今季、パ・リーグのホームラン王争いの本命といえば、この男になるだろう。埼玉西武の4番・中村剛也だ。昨季は故障もあって3年連続のタイトルこそ逃したものの、85試合の出場で25本塁打をマークした。“飛ばないボール”への統一に伴い、本塁打数の減少が予想される今季だが、昨季のホームラン王T−岡田(オリックス)や才能開花の兆しがみえる中田翔(北海道日本ハム)らとアーチ合戦を繰り広げそうだ。今や球界を代表する和製大砲にホームランへのこだわりを月刊誌『小説宝石』(光文社)上で当HP編集長・二宮清純が訊いた。
(写真:ニックネームは“おかわり”のみならず、“ブーちゃん”“サンペイ”といくつもある)
二宮: 普通のバッターはヒットの延長線上がホームランになると考えますが、中村さんの場合は逆ですよね。ホームランの打ち損ないがヒットになると?
中村: そうです。時と場合によりますが、基本的にはホームランを全打席狙っています。

二宮: 昨季は右ひじのネズミ(遊離軟骨)で戦線を2カ月半離れました。それでも25本塁打ですから、ケガがなければ50本塁打をクリアしていたかもしれません。
中村: うーん、そこまでは自信がないですけど、前の年と同じくらい(48本塁打)は打てたでしょうね。でも、ヒジが悪い時は2打席目、3打席目となるにつれて力が入らなくなっていました。守備でも力が抜けてスローイングができなかった……。

二宮: 打席の中でもっとも意識していることは?
中村: 特別にどこかを意識するのではなく、自分が振りやすいように振りたいと思っています。とにかくシンプルに打ちたい。ボールの軌道に合わせてバットを入れ、線で打つのが一番です。

二宮: たとえば王貞治さんは右方向へ引っ張ってのホームランを理想としていました。逆に清原和博は広角にスタンドインさせることを追求していた。ホームランバッターとしての理想像はありますか? 
中村: 特に打球方向とかにこだわりはないですね。とにかくいっぱいホームランを打ちたい。気がついたら、50本くらい打てているのが理想です。

二宮: ホームランバッターの宿命として、どうしても三振が増えるものです。ただ08年、09年と2年連続ホームラン王を獲得している半面、リーグで最も三振数が多くなっています。もう少し確実性を、との声もありますが……。
中村: 僕も三振が減れば、もうちょっとホームランが増えるし、打率もグッと上がると思います。減らしたいんですけど、なかなかそうはできない自分がいます。

二宮: 四球数も決して多くはない。王さんは100四球以上を選んだシーズンが16回もありました。
中村: 四球が少ないというのは勝負されてるってことなんで、まだまだショボイんでしょう。結構、初球から打っちゃうタイプなので、もっとボールを見極めたいなとは思っています。理想は2アウト、ランナーなしで敬遠されるくらいのバッターになりたいんですけど。

二宮: ホームラン王も2度、打点王も1度獲得していますから、三振が減って四球が増えれば、中村さんも言われたように打率が上がる。いずれは3冠王も視野に入ってくるのでは?
中村: まぁ、3冠王は究極なんで、そんなに簡単なことではないでしょう。ただ、3冠王はホームランを打てるバッターじゃないとムリ。いずれは、そういう目標が立てられる選手になるといいですね。

二宮: ホームランバッターはみんなボールを捉える独特の感覚を持っています。たとえば王さんは「ボールを運ぶ」。門田博光さんは「ボールを砕く」、掛布雅之さんは「ボールを潰してスピンをかける」と。中村さんは?
中村: 僕は運ぶ意識ですね。そんなに強く叩こうとは思っていないです。うまくバットに乗せてスピンをかけ、フライを打ちたいと考えています。
(写真:ホームラン量産のきっかけは大久保元コーチのアドバイスでポイントを前にしたこと)

二宮: もし野球少年に「もっとホームラン打つにはどうすればいいですか?」と質問されたら、どう答えますか?
中村: 「とりあえずご飯食べて体を大きくして」と言いますね(笑)。そしたら簡単にボールは飛びますから。やっぱり体重があるのは大きい。僕も痩せていたら、スイングが違っただろうし、力を入れてフルスイングしないとボールが飛ばなかったと思います。

二宮: 昔、清原は理想の弾道について「ドカベンの漫画みたいにセンターのスコアボードの名前のところにガーンと当たって、ボードがくるくると回るのが理想」と言っていたことがあります。中村さんにとっての理想の打球は?
中村: 滞空時間の長いホームランですね。それを小さい頃から理想にしていました。高い打球でダイヤモンドをゆっくり回れるのは気持ちがいい。ライナーだと入るかどうか分からないので全力疾走しないといけないですからね。、打った瞬間、「外野フライかな」っていう当たりがスタンドに入ったらいい。

二宮: 今季は公式球が統一され、いわゆる“飛ばないボール”に変更されます。打った時の印象は変わりましたか?
中村: うまくスピンがかかれば、あまり問題ありません。ただ、芯に当たらず、回転がきれいにかからないと失速します。打感もちょっと悪くて、打った時の音が低いですね。ポコって感じで、練習で打っていてもあまりおもしろくない。

二宮: ぜひ背番号(60)くらいホームランを打つシーズンが来ることを期待しています。最後に今季の目標を。
中村: 特に数字の目標設定はないですが、去年はケガで迷惑をかけた分、今年は全試合に出られるようにしたいです。それでたくさん“おかわり”ができればいいですね(笑)。

<2011年2月22日発売の『小説宝石』(光文社)では新連載「プロ野球の職人たち」がスタート。さらに詳しいインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>