開幕まで、あと3日。2月からの自主トレで体の部分は各選手とも仕上がってきました。考え方の部分も、以前、紹介した「準備を怠るな」「毎日ノートをつける」「失敗を怖れず、失敗から学べ」「迷った時には前に進め」「実戦に強くなれ」の5カ条は選手たちの頭の中に入ってきたのではないでしょうか。
 5日の千曲川硬式野球倶楽部との交流試合は13−10。22安打を放ち、打線は活発です。一方で、投手陣には課題が残りました。四球での自滅やバッテリーミスが多く、それらが失点につながっています。

 11日の石川との開幕戦は兼任コーチの藤井宏海に開幕投手を託しました。本人とも相談し、まずは最初に自らのピッチングで投手陣を引っ張ってもらおうと考えています。

 続く先発は右腕の藤岡雅俊、左腕の新人・田中優貴(丹生高−三菱自動車岡崎)、4年目の関口貴之、3年目の石野公一郎あたりを候補に考えています。新人の田中は地元出身選手。スピードはありませんが、カットボールを覚えて右バッターの懐を突くピッチングをしようと試みています。カーブ、スライダーも交えながら、総合力で勝負できるサウスポーになってほしいものです。

 また昨季は中継ぎだった藤岡は先発に挑戦してもらいます。彼は球種が少なく、本来は中継ぎタイプでしょうが、長いイニングを投げてアピールさせたいと思っています。開幕に向け、スライダーも2種類習得して球種を増やし、カーブの精度を磨いて緩急をつけることをテーマに取り組んできました。オープン戦では、その成果が出ているとは言い難いところですが、場数を踏む中でステップアップしてくれることを願っています。

 今回、昨季までコーチを務めた阪神から育成選手が派遣されることになりました。前期は右腕の田面巧二郎がチームに加わっています。彼はもともとドラフト3位で入団し、速球とスライダーはいいものを持っています。ただ、制球難が活躍できていない最大の要因です。

 独立リーグに派遣された目的も、実戦の中でコントロールを磨くこと。ピッチャーは専門ではありませんが、入団時にスカウトから高く評価されていた選手なのですから、自信をつければ課題は克服できるはずです。福井では中継ぎとしてイニング数を多く投げてもらう予定です。NPBのピッチャーとして結果を残し、手応えをつかんで阪神に帰ってほしいと思っています。

 野手では新人の木下裕揮(報徳学園高−東北福祉大)が楽しみな存在です。スイッチヒッターで小技もでき、走塁も抜け目がない。競争の末、1番・センターのポジションを勝ちとりました。打線の牽引役としてはチーム内で最適な選手と言えるでしょう。守備範囲も広く、センターラインの一角を担うにはふさわしい選手です。

 また4番はキャッチャーの中溝雄也に託します。一発の多いバッターではありませんが、つなぎの野球の要になってほしい。その思いから彼を攻守の軸に据えることにしました。3番の荒道好貴とともに、1番・木下、4番・中溝が1年間、スタメンで出続けて打線を牽引してくれると、いい攻撃ができるとみています。

 チームづくりを進める中で、福井の強みは守備力だと感じています。外野はセンター木下を中心に森亮太、ルーキーの浜崎裕太(春日丘高−至学館大)と足のある選手が揃いました。内野もショート荒道に、セカンドはキャプテンの小松崎元樹、杉直道、小野瀬将紀といずれも守備のできる選手がポジションを争っています。まずは守りから不安の残る投手陣を盛りたて、攻撃につなげる野球ができれば、チームは乗っていけるでしょう。

 福井は球団創設以来、前期優勝の経験がないと聞きました。ならば、なおさらスタートダッシュが肝心です。開幕戦の石川、2戦目の阪神2軍と勝って勢いをつけられれば最高ですね。福井には即NPBに行けるようなズバ抜けた選手は、まだいません。それだけにチーム力を全面に押し出してシーズンを戦っていきたいと考えています。

 全員で一丸となり、目の前の1球、1アウト、1イニング、1勝にこだわる。「1」を大切に1年間、選手とともに頑張っていきます。

吉竹春樹(よしたけ・はるき)>:福井ミラクルエレファンツ監督
1961年1月5日、福岡県生まれ。九州産業高校(現九州産業大付属九州産業高)から、79年ドラフト外で阪神に入団。プロ2年目に投手から野手に転向する。86年オフにトレードで西武に移籍。翌87年にはレフトのレギュラーの座をつかみ、オールスターゲーム初出場を果たす。その後は西武黄金時代を支える外野手のひとりとして活躍。96年限りで引退し、翌年、阪神のコーチに就任した。2011年からは二軍監督を務めた。13年に一軍コーチに復帰すると、14年は一軍野手総合コーチとして日本シリーズ進出に導いた。現役時代の通算成績は1128試合、打率.261、34本塁打、189打点。
◎バックナンバーはこちらから