「K-1 WORLD GP 2008 FINAL」(12月6日、横浜アリーナ)の公開前日記者会見が新宿ステーションスクエアで行われ、トーナメントに出場するベスト8ファイターとリザーバーの4選手が大一番への意気込みを語った。あいにくの空模様にも関わらず会場に詰めかけたファンの数は1600人。会見は“迷子”のため、バダ・ハリ(ショータイム)不在でスタートし、準々決勝で対戦するピーター・アーツ(チーム アーツ)が「俺と戦うボウヤがいないみたいだけど、誰か明日はちゃんと連れてきてくれよ」とコメントして会場を盛り上げる一幕もあった。世界150カ国以上に中継される16度目のK-1GPは、6日17時、横浜アリーナでゴングが打ち鳴らされる。
(写真:“迷子”で遅刻したバダ・ハリ(右)と“20世紀最強の暴君”アーツ)
 世界最強のキックボクサーを決めるK-1WGP。2008年の準々決勝の対戦カードはピーター・アーツ対バダ・ハリ、エロール・ジマーマン(ゴールデン・グローリー)対エヴェルトン・テイシェイラ(極真会館)、グーカン・サキ(チーム・レベル)対ルスラン・カラエフ(フリー)、レミー・ボンヤスキー(チーム ボンヤスキー)対ジェロム・レ・バンナ(Le Banner X tream Team)だ。

 一番の注目カードはなんといっても、第1試合のアーツ対バダ・ハリだろう。20世紀最強のキックボクサーと呼ばれ、長きに渡ってK-1を牽引してきた男と、現K-1世界ヘビー級(100キロ以下)王者であり、今Kのリングで最も勢いに乗る男が激突する。

 ピーター・アーツ、38歳。K-1GPを1994、95、98年と3度制した、K-1を創成期から支えるファイターである。9月の開幕戦ではK-1WGP3連覇中で、自身も2年連続して決勝で敗れていた“絶対王者”セーム・シュルト(正道会館)戦を志願し、見事判定勝利を収めた。16年連続の決勝大会出場はもちろん前人未到の大記録。アーネスト・ホーストに並ぶ史上最多タイの4度目のGP制覇まであと3勝だ。

 対するバダ・ハリは05年のK-1デビュー以来、アグレッシブなファイトとビッグマウスで人気を博してきた。07年にはK-1世界ヘビー級初代王者に輝き、翌年のグラウベ・フェイトーザ(極真会館)との初防衛戦のKO勝利で、実力の高さを証明した。開幕戦ではチェ・ホンマン(フリー)と激突。ダウンを奪われるなど、苦戦を強いられたが強烈なボディブローで挽回し、TKO勝利で決勝大会への切符を掴んだ。

 以前からバダ・ハリは「世代交代」を口にしてきた。「アーツのことは尊敬しているが、これだけ長く活躍しているのはK-1にとってよくないこと」「変革をみんな待ち望んでいるはずだ」。自らが伝説の王者を踏み越えることで新時代の幕開けを目論んでいる。
 しかし、アーツにもK-1を背負ってきたプライドがある。「K-1発展のためには彼らが勝ち上がってくることはいいことだ。だけど、経験でも気持ちでも私の方が上。彼らをしっかりと受け止めたい」。全盛期の動きを取り戻しつつあるアーツが世代交代に待ったをかける。

 試合は苛酷を極めるだろう。再び充実の時を迎えているベテランと次世代を担う新星はどちらが強いのか。アーツの威力あるローキックがバタ・ハリの出足を止められれば、自慢のスピードを封じられる。さらにバダ・ハリにはアゴの脆さを指摘する声もある。一方、バダ・ハリが勝つとすれば、ローを被弾しにくい近い間合いで戦い、スピード豊なパンチを放ち続けることだ。リスクは高いが「KO」を信条とする23歳の最大の魅力はアグレッシブファイト。“悪魔王子”の勢いがアーツを飲み込む可能性は十分にある。


 この二人の勝者と準決勝でぶつかるのはジマーマンとテイシェイラの勝者だ。共にK-1GP初参戦の新鋭対決となった。
 テイシェイラが極真世界王者の看板を引っさげてK-1に初参戦したのは今年の4月。その後、並外れた頑丈な肉体と強力な打撃を武器に一気にJAPAN GPを制してみせた。開幕戦では日本人エースの武蔵をも破り、K-1無敗でベスト8に名乗りをあげた。準々決勝で対戦するジマーマンは同門のグラウベ・フェイトーザを開幕戦で撃破しているだけに、仇討ちを果たしたいところだ。
 空手家ファイターにとってK1で課題となるのは、顔面へのパンチと、ローキックで相手を牽制するといった距離感の問題だ。これに対して、テイシェイラは「顔面ルールにも慣れました。総合的なレベルアップをはかり、相手との距離感も大幅に修正されました」と自信をみせた。そして、「準決勝はアーツがあがってくるでしょう。決勝はボンヤスキーとの対戦になると考えています」。極真世界王者は無傷の8連勝でKの頂点を目指す。
(写真:“新星対決”となったジマーマン(左)とテイシェイラ)

 もう一つのブロックではカラエフ対サキによるK-1ヘビー級屈指のスピード対決が見られる。両者とも身体のサイズが周囲より一回り小さく(カラエフ188センチ95キロ、サキ180センチ97キロ)、これまで自慢のスピードを駆使して勝ち上がってきた。それだけに互いに対抗心を燃やしている。
「スピードでもパワーでも上回るは自分だ。最後に手を挙げるのもね」とカラエフが必勝を誓うと、対するサキも「ルスランよりも先に攻撃してKOしたいね。彼が1つ攻撃を出す間に、僕は3つ攻撃をあてるつもりだ」と“口撃”。この対決に勝利したスピードキングがトーナメントの台風の目になるかもしれない。
(写真:好ファイトを約束したサキ(左)とカラエフ)

 準々決勝最後の椅子を争うのがボンヤスキーとバンナだ。両者は06年の対戦時に、レミーの判定勝ちがバンナの抗議によって勝敗が覆った過去を持つ。浅からぬ因縁が試合を一掃盛り上げそうだ。
 ボンヤスキーはフライングニーを武器に、WGPで03、04年と連覇を達成した。その後、ケガや離婚といった不運が重なり一時は存在感が薄れたが、今年は3戦全勝と波に乗る。経験と勢いを兼ね備えたこのオランダ人を優勝候補に推す声も多い。
(写真:“無冠の帝王”返上を誓うバンナ)

 アーツ同様、長きに渡ってK-1を支えてきたバンナも35歳になった。左ストレートを武器としたアグレッシブなスタイルで随一の人気を誇ったが02年にバンナを悲劇が襲う。ホーストのミドルキックによって左腕を粉砕骨折したのだ。ケガは完全に癒えたが未だ頂点には届いていない。今年こそ“無冠の帝王”という不名誉なフレーズとおさらばしたいところだ。

「一番重要なのはジェロム戦だろう。彼はパワーのあるベテランだし、経験もある。彼に勝つことができれば、準決勝も決勝も比較的簡単に勝てるだろう」。ボンヤスキーは万全のコンディションを印象づけるように、自信満々に語った。
「1試合目が最も重要」との考えはバンナも同じだ。記者から、準決勝と決勝のカード予想を求められると、「そんなことはどうでもいい」と一括。「ボンヤスキー戦に集中する」と静かに闘志を燃やしている。来日以来、他のファイターがにこやかに質問に応じるなか、バンナだけはピリピリムードだった。すでに“臨戦態勢”が整っているようだ。

“絶対王者”シュルト不在のWGPは近年稀にみる大混戦の様相を呈している。優勝のためには3試合を勝ちぬく必要があるハードスケジュールは、選手にとって対戦相手以上の“強敵”となる。いかにしてダメージと疲労を溜めずに勝ち上がるか。つまり早い回でのKO勝利が頂点にたどり着くためには重要な要素となりそうだ。苛酷なワンデートーナメントゆえにリザーバー陣も虎視眈々と戴冠を狙っていることだろう。ベテランがその強さを見せ付けるのか、それともK-1に“変革”の時が訪れるのか。いずれにせよ、明日の横浜アリーナで最も強い男が決まる。

「K-1 WORLD GP 2008 FINAL」
2008年12月6日、横浜アリーナ
開場16:00、開始17:00

<第1試合>※WORLD GP 準々決勝
ピーター・アーツ(チーム アーツ)×バダ・ハリ(ショータイム)
<第2試合>※WORLD GP 準々決勝
エロール・ジマーマン(ゴールデン・グローリー)×エヴェルトン・テイシェイラ(極真会館)
<第3試合>※WORLD GP 準々決勝
グーカン・サキ(チーム・レベル)×ルスラン・カラエフ(フリー)
<第4試合>※WORLD GP 準々決勝
レミー・ボンヤスキー(チーム ボンヤスキー)×ジェロム・レ・バンナ(Le Banner X tream Team)
<第5試合>※WORLD GP リザーブファイト
チェ・ホンマン(フリー)×レイ・セフォー(レイ・セフォーファイトアカデミー)
<第6試合>※WORLD GP リザーブファイト
ポール・スロウィンスキー(チーム ミスターパーフェクト)×メルヴィン・マヌーフ(マイクス ジム)
<第7試合>※WORLD GP 準決勝
第1試合勝者×第2試合勝者
<第8試合>※WORLD GP 準決勝
第3試合勝者×第4試合勝者
<第9試合>※WORLD GP 決勝
第7試合勝者×第8試合勝者