2009年の愛媛FCはクラブワーストとなる15位でJ4年目のシーズンを終えた。今季は開幕3連勝とスタートダッシュをきりながら、以降はケガ人が続出。夏場の第2クールは2勝2分14敗と低迷した。そして9月、クラブはJFL時代から指揮を執った望月一仁監督の解任に踏み切った。代わってクラブの再建を託されたのが、クロアチア人のイヴィッツア・バルバリッチ新監督だ。J初年度の9位を最高に年々順位を下げている愛媛をどう変革するのか。シーズンを終えたばかりの指揮官を直撃した。
――監督に就任されて3カ月。シーズン途中からの指揮で成績は1勝6敗5分と、なかなか結果は出ませんでした。来季への手ごたえはつかめたでしょうか?
バルバリッチ: 成績が悪かったことについては、何も言い訳はできません。ただ、愛媛に来てからの3カ月は私にとって貴重な時間でした。まず日本という初めての環境に慣れるには時間が必要でした。そして日本のサッカーを知る時間も必要でした。この期間中、選手の力やキャラクターを把握し、何ができて何ができていないのかを理解できました。そして、来季はどう戦えばいいか考えることができた。その点では非常に有意義な時間だったと思っています。

――今おっしゃった「何ができて何ができていないのか」という部分を具体的に教えてください。
バルバリッチ: まずできている部分ですが、個々の選手のテクニックは非常にいいものがある。できていないのは、そのテクニックを試合において有効に使うこと、チームの中で機能させることです。そしてフィジカルの強さも不足しています。試合日程が過密だったこともあるのでしょうが、私が監督に就任してからもケガ人が非常に多かった。ケガをすると、その箇所が治っても元の状態に戻して試合でプレーするにはかなりの時間がかかります。選手の頭数はいても、いないのと同じ状態で戦わなくてはいけませんでした。

――となると、来季のキャンプはフィジカル強化のため、かなりハードなトレーニングを課すと?
バルバリッチ: そこまでハードなトレーニングをさせるつもりはありません。一番大切なのは選手たちひとりひとりが何のために、このトレーニングをしているのかを理解した上で練習を行うことです。レベルアップのためなのか、体力強化なのか、コンディション維持なのか……。それを知った上でトレーニングをして効果が出れば、自然と選手たちが率先して練習に取り組むようになるでしょう。
 誤解してほしくないので言いますが、ただ練習すればうまくなる、厳しい練習をすればいいという考え方は誤りです。大事なのは量より質。私はいかに正しい方法で、適切なタイミングでトレーニングを行うかを重視しています。

――監督就任後の成績をみると、12試合で失点は15と守りは大幅に改善されました。一方で得点はわずかに8ゴール。課題とされていた決定力不足にますます拍車がかかってしまいました。3トップを試したり、いろいろ手を打たれてはいましたが、来季に向けては攻撃力のアップが望まれます。
バルバリッチ: まずサッカーは攻守を分離して考えることはできません。攻撃も守備もチーム全員で取り組むべきものだと考えます。その点で守備だけ良くなったという見方は適切ではないでしょう。
 得点が少なかったのは、先ほどもお話したケガ人の多さが第一の原因です。ジョジマールが膝の靭帯を損傷したり、内村圭宏が出場停止でいなかったりと、FWの選手がなかなか揃わなかった。コマ不足が解消できれば、攻撃面でもよりよい結果が生まれてくるはずです。

――その攻撃の“コマ”の部分では、クラブ得点王(18ゴール)の内村選手が札幌に移籍し、田中俊也選手も退団しました。一方で経験と実績のある福田健二選手が加入します。これから補強も進んでいくと思いますが、現時点では福田選手を中心としたチームづくりになるのでしょうか?
バルバリッチ: 福田は非常にすばらしい選手です。彼のような実績も知名度もある選手が来てくれたことで、チームのレベルアップはもちろん、クラブのあらゆる面で好影響が出てくることでしょう。
 ただ、彼だけに頼ることはできません。サッカーは個々の力だけでなく、チームで戦わない限り結果は出ませんから、なるべく彼に負担がかからないチームづくりをしたいと思っています。周りの選手が彼を助け、彼が周りの選手を助ける。このほうが彼も自分らしいプレーができるはずですし、私もそれを望んでいます。ですから「彼に何点獲ってほしい」といったプレッシャーをかけることはしたくありません。

――愛媛は今季、クラブ新の開幕3連勝と絶好の滑り出しでした。ところが夏場には11試合白星なしというクラブワースト記録も更新してしまいました。いいサッカーをしても、それが持続しない。この課題をクリアするにはどうすればいいでしょうか?
バルバリッチ: あれだけケガ人が出れば、好不調の波が大きくなるのは仕方ないでしょう。今年に関して言えば、監督が途中で代わって、私も選手もお互いのやり方に慣れる時間が必要でした。選手たちの意識を変えるには、まず私が選手をよく理解しなくてはいけない。その点でチームを立て直すには時間が必要でした。来シーズンは極力、波が出ないよう、しっかり準備をして臨みたいと考えています。

――ズバリ、来季の目標を教えてください。
バルバリッチ: 私が指揮をとってからの6敗のうち4試合のスコアは0−1。勝ったゲームも1−0です。つまりJ2クラブの力の差はほんのわずかでしかありません。来季の目標は(クラブ史上最高の)8位以上。特にサポーターのみなさんには、今季、大きな借りをつくってしまいました。それを1試合1試合、結果で返していくつもりです。そしてホームゲームでは7,000人、8,000人とお客さんがスタジアムに来ていただけるクラブにしたい。これがもうひとつの目標です。

――2010年は勝利後のラインダンスがたくさん見られることを期待しています。
バルバリッチ: 楽しみにしていてください(笑)。その自信はありますから。


<イヴィッツア・バルバリッチ プロフィール>:愛媛FC監督
1962年2月23日、ユーゴスラビア(現クロアチア)・メトコヴィチ出身。現役時代はボランチ、DFと守備的な位置で活躍。スペインリーグ1部のブルコスCFなどで中心選手として17年間プレーした。旧ユーゴスラビア代表にも選出され、前日本代表イビチャ・オシム監督の下、ドラガン・ストイコヴィッチ現J1名古屋監督らとともに1988年のソウル五輪に出場。引退後はスペイン・アルメーリアCFコーチを皮切りに 今年までボスニア・ヘルツェゴビナリーグのNKシロキ・ブリェーグ監督及びボスニア・ヘルツェゴビナ代表コーチを務めていた。NKシロキ・ブリェーグではチームを1度の国内リーグ優勝及び2度のカップ戦準優勝に導いている。今年9月より愛媛FC監督に就任。

(聞き手:石田洋之)