北京五輪柔道男子100キロ超級金メダリストで総合格闘家への転向を表明していた石井慧(国士舘大)が1日、「戦極」と仮契約を結んだことを表明した。都内で会見に臨んだ石井は冒頭で「今日は石井慧の結婚会見に来ていただいて、ありがとうございます。結婚相手は日本人。戦極という相手と結婚します」と語り、報道陣の笑いを誘った。デビュー戦の日程、相手は未定だが、早ければ8月2日の「戦極〜第九陣〜」(さいたまスーパーアリーナ)でリングに上がる可能性が出てきた。
(写真:「次やる相手は持って3R」とポーズをとる石井)
 五輪での金メダル獲得以後、奔放な言動が話題を呼んだ石井は昨年11月、プロ格闘家への転向を宣言。アメリカに母体を置く世界最高の総合格闘技団体であるUFC(Ultimate Fighting Championship)入りを目指していた。本人によると、交渉過程では最高の条件を提示され、夏以降のデビューに向けてアメリカ、ブラジルと海外で修行に励んでいた。

 そんな石井の心を揺さぶったのは周囲の声だ。「いろんな人と相談しました。結果として『最初にUFCから出たほうがいい』という人はいませんでした。ファンからのメールや手紙もありましたし、大学の同級生たちが自分に対してリスペクトしてくれていることもわかりました。そういう人たちに日本で試合を見せたいという気持ちが強くなりました」。親交のある横綱・朝青龍から「家族に試合を見せることが、親孝行になる」とアドバイスをもらったことも、日本でのデビューを決断するひとつの要因となった。

 そんな中、真っ先に石井に声をかけていた日本の団体が「戦極」だった。「戦極には自分が最も尊敬する、ヘビー級で最も強い(エメリヤーエンコ・)ヒョードル選手と戦うジョシュ・バーネット選手がいる。もし、ジョシュ・バーネット選手が勝てば、最強はジョシュ・バーネット選手になる。そういう面でも戦極にひかれました」。この1月には「戦極の乱2009」でゲストとして登場し、ファンから大歓声を浴びた。「あそこまで自分を応援してくれているとは思わなかった。目頭を熱くしました」。戦極では吉田秀彦、瀧本誠(いずれも吉田道場)ら柔道界の先輩も多く活躍していることもプラス材料になった。

 海外修行の成果もあり、石井の体はスーツの上からでもはっきりわかるほど絞れていた。「ブラジルは暑かったのでスタミナがついた。帰国後は打撃の練習にも自信が持てるようになってきた」と本人も手ごたえを感じている。今月末からはオランダに渡り、憧れのヒョードルと練習を行う予定だ。「試合はいつでもOKです」。リングに上がる日が待ちきれない様子だった。

 最大の注目はデビュー戦の時期と相手だ。戦極を主催するワールドビクトリーロードの國保尊弘取締役は「8月2日(戦極〜第9陣〜)では最低限、リングで何かやってもらいたい」と語っており、対戦カードさえ組めればデビュー戦を行うことが濃厚だ。戦う相手についても「急な話だったので、対戦候補はまだ決まっていない」としつつ、先輩金メダリストでもある吉田秀彦の名前があがると「1番おもしろいカードになるでしょうね」と応じた。

「目標は世界チャンピオン」と高らかに宣言した石井。「アメリカで有名になりたい気持ちはある」とUFCも含めた海外挑戦への夢は捨てていない。「必殺技はいくつもある。気をつけてください」。最後はそう言って不敵に笑った。かねてより「60億分の1を目指す」と公言してきた男は、生まれ育った日本のリングでその第一歩を踏み出す。

(石田洋之)