられた。しかし、「物が二重に見える症状」は回復せず、試合が再開されることはなかった。バダ・ハリへの処分は失格に変わり、ボンヤスキーの腰にベルトが巻かれた。

 インタビュースペースに姿を現したボンヤスキーの表情からチャンピオンに輝いた喜びは感じられなかった。「今日のこの試合にかけて、大きな犠牲を払ってトレーニングを積んできた。それなのにあのような結果になってしまった」と悔しさをにじませた。そして、「K-1はルールを守れない選手を簡単に試合に出してしまっていいのか」と暗にバダ・ハリへの“厳罰”を求めた。
(写真:頂点に輝いたボンヤスキーの表情は晴れなかった)

 大きな過ちを犯したバダ・ハリ。しかし、その発言から反省の色はみえなかった。「試合の流れの中で興奮してしまった。自分はアグッレシブに試合したいと思ったのに、レミーには響かない。その中であのように倒れる場面があって、思わず、試合にもかかわらず、今まで自分がやっていたストリートファイトのように本能が目覚めて反則の技を使ってしまった」。そしてさらに続けた。「レミーはダメージがなかったと思う。倒れてもがき苦しんでいたように見えたが、試合の結果が決まったらすっと立ち上がって、素晴らしいスピーチをしていた。それにレミーのセコンドは彼が倒れたときに“立ち上がるな”と指示していた。レミーは戦いの中でのチャンピオンではなくて、アクターとして“最優秀男優賞”の栄誉が与えられたと思う」
(写真:バダ・ハリは王者・ボンヤスキーに向かって“最優秀男優賞”と言い放った)

 バダ・ハリの反則を受けて、谷川貞治K-1イベントプロデューサー(EP)は、罰金や出場停止を含めた厳重処分を検討すること明言した。この日、バダ・ハリの反則行為は減点1から、ボンヤスキーの試合続行不可能との判断後に、失格へと変わった。これについて谷川EPは、「審判の判断は間違っていないと思う。もし、反省するとすれば5分たってから減点か失格かを判断すべきだったかもしれない」とコメント。さらに、「決勝戦ということもあって、試合続行が可能ならば戦ってシロクロつけてほしかった」と複雑な心境も吐露した。

 準々決勝、準決勝と連続KO勝利でMVP級の戦いをみせていたバダ・ハリ。しかし、反則行為ですべてを台無しにしてしまった。16年目を迎え、K-1は世界150カ国以上に中継されるほどに成長を果たした。国際的なスポーツとしてさらなる進化を遂げるためにも、同じ失敗を繰り返してはならない。

<第1試合>※WORLD GP 準々決勝
○バダ・ハリ(ショータイム)
2R1分39秒 TKO(レフェリーストップ)
×ピーター・アーツ(チーム アーツ)

<第2試合>※WORLD GP 準々決勝
○エロール・ジマーマン(ゴールデン・グローリー)
3R判定 2−0
×エヴェルトン・テイシェイラ(極真会館)

<第3試合>※WORLD GP 準々決勝
○グーカン・サキ(チーム・レベル)
3R判定 3−0
×ルスラン・カラエフ(フリー)

<第4試合>※WORLD GP 準々決勝
○レミー・ボンヤスキー(チーム ボンヤスキー)
3R1分46秒 TKO(レフェリーストップ)
×ジェロム・レ・バンナ(Le Banner X tream Team)

<第5試合>※WORLD GP リザーブファイト
○レイ・セフォー(レイ・セフォーファイトアカデミー)
3R判定 3−0
×チェ・ホンマン(フリー)

<第6試合>※WORLD GP リザーブファイト
○メルヴィン・マヌーフ(マイクス ジム)
1R2分26秒 KO
×ポール・スロウィンスキー(チーム ミスターパーフェクト)

<第7試合>※WORLD GP 準決勝
○バダ・ハリ(ショータイム)
3R2分15秒 KO
×エロール・ジマーマン(ゴールデン・グローリー)

<第8試合>※WORLD GP 準決勝
○レミー・ボンヤスキー(チーム ボンヤスキー)
2R53秒 KO
×グーカン・サキ(チーム・レベル)

<第9試合>※WORLD GP 決勝
○レミー・ボンヤスキー(チーム ボンヤスキー)
2R53秒 反則
×バダ・ハリ(ショータイム)