惜しかったですねえ、広島新庄。話題の1年生、清宮幸太郎擁する早稲田実業に対して、6-7の惜敗。9回裏は、ひそかに逆転サヨナラを思い描いていたのだが……。しかし、よく反撃した。じつは判官贔屓で新庄に肩入れしながら見ていた人も多いのではないか。夏の甲子園らしい乱打戦でした。

 それにひきかえ、というのは適当ではないかもしれないが、カープの戦いは、どうも煮えきらない。せっかく巨人に3連勝して、さあ乗っていけるかと思いきや、本拠地マツダスタジアムに戻って、東京ヤクルトの山中浩史と小川泰弘に2試合連続完封負けとは、情けない。今季は、このまま勝ったり負けたりで、結局4位なんじゃないの? とヤケを起こしたくもなる。

 気を取りなおして考えてみる。なぜ、8月7日からの巨人3連戦に3連勝することができたのか。だって、優勝するには連勝しかないのだから、その原因を考えることは重要だ。

 もちろん、クリス・ジョンソン、前田健太、福井優也の先発が安定していた。しかし、なにより光ったのは、8回である。大瀬良大地のセットアッパーとしての安定感が3連勝を生んだといっても過言ではない。

 大瀬良が安定することによって、8回、9回は、大瀬良―中崎翔太という、いわゆる勝利の方程式が確立できた(中崎は不安定だが、そのことは、今は、おく)。

 シーズン途中で先発投手をリリーフに回すというのは、そう簡単なことではない。事実、大瀬良はセットアッパーに転向後、かなり打ちこまれたし、失点もした。ここへきて、ようやくリリーフの投球に慣れたのだろう。

 彼に何が起きたのか。『広島アスリートマガジン』(2015年8月号)で興味深い記事を見つけた。「……僅差の場面で表情やしぐさで相手に弱みをみせてはいけない。淡々と投げ込むことが大事だ」(「担当記者the赤ヘル見聞録」千葉教生の記事より)と気づいたそうなのだ。

 大瀬良はルーキーだった頃、マウンドで露骨に喜怒哀楽をあらわしていた。その素直な表情の豊かさも人気の秘密だっただろうけれども、そこは、プロの勝負である。相手に心理を読みとらせない、というマウンドさばきは重要だろう。それを、リリーフという場で学んだにちがいない。

 それから、最近は「2ストライクまで行ったら三振を狙う」というコメントも目立つ。これも、1点もやれない場面で登板するがゆえに、意識が強まったことではあるまいか。

 結果として、ボールがコーナーに決まるようになってきた。先発で結果が出ないとき、リリーフ転向直後の打たれているときは、力のあるボールでも、ややコースが甘く入りがちで痛打されていたが、いまは、はずれても中ではなくコースに行くという安心感がある。

 つまり、大瀬良を育てるためには、このリリーフ転向は成功だったと言える。

 ただし、チームとして見れば、代償も大きい。野村祐輔が不振で2軍落ちしたため、先発の数が足りない。阪神戦に先発した中村恭平や、薮田和樹には、やはり荷が重いと感じる。

 ただし、今季は大瀬良は最後までリリーフに回るべきだろう。来季はいざ知らず、いまから先発に戻すという選択肢はありえない。

 かといって第5の先発をどうするのかと問われれば、妙案はない。薮田や九里亜蓮ならば、いっそ戸田隆矢のほうが可能性があるような気がするが、これも決定打とは言いにくい。たぶん最後は、秋に向けて、黒田博樹の鬼の活躍に期待するしかないのかもしれない。

 それから、中崎に疲れが出たら、最後は、クローザー・大瀬良だろう。デュアンテ・ヒース、戸田、大瀬良でなんとかしのぎたい。

 実は、まだ、優勝をあきらめていないので、こんなことを言いつのるのだが、それにしても、この夏場の投手に疲れが出て乱打戦になりやすい時期に、2試合連続完封負けとは。そういう打線を組んだことにも、問題はあるでしょうね。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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