かつてカープにリック・ランセロッティという左バッターがいた。通称ランス。そう聞けば「あぁ、ランスにゴンか!」と懐かしさが湧いてきた御仁も少なくないのではないか。当時、「タンスにゴン」というCMが流行しており、それをもじって、そう言われたのだ。

 このランス、三振かホームランか、という典型的なバッター。1987年には39本塁打でセ・リーグのホームラン王にも輝いたが、同時に114三振で“三振王”にもなっている。

 セ・リーグのキャッチャーは大振りのランスに対し、皮肉を込めて、よくこう言ったものだ。「頼むからカゼをひかせるなよ」。スランプの時期などは大型扇風機などと揶揄されもした。

 さしものランスも、この試合を見たら「オレも負けた」と思ったのではないか。14日の横浜DeNA戦でカープのブラッド・エルドレッドが1試合6三振というNPB記録(延長戦のため参考扱い)をつくったのだ。このうちのすべてが空振り。ランス顔負けの大型扇風機ぶりである。

 このエルドレッド、今季は打つ前に“ため”をつくれるようになり、グッと安定感が増した。打率も一時は3割を超えていた。

「エルドレッドは覚醒した。日本の野球を覚えたから、もう心配はない」。OBからよく、そんな声を聞いたものだが、何かの拍子でバラバラになってしまうのかバッティングの難しいところである。

 悪い時のエルドレッドは“ため”がなくなり、ボールを迎えに行ってしまう。軸足に重心が乗らないのだ。当然、それは本人にもわかっていることだろうが、思うようにならないのがもどかしい。かつて山本浩二がやっていたように、夏場、アメリカンノックで下半身を鍛え直してみるのも手ではないか。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)

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