カープと巨人のマッチレースといえば、1986年のペナントレースを思い出す。広島は残り7試合で首位・巨人とのゲーム差は2.5。これをひっくり返したのだから、奇跡と言っていい。

 MVPは18勝4敗、防御率2.43という素晴らしい成績で沢村賞、最多勝などに輝いた北別府学だった。後半戦に限れば11勝1敗。「北別府が投げると負ける気がしない」と言われたものだ。

 しかし打線は振るわなかった。長年、“ミスター赤ヘル”としてチームを牽引してきた山本浩二は、この年限りで現役を引退した。鉄人・衣笠祥雄は自身の持つ連続試合出場を2085まで伸ばしたが、打率は2割5厘とさっぱりだった。

 チーム最高打率は高橋慶彦の2割8分4厘。打撃ベスト10に名を連ねた者はひとりもいなかった。

 86年のカープは典型的な“投高打低”のチームだったが、日替わりでヒーローが誕生した。「ピッチャーもバッターも敵と戦う前に、まず味方と戦っていた。互いのライバル意識がチームを押し上げた」と、この年、12勝(6敗)をあげた金石昭人は語っていた。

 今年のチームも競争は激しい。スタメンは“日替わりランチ”と揶揄されるほど流動的だが、逆にいえば誰にでもヒーローになれるチャンスがある。総力戦に活路を求めたい。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)

◎バックナンバーはこちらから