ボクシングWBA世界ライト級前チャンピオンの小堀佑介が7日、所属する角海老宝石ジムで現役引退を正式に表明した。「首のヘルニアでやめます」と引退理由を語った小堀は、今後について「旅に出ようかと思っている。インドを皮切りに世界各国をまわりたい。目的はないが、なんとなく」とプランを披露。詰めかけた報道陣やファンは笑いに包まれた。
(写真:ものもらいのため眼帯姿で会見に臨んだ小堀)
 天然キャラでも人気を集めたボクサーらしい引退会見だった。現役時代の一番の思い出は「朝まで飲んでロードワークに出て、(胃から)ゲロが行ったり来たりしながら走ったこと」。日本王座を獲得した際には酔っ払って、山手線の電車にチャンピオンベルトを置き忘れたこともあった。しかし、ひとたびリングに上がれば、野性味あふれるファイトでファンを沸かせた。昨年5月には王者ホセ・アルファロ(ニカラグア)にダウンを奪われながら、得意の左フックで逆襲。3RTKOの逆転勝ちでチャンピオンベルトを巻いた。ライト級での日本人戴冠はガッツ石松、畑山隆則に続く快挙だった。

 引退のきっかけとなったのは首のヘルニア。1月の初防衛戦に判定で敗れた後、首から左腕が痺れ、動かせなくなった。小堀自身は世界再挑戦を目指していたものの、定期的に症状が出て満足に練習ができる状態ではなかった。ジムの鈴木眞吾会長は「即答で“やめろ”」と引退を勧告。本人も「首のヘルニアで勝っていけるほど、甘い世界ではない。潔く引こう」とボクサー生活に終止符を打つことを決めた。

 田中栄民トレーナーによると、ヘルニアは首の3カ所にみられ、うち1つは重症だという。「相手の衝撃を受け止めるタイプだから、そんなにパンチをもらっていたわけではないが、長い間の蓄積で症状が出たのでは」。小堀の才能を見出し、二人三脚で世界の頂点へたどり着いただけに、「もうちょっと頑張って試合をやってもらいたかった」と残念そうな表情を浮かべた。

 ただ、当の本人は引退が決まって「正直、ホッとした」部分もあったという。世界王座獲得までは決して全国区の選手ではなく、生活は苦しかった。頂点に立ってからもプロモーターの関係でなかなか防衛戦が決まらなかった。それだけに「世界とやるにはボクシング以外にも大変なことがある。疲れました」と本音が漏れた。

「それなりに努力はしたが、それは当たり前。運が良かった。周りの人たちに恵まれ、たまたま勝って、たまたま世界チャンピオンになれた」
 今後のことはまだ何も考えていない。王座陥落後はパソコンの勉強がてらバイトもしていたが、今は小堀曰く“燃え尽き症候群”に陥っている。「旅以外にやりたいことが何もないので困っている。やりたいことが分かっていたら苦労しない。ボクサーはつぶしがきかないから大変です」。まずは7月上旬にも「1回行ってみたかった」インドに渡る予定だ。旅の期間も全く決めていない。「(同じく引退後に世界を放浪した)中田ヒデ(英寿)と比べたら1000分の1の旅ですよ。適当なので、インドはやめて大阪にいるかもしれない(笑)」。最後まで天然キャラ100%の引退会見だった。

※2007年10月に掲載した当サイト編集長・二宮清純のインタビュー記事はこちら
>>世界を見据える“嵐のパンチャー(前編)
>>世界を見据える“嵐のパンチャー(後編)