育成選手を含め、83名の指名が行なわれた今年のNPB新人選択会議(ドラフト)。その最後を締めくくったのが巨人に育成5位で指名された右腕・神田直輝だ。神田の経歴は一風かわっている。プロ野球選手には珍しい国立大学出身もさることながら、何と大学での所属は準硬式野球部。甲子園はもちろん、今年の全日本準硬式野球選手権大会ベスト8以外は実績は皆無に等しい。果たして神田直輝とはいったいどんなピッチャーなのか――。そこには異色の“野球人生”があった。
―― 野球を始めたのは?
神田: 中学校に入ってからです。小学校の時はサッカーをやったり、バスケットボールやったり……。でも5年生くらいになって野球がやりたくなって、家では父親とキャッチボールをしていたんですけど、チームに入るにはちょっと遅すぎました。だから、中学生になるまで待っていたんです。

―― 中学でのポジションは?
神田: ファーストをやったり外野を守ったりしていました。本当はピッチャーをやりたかったんです。でも、中学から野球を始めたので、小学校からピッチャーをやっていた子を監督は使っていました。

―― 前橋東高校に進学した理由は?
神田: 自分がピッチャーをやらせてもらえるような高校がいいなと思って。でも、入ったら2年生が1人しかいなくてビックリしました。そこまで少ないとは知らなかったんです。しかも、その人も3年生が引退すると同時に辞めちゃいました。だから新チームは1年生だけの9人ギリギリだったんです。ただ、同学年にはピッチャーがいなかったので、自分がやらせてもらえました。

―― 高校2年の秋にオーバースローからサイドに変えたとか。
神田: はい。入学後、ずっと公式戦で勝つことができなかったのですが、その年の夏の予選で初めて1回戦を勝ったんです。それでチーム全体に勝つ喜びが芽生えた。「よし、もっと練習して勝とう!」という雰囲気になったんです。結局、2回戦で前橋育英に0−10で負けたのですが、その日のうちにみんなで集まってどうすれば強くなれるかって話し合ったんです。自分も何か変えなければいけないと思って、その場でちょっとサイドで投げてみたんです。そしたら意外といいボールが投げられた。それで「よし、サイドでいこう」と即決でした。

―― サイドにしたメリットは?
神田: オーバーの時は思い切り投げると、コントロールがつかなかった。だから、置きにいく感じになっていました。でも、サイドだと思い切り投げてもまとまったボールを投げることができた。その分、スピードも上がりましたしね。

 ゼロからのスタート

 高校卒業後、教師を志望し、群馬大学教育学部に進学した神田。入学試験で初めて神田のピッチングを見た準硬式野球部監督でもある上條隆教授は「2月だというのに、低目に速いボールがビュッといっていた。おもしろい子がきたなぁ」と思ったという。しかし、当の本人は今年、プロへのラストチャンスと思いながらも、教員採用試験の合格を目指した。その真意はどこにあったのか。

―― 群馬大学には硬式野球部もある。準硬式を選んだ理由は?
神田: 群馬大学は準硬式の方が歴史もあるし、実力も上。硬式と試合をしても準硬式が勝ってしまうんです。

―― 今年は教員採用試験を受けたとか。
神田: はい。もともと教員志望だったので。でも、まだ野球がやりたいという気持ちもあって……。とにかくまずは採用試験を頑張ろうと。それでもし合格したら、教員になろうと思っていました。でも、結局落ちちゃって……。それで思い切って巨人の入団テストを受けました。これもダメだったら、もう完全に野球は諦めて、来年また採用試験を受けようと思っていました。

―― 採用試験にパスしていれば、巨人のテストは受けなかったと。
神田: はい、そのつもりでした。でも試験勉強している時期も結局はトレーニングはしていましたからね。もしかしたら受けるだけ受けていたかもしれません(笑)。

―― ドラフト会議当日、名前を呼ばれたのは全指名選手の最後だった。
神田: 監督やチームメイトと一緒にインターネットでチェックしていたのですが、なかなか自分の名前が出てこなくて……(笑)。他の球団が次々と終了していって、ソワソワしていました。ようやく自分の名前が更新されたときには、みんな立ち上がって両手を挙げて喜んでくれました。

―― 準硬式出身ということで不安は?
神田: 特にないです。ボールの大きさがほんの少し変わるくらいで、ボールのスピードも打球の速さも変わらないですから。指名されてから硬式で練習していますが、今ではもう硬式じゃないと投げられないくらいです。

 毎年、オフには筋力トレーニングを続けてきた神田。入学直後と比べると、身体は明らかに違う。スピードも5キロ伸びた。プロではどんなピッチングを見せてくれるのか。

―― 巨人から期待されていることは何か?
神田: 清武英利球団代表からは「君のような投げ方をしているピッチャーは今の巨人にはいない。その個性を磨いていきなさい」と言われました。まずは一生懸命やること。どれだけ伸びるかが期待されていると思います。

―― 課題は?
神田: しいていえば全部です。フィジカル的にも技術的にも、そしてメンタル面も全てレベルアップしていかないといけないと思っています。自分は今まで強いチームでやったことがないし、本格的な指導を受けたこともない。だから、すぐに壁にぶつかるかなぁと思っています。でも、逆にプロに入って、どんな練習をするのか、どんなことを指摘されるのか、楽しみでもあるんです。フォームとかも言われたことがないので、何かアドバイスをいただいて変われたら嬉しいなと。ピッチング自体もほとんど指導は受けてこなかったので、早く教わりたくて仕方ないですね。

「育成も本枠も関係なく見ると言われている。1年目から1軍デビューを狙っていきます」と力強く語った神田。彼がプロ入りしたことで大学の後輩が「頑張ればできるんだ」と積極的に練習するようになったという。今度はプロでの厳しい競争に勝ち、全国の子どもたちに夢を与える存在を目指す。強いチームとは無縁だった神田にとって、プロでの野球はまさにゼロからのスタートだ。果たして異色の右腕は、山口鉄也、松本哲也に続く“第3の育成の星”となれるのか。「直輝」という名前のように、プロの世界で真っ直ぐな輝きを放つため、神田は今も早朝練習を欠かさない。

神田直輝(かんだ・なおき)プロフィール>
1988年1月18日、群馬県出身。中学から野球を始め、高校からピッチャーとなる。2年時にオーバースローからサイドスローへかえたことが転機に。卒業後は教員志望で群馬大学教育学部に進学。準硬式野球部に所属し、今年はエースとして全日本大学準硬式野球選手権大会でベスト8進出に貢献した。巨人の入団テストを受け、見事プロへの切符をつかんだ。180センチ、82キロ。右投右打。

(聞き手・斎藤寿子)

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