「疲労はないです!」
 と菊池涼介は叫んだ。9月9日の中日戦、延長10回裏にサヨナラヒットを放って、試合後、お立ち台でヒーローインタビューにのぞんだときのことである。

 そう言いながら、しきりに噴き出す汗をぬぐっている。疲れがないはずはない。それでも、ごく自然に、かつストレートに「疲労はない」と言いきれるメンタリティがいい。

 もちろん守備も足もバッティングも魅力的だが、優勝争いが大詰めのこの局面では、菊池のような、いわゆる「メンタルの強さ」がカギを握るのではあるまいか。

 いきなり話題を変えるが、錦織圭はすごかった。テニスの全米オープンである。優勝をのがしたのは本当に残念だったけれども、決勝後の彼のインタビュー記事を読んでいると「アンフォーストエラー(自分で犯した凡ミス)が非常に増えてしまった」(「スポーツニッポン」9月10日付)という言葉があった。

「unforced error」というんですねぇ。直訳すれば「(相手に)強制されていないミス」ということだろうか。いや、勉強になる。

 カープが残り1カ月弱で逆転優勝するための条件として、菊池のようなメンタルと、もうひとつ、この「強制されていないミス」を犯さないことが重要だろう。

 そう考えると、たとえば9月7日の横浜DeNA戦が気になる。この試合、先発は九里亜蓮だった。たしかに四球を連発したりして、よくはなかった。序盤、カープが4-0とリードを奪ったせいもあるのだろう。野村謙二郎監督は2回3分の2で早々に九里を降板させ、早めの継投策に打って出た。

 戸田隆矢は2回3分の1を1失点とふんばったが、3番手・中田廉がつかまって5失点。逆転負けをした。

 だが、この試合はDeNAに2連勝した後の3戦目だし、先発は九里だし、負けも視野に入れての試合でよかったのではあるまいか。とすれば、それでなくても登板過多の中田に無理にイニングをまたいで投げさせる必要はなかったのではあるまいか。

 翌日が月曜で試合がないから、という理由もあるだろう。しかし、中田をいかに休ませながら使うか、というのは最終盤の投手起用のカギのはずである。これからは、中田が登板する展開の試合を落としているようでは、逆転優勝はない。その意味で、7日の試合はベンチの「unforced error」だったのではないかと思う。

 残り試合を全勝することはできない。どこかで負け試合をつくりながら、勝ちを重ねて巨人を追う。そういうタフな戦いを見せてほしいものだ。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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