「僕がもっと積極的に走っていたら、順位は変わっていた」
 契約更改後の会見で、赤松真人はそう語ったそうだ。今季は出場74試合のうち、代走出場が49試合。12盗塁25得点だった。

 もちろん、あと1試合、負けを引き分けにできていれば、あるいは、あと1つ勝っていれば、阪神に逆転されて3位に落ちることはなかった、という今季の悔しさから出た発言だろう。そして、お手本を巨人の鈴木尚広にして、「企画数、盗塁数を増やしたい」と続けた。

 おそらく、この盗塁の「企画数」を増やすことが重要である。当然、勝負のかかった場面で代走に起用されることが多いから、無謀なスタートは切れない。野村謙二郎前監督も、1年目などは梵英心を、無理を承知で走らせていた面があった。だが、監督5年目の今季は、心なしか現実路線に入っていたような気がする。

 その点、新監督にはアドバンテージがある。野村前監督も緒方孝市新監督も、言わずと知れた元盗塁王だ。走る野球をやりたいに決まっているのだから、監督1年目のほうが思い切ってサインは出しやすいだろう。

 赤松のこの覚悟を、来季、年間通じて継続できれば、たしかに、彼の足で「あと2、3試合」は勝てるかもしれない。

 もうひとり、注目したいのは丸佳浩である。彼は「悔しい。交流戦の9連敗や勝負どころで勝ちきれなかった。上位チームとの差を痛感しました」と語った。

 この「上位チーム」は事実上、巨人を指しているだろう。チーム打率、本塁打数、得点で巨人を上回りながら、結局、7.5ゲーム差をつけられての3位に甘んじた。

 たとえば、あの9連敗を仮に4勝5敗で乗り切っていれば、2位はもちろん、巨人とも相当な勝負ができた。

 赤松の言葉が「あと1つ」の重要性を的確に表しているとすれば、丸のほうは「80」という達成目標を端的に示している。ちなみに、今季、巨人は82勝、阪神75勝、広島74勝だった。9連敗が4勝5敗に変わるだけで78勝になる。80勝すれば、ほぼ優勝は見えてくる。

 このことをもって、来季のスローガンは「1と80にこだわる」というのはいかがでしょうか。

 もちろん、そのための課題は山ほどある。
 會澤翼にはレギュラー捕手として100試合は出て3割打ってほしいとか、鈴木誠也と戸田隆矢にブレイクしてほしいとか、栗原健太に復活してほしいとか……。
 
 ただし、少し腰を落ち着けて考えてほしい。当然、優勝を実現するために必要なのは投手力である。ドラフトで即戦力の補強がなかったので、ポイントははっきりしている。

 大瀬良大地と野村祐輔が、確実に2ケタ勝つこと。そして今村猛が復活すること。これは、来季、優勝争いをする上での、いわば大前提である。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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