たとえば昨年、丸佳浩の打撃が成長したとき、新井宏昌打撃コーチの功績が、よくとりあげられたものだ。

 あるいは今年のオープン戦期間中、緒方孝市監督は、ライトの正位置を争う野間峻祥と鈴木誠也の2人を、特別にマツダスタジアムの室内練習場に呼んで、直々に指導したことが話題になった。

 ふと不思議に思うのだが、こういうときに堂林翔太の名はあんまり出てこない。あくまで邪推だが、堂林は野村謙二郎さんの子飼いだから、というような遠慮が、周囲にあるのかもしれませんね。とすれば、これは「堂林の悲劇」とでも名づけるべきことなのかもしれない。

 とはいえ、絶不調の打線のテコ入れを期待されて1軍昇格した堂林が、2軍でバットを振り込んで、キャンプ、オープン戦とは違う姿を見せたかといえば、そうとは言えない。

 たしかに昇格即スタメンとなった中日戦では、伊藤準規からセンターオーバーの二塁打を打ちましたよ。しかし、凡打するときの形がいつも同じに見える。

 本人に何かを変えなければいけない、と考える力がないのか、周囲に彼を指導する力がないのか。その両方だろう、と言いたくもなる。

 連日、目を覆わんばかりの貧打で苦戦を続けているカープだが、結局、問題を先送りしてきたツケが、ここへきて一気に噴出したという側面はないだろうか。

 考えてみれば、2013年に3位になったのは、途中加入したキラ・カアイフエの爆発的な活躍のおかげだった。昨年は前半戦のブラッド・エルドレッドの鬼神の如き豪打がチームを引っ張った(一方、投手陣のほうは、ここ数年、基本的に安定している)。

 菊池涼介も會澤翼も丸も、ついに育ったかという感慨にとらわれてうかれていたが、逆に、堂林も鈴木誠也も大きく育たない現状のほうが問題の本質なのかもしれない。

 たとえば野間は、非常にいいスイングをしていると思う。緒方監督が一目惚れしたというだけのことはある。将来、いい1番打者になってほしい。

 しかし、今のところ「緒方監督の子飼いの選手」になりかかっていないか。そこに、堂林と同じような悲劇が待っていないか。

 で、今度はネイト・シアーホルツ外野手が新加入した。メジャー8年間で2割5分3厘、52本塁打。そりゃ、一昨年のキラや昨年のエルドレッドのように打ってくれれば、打線は上向くかもしれない。期待はしますよ、もちろん。

 だけど、ヘスス・グスマンだって、長い間、狙っていた選手というふれこみではなかったのか。ライネル・ロサリオは何のために4年契約にしたのだろうか。昨年のエルドレッドの大変貌は、むしろ例外的な出来事だと考えるべきなのだ。一昨年までは、当たれば飛ぶけれども、めったに当たらない打者だったのだから。しかも、昨年後半には、元の姿に戻ってしまったのだから。まるで救世主を探すように、次々と新外国人と契約するだけでは、問題の本質は変わらない。

“キクマル”だけでなく、堂林も鈴木誠也も野間もロサリオも、球団として育てる形にならない限り、カープは真に貧打を解消することはできない。


 蛇足。以上は、優勝をめざす強いチームになるための私見である。しかし、カープの試合を見る者はしあわせだ。

 なぜなら、菊池の守備が見られるのだから。連敗を止めた8日の巨人戦、9回裏2死一、二塁。亀井善行が打った二遊間の痛烈な当たり(事実上のセンター前ヒット。しかも、最後のバウンドはイレギュラーして、はねた)を飛びついてグラブにおさめ、三塁に送球したプレーを見ましたか?

 たとえ優勝できなくても、カープファンでよかった、と思えるプレーだった。なぜなら、見た者は一生、このプレーの記憶を反芻してたのしむことができるのだから。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜を担当します)
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