1975年の初優勝は、球団創設26年目だった。もし今季、カープが優勝を果たせば24年ぶりだ。ファンの中には前回の優勝を知らない者も増えてきた。

 過日、初優勝時の主役のひとり衣笠祥雄と会った。優勝が間近に迫ってからのプレッシャーは半端ではなかったという。

「9月に入り、遠征先から広島に帰ると、選手が住んでいる地区に横断幕や垂れ幕がかかっているんです。球場も常に超満員。“これで負けたら、もう夜逃げするしかないな”と。うれしいというより、怖かったですよ」

 初優勝は10月15日、後楽園球場での巨人戦。優勝が決まった瞬間、山本浩二は男泣きに泣いたが、衣笠には「泣くエネルギーも残っていなかった」という。それくらい厳しいプレッシャーの中での悲願達成だったのである。

 今のカープの選手で、主力として優勝を経験した者はいない。昨季、9月まで巨人、阪神と優勝争いをしたことはチームにとって貴重な経験だが、最後は2位からも転落してしまった。今季はこの悔しさをバネにしなければならない。

 衣笠がおもしろいことを話していた。「79年に日本一になれたのは75年に日本シリーズを経験することができたから。あの時は1勝もできなかったけど、あれが“江夏の21球”の場面で生きた。もし近鉄の選手たちが日本シリーズを経験していたら、結果は逆になっていたかもしれない」。勝ってこその経験である。

(今月は二宮清純が第2、4週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第3週木曜を担当します)

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