「いやぁ、カープは薮田をよく獲りましたね」
 いま、カープファンの間では、このセリフが挨拶がわりになっている。昨秋のドラフト2位・薮田和樹は、たしかに、亜細亜大時代、ほとんど実績を残していない。右ヒジの骨折や右肩痛で、東都大学リーグでの登板はわずか2試合にとどまった。

 それを2位指名し、7月1日の巨人戦でプロ初登板初先発、5回2失点で勝利投手になった。なによりも、ピンチにストレートで勝負する姿が好感を呼んだようだ。たしかに、カープのスカウトの勝利と言っていいだろう。

 ドラフトに限らない。新井貴浩を獲得したのも、ネイト・シアーホルツと契約したのも、結果を見れば、実にすぐれた判断だった。

 ただ、少し気になるのは、「救世主探し」にはキリがない、ということである。報道によれば、巨人がまたまた新外国人選手と契約準備中なのだそうだ。でも、カープは巨人のように、キリなく救世主を探す財力はないだろう。

 あとは、今ある戦力でどう上位にくいこんでいくかだ。
 その課題を、あえて、勝ち試合の中で指摘したい。7月5日の東京ヤクルト戦。3回に5点をとって、5-0とリードを奪ったあと、5回裏にも1死満塁のチャンスがきた。

 ヤクルトの投手は山本哲哉である。ここで打席に入った梵英心は、初球、真ん中からインコースに沈んでくるボールに手を出し、あっさりキャッチャーフライ。2死満塁。続く田中広輔も4球目をボテボテのピッチャーゴロ。あーあ。この無得点は当然、相手を勢いづかせ、先発・野村祐輔は6回、7回と2失点して、結果的には勝ったものの、接戦になってしまった。

 誤解しないでいただきたいが、梵や田中を批判したいのではない。田中は前の打席で二塁打を放っているし、2人ともよくやっている。

 個々の選手の問題というより、チームとしての課題だろう。ここで追加点をとっていたら、間違いなく楽勝の試合だった。それをとりきる力が、まだまだチームに欠けているということではないか。

 セ・リーグは、いまだにどんぐりの背比べ、もっと言えば“6弱”である。カープが優勝するチャンスは、十分にある。しかし、あの場面で梵か田中か、どちらかがなんとかするという、いわばチームとしての体質をつくらないと、いつまでも勝ったり負けたりのままシーズンを終えてしまうのではないか。

 同じ7月5日のオリックス-福岡ソフトバンク戦にもふれておきたい。オリックス先発のエース・金子千尋は4回まで無失点だった。ところが5回、ソフトバンクは松田宣浩のヒットを足がかりに無死満塁と攻める。打順は9番・捕手の細川亨だったが、工藤公康監督はここで決断し、早くも代打・高田知季を告げる。

 高田はファウルで粘って結局、押し出しをもぎとった。これをきっかけに、あの金子から8点を奪って試合を決めたのだ。

 ここで得点すれば試合が決まる、あるいは大きく動くというチャンスで、この場面の高田のようなプレーが、いわば打線の当然の文化として根づいたとき、カープはようやく勝負強さを手にすることになるのだろう。

 今後も全球団負け越しになる可能性さえあるという、前代未聞の混戦の中で、あらためて各チームの戦力を見渡すと、カープは勝負強ささえ身につければ、歓喜の秋が待っていると思うのだが。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)

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