前期は16勝19敗2分で地区3位。ただ、6月以降は6連勝を含む9勝1敗2分と調子を上げて前期を終えています。投手、野手とも経験を積み、自信を持って動けていることが良い結果につながっているのでしょう。
 投手陣に関して言えば、中継ぎ、抑えの役割分担がきっちりできたことが好調の要因です。ブルペンが盤石だと、先発は6回まで頑張れば、との余裕ができます。それが好投を呼ぶ好循環を生み出していますね。

 抑えの元阪神・西村憲は15試合に投げて防御率0.00。パフォーマンスはもちろん、練習態度や試合に臨む姿勢が、他の若手にいいお手本になっています。西村がマウンドでも、それ以外の部分でも選手を引っ張ってくれることはコーチにとってありがたいです。

 8回を投げるのは台湾出身の王鴻程。彼はヤンキースで活躍した王建民にタイプが似ています。194センチの長身、スリークォーターのフォーム、武器のシンカー……。特に腕を振って投げるシンカーは右バッターにとって厄介です。彼は日本の高校(福岡第一高)、大学(日本経済大)を経験しているため、この秋のドラフト対象選手。既にNPBのスカウトも定期的に視察に来ています。

 まだ粗削りな分、伸びしろを感じ、こちらも教えがいのある右腕です。単にNPBに入るだけでなく、いかに活躍するか。後期はより高みを見据えてピッチングを磨いてもらえればと思っています。

 そして6〜7回を任せているのが右の安江嘉純、左の上條優太です。安江は185センチの身長から投げ下ろし、角度のあるボールが武器。スライダー、カットボール、フォークボールと変化球の精度も良く、リリーフとして計算の立ちやすい存在です。

 上條は今季、開幕投手を務めてもらったように、当初は先発で考えていました。しかし、長いイニングでは疲労がたまると結果が思わしくないことから、途中からリリーフに回しました。彼の長所は伸びのあるストレートと、同じ軌道から曲がるスライダー。サウスポーはNPBからも注目度が高いだけに、今後も左バッターが揃うところでしっかり抑えてほしいものです。

 王、安江は1年目ですから、シーズンを通じて投げた経験がありません。彼らが暑い夏を乗り切り、最後まで活躍できるかどうかが、チームと本人たちの行方を占うことになるでしょう。僕も自身の体験談を話しながら、いい状態が続くようにサポートしていきたいと考えています。

 先発はライアン・シールと長谷川潤が軸です。シールは速球と空振りのとれる変化球が持ち味。今季はBCリーグからNPBに途中加入する外国人が続々と出てきているだけに、本人も7月末までに何とか、という気持ちがあるようです。そのために必要なのは抜群の結果でしょう。

 ここまでは防御率1.86ながら、2勝5敗。防御率は良くても負け数が多いのは理由がありました。長いイニングを投げようと、力をセーブして下位打線に打たれてしまう傾向があったのです。フリオ・フランコ監督を通じ、「手を抜かず、全力で行け」とアドバイスしたところ、ここに来てピッチングにスキがなくなりつつあります。後期は着実に数字を残してくれるのではないでしょうか。

 長谷川はオフにコロンビアのウインターリーグに参戦していたこともあってか、春先は調子がイマイチでした。しかし、ここに来て状態は上向きです。彼はスリークォーターとサイドの中間から投げる珍しいタイプの右腕。継続して好内容を見せることでNPBスカウトの目にも留まるでしょう。

 今までの彼は球速アップを意識するあまり、余計な力が入っていました。その影響でいい時と悪い時がはっきりしていたのです。長いシーズンを戦うプロは100点か20点か、というピッチングでは通用しません。60〜70点を常に出す。長谷川も上を狙うなら、こちらを追求する必要があります。

 球速よりも大事なのは安定感です。力むのではなく、程よく脱力して投げるのがちょうどいい。この感覚を身につければ、いい状態を維持できるとみています。

 僕自身も後期は先発として登板数を増やす考えです。選手が最も成長するのは勝ちゲーム。僕が先発で試合をつくることで、リリーフ陣がリードや僅差の展開で投げるシーンをつくりたいと思っています。打たれたら自分自身の責任。そんなプレッシャーのかかる場面で投げてこそ、選手は伸びるはずです。

 コーチ業は初めての経験で、前期は勉強の日々でもありました。指導者の一言が、いかに選手の行方を左右するか。それを間近で知る機会にも恵まれました。阪神に途中入団したネルソン・ペレスに対するフランコ監督の助言です。

 ペレスは開幕当初、引っ張り中心でアウトコースの打ち損じが目立っていました。その時はNPBに行けるイメージがわかなかったのが正直なところです。しかし、フランコ監督が「アウトコースを逆方向に打とう」と話をしてから見違えるようにバッティングが良くなりました。来た球に逆らわず、広角に打てるようになったのです。

 僕も、投手担当として、どのように選手たちに声をかければ、いい方向に導けるか、日々考えながら取り組んでいます。まだまだ頼りないコーチかもしれませんが、ピッチングと言葉で引っ張っていけるよう、努力するつもりです。

 フランコ監督はコーチ陣や選手と積極的にコミュニケーションをとり、考えを尊重してくれる指揮官です。時間とともにチームはまとまりができ、完成度が上がってきました。後期はよりチーム一丸となってレベルアップを目指します。引き続き、応援よろしくお願いします。


多田野数人(ただの・かずひと)>:石川ミリオンスターズ兼任コーチ
1980年4月25日、東京都生まれ。八千代松陰高ではエースとして3年夏に甲子園出場。立教大では東京六大学通算20勝、防御率1.51、334奪三振の成績を残す。その後、インディアンスとマイナー契約を結び、04年にメジャー昇格。初先発初勝利をあげる。08年に大学・社会人ドラフト1巡目で日本ハムに入団。1年目に7勝をあげると、09年にはノーヒットノーランまであとひとりの快投をみせるなど5勝をマークする。11年には戦力外通告を受けるも再契約。12年には日本シリーズ登板。14年オフに自由契約となり、今季から石川に投手コーチ兼任で入団する。日米通算19勝21敗、防御率4.43。背番号65。
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