正念場にさしかかってきた。

 開幕ダッシュの立役者のひとりだった大瀬良大地が不調を脱することができない。個人的にはターニングポイントは、あの148球完投をさせてしまった試合(5月1日の阪神戦)だったと思うが、もちろん直接的な因果関係は証明できない。

 ただ、あの試合で疲れがたまり始め、交流戦で打たれ続けて、どんどん疲労が蓄積し、ボールに力がなくなる、という悪循環に陥ってしまったように見える。彼が、この試練をのりこえるだけの、知力と精神力の持ち主だと信じたい。

 ブラッド・エルドレッドの故障も軽症であることを祈るし、ブライアン・バリントンも野村祐輔も復調してくれと、切に願う。うーん、なかなか大変だ。
 
 あえて、かすかな光明について話をしたい。
 會澤翼は、ついに成長したのではないだろうか

 たとえば7月5日の東京ヤクルト戦。8回裏に山本哲哉から一時は同点となる2ランを放った。粘りに粘って、10球目の外角低めのストレートをライトスタンドにライナーで叩きこむ、すばらしい当たりだった。じつはその前の打席も惜しかった。6回裏2死、投手は左腕・八木亮祐。フルカウントから外角低めに落ちるカーブによくついていって、センターへ大飛球を放ったのだ。上田剛史の好守にはばまれたが、あわやホームランという当たりだった。

 あるいは、6月29日の横浜DeNA戦で、クローザー三上朋也から打った2号勝ち越しソロ。「思い切りスライダーに(ヤマを)はらせていただきました」とコメントしたが、けっこう低めのスライダーだった。「打てる捕手」として、そろそろレギュラーの座についてもいいのではあるまいか。

 捕手は、石原慶幸が離脱したあと、大ベテラン倉義和が1軍にあがって、よく投手陣をリードしている。9連敗のあと、なんとかそこそこ勝ちゲームをつくってこられた陰には、倉の力が大きく貢献したと評価すべきである。しかし、これから正念場を勝ち抜くためには、もう少し捕手にも打力がほしい。主戦・倉―控え・會澤というより、會澤―倉という感覚で定着させてはどうか。

 もうひとりは、左腕の戸田隆矢。樟南高出身の3年目だが、なにしろ体が細い。181センチ、72キロ。期待されて先発しても、どうにもボールがひ弱に見えた。実際、先発では、なかなか結果が出なかった。なにより、立ち上がりをいかにも不安そうに投げていた。

 現在は、リリーフにまわっている。7回とか8回をまかされることが多いが、これが、どうやら急成長中なのだ。

 まず、体が少し大きくなってきたように見える。背が伸びたのではない。少し厚みが出てきた。そのぶん、ボールに力がある。球速も増してきた。うまく指にかかれば145キロを超える。おそらく、今この瞬間にも、少しずつ体がプロらしくなりつつある、まさに現在進行形の若手といっていい。

 あとは変化球のキレだろう。スライダーがもう少し鋭くなれば、待望の先発左腕に成長する可能性はある。

 若手を先発で抜擢するのも、育成するうえでのひとつの方法だとは思うが、やはり、リリーフで短いイニングから実績をつくっていったほうがいい。少なくとも戸田に関してはリリーフで経験を積むのが大正解だった。オールスター後に先発にまわって、5勝くらいできるかもしれない。

 あの悪夢の9連敗のとき、丸佳浩は「ここで、あせるのはやめよう」と言ったそうだ。
 たしかに、苦しい夏場を迎えたが、あわてても仕方がない。伏兵に可能性を見出すことも重要である。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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